同級生からの提案
本文を修正いたしました。※12/17 4:54 追記
土曜日の一件で真白と仲良くなったが、挨拶くらいはするもののクラスの中ではまだ話すことは無かった。
彼女とたまに目が合うことくらいだろうか。
今まで殆ど話もしなかったクラスメイトと、急に話が出来るほど総司にはコミュニケーション力が無かったからだ。
彼女の周りに人が集まっているせいで、話しかけにくいというのもあるにはあるが。
そうして傍から見ていると、昨日、真白の言っていた通り、彼女に話しかけるクラスメイトたちは、真白と話が合わないのは気にしていないと言うのが理解できた。
いや、少し違う。相手がずっと話しているだけで、それに真白が愛想よく対応するという構図だ。
なるほど、言われてみればよく分かった。
「お? 何やねん? お前が極夜を見つめてんのは珍しいな。金曜日、学年の奴らと食べに行ったんやろ? そん時になんかあったんか?」
真白の周囲を観察していると、隣でニマニマした笑みを浮かべる関西弁の友人、馬竜飛角が話しかけて来る。
「ちょっと喋っただけだ」
彼女とがっつり話もしたし、なんなら家にも入れたが、面倒くさくなりそうなので総司は話さないことにした。
それに、真白も初めは趣味の事を話しづらそうにしていた。
下手に話すわけにもいくまい。
騙すようで彼には申し訳ないが、控えめに答えておく。
「んで、好きになったんやな」
「ねぇよ。人間そこまで単純じゃ、いや単純だな。現にあの辺の奴らはそうかもしれん」
「せやな。あれ、自分らが一方的に喋ってるだけってことに気付かへんらしい」
飛角は哀れなものを見るように、半ば吐き捨てて言う。
「お前、気付いてたのか?」
「逆に言うけど気付かん奴おるんか?」
「いや、告白とか男子に遊びに誘われて迷惑そうにしてたけど、教室で話してる時は愛想良いし、楽しそうにはしてるのかなって。言われてみれば一方的だな。ははは……」
「お前なぁ」
総司が乾いた笑いをすると、彼に白い目で見られた。
「ま、どうでもええわ。その内、落ち着くはずや」
「そう思うか?」
「多分な。まだ六月半ば、高校生になりたてで舞がってるんやろ。男子共の告白とか近づいて来るのは無くなりはせんけど、今のような状態がずっと続くとは思えん。夏休みにもなれば、はっきりグループも出来るしな」
「そうか」
総司は彼の推測を聞いて安心した。
見ていて、真白も大変そうだなと思ったからだ。
彼女も本当は自分の趣味や好きな事で、友達と話したいだろう。
総司と趣味の話で盛り上がった時の真白は、生き生きとしていた。
真白を友達と呼べるかどうかは分からない。話が盛り上がっただけのはずだ。
積極的に関わろうとはあまり思えない。
でも、もし彼女がクラスの中で自分だけとしか趣味が合わなかったらどうなのだろうか。
その時、自分はどうするのだろう。
彼はふとそう思いつつ、真白の方から視線を外した。
# # #
「晩御飯は何にしようか」
冷蔵庫の食料が切れ始めていたので、総司は学校からの帰り道にスーパーへ寄っていた。
「これ、美味そうだな」
ぼそりと言いながら、総司は出来合いの冷凍の焼き魚数種類と、安い外国産の調理済みステーキ肉や殆ど調理を必要としない食品類をかごに入れて行く。
その他、ジュースやお菓子など適当に、約一週間分の食料を確保すればレジに並ぶ。
順番を待ちつつ、一、二分が経ったところで、突如後ろから凛とした聞き覚えのある声で話しかけられた。
「あ、司さん?」
「極夜か。土曜日に続いてこんな所で会うとはな」
「前にも何度か見かけたけどね」
彼女と生活圏が近いのか、以前から何度かは見かけていた。
普段から会話をしないクラスメイトだったので、どちらも話しかけなかっただけだ。
だが、彼女から話しかけてくれると言うことは、ある程度クラスメイトとして距離が詰まっていたのかもしれない。
やはり、趣味で話が合ったのが良かったのだろう。
「で、そのかごの……」
「なにか気になるか?」
「健康的な生活をしようとしてるのは分かるけど、ちょっと不経済」
総司が持つかごの中身を見やった彼女にそう諭される。
「ふむ」
「出来合いのものより、普通にお肉や魚を買う方が断然お得だよ」
「それは分かってるんだけどな。どうしても自分で作るより美味しいから」
一度、体調を崩してから料理をするようになったが、ある程度の調理の技術は身に付いても、数こなさなければ上手くはならないのが料理と言うものだ。
結局、スーパーで調理済みの商品を見つけてからは、しっかり料理することは少なかった。
「指もまだ治って無さそうだし、良かったらまた作ろうか? 料理もついでに教えてあげられると思う」
「別に気に病んだりすることないからな? そう言うの面倒だろ」
「そうでもない。でも、司さんが迷惑って言うなら」
「迷惑ではないけどさ」
「だったら、ちょっとだけボードゲームの話とかのついでにどう?」
真白は優しい少女だ。
言葉や態度ではそれほど気にしてない風に接してくるが、殆ど関わったこともなく、趣味が合うだけのクラスメイトを気に掛ける理由は怪我のことしかない。
総司の方が逆に悪い気分になってきた。
「まぁ、それなら。けど、親御さんも帰りが遅くなったら心配するだろ? 家が遠いならやめにしよう」
高校生とはいえ、帰りが遅くなるのは色んな意味で総司も心配だし、彼女の家の人らも心配になるはず。
男友達ならともかく、同級生の女の子ではまるで話が違う。だから、総司はそんな条件を付けた。
「一人暮らしだから。大丈夫」
「だとしてもだ」
「家はここから歩いて五分。まっすぐ向こうの公園の裏にあるアパートだから」
「公園の方か。ってめっちゃ近いな。そのアパート俺の部屋から見えるし。今まで、よく登下校で同じ道にならなかったもんだ」
「運動も兼ねて、公園の方をぐるっと回って来るから」
「ああ、そういう」
「それより、家が近いなら大丈夫?」
「そうだな。じゃあ、お願いしよう」
「うん」
総司がお願いすると、彼女は少しはにかんだ。
そうして、経済的な買い物となるように、総司は店内をもう一度回ることになった。
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