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名前で

たった、数時間でしたがジャンル別日間1位になってましたw


「ふぅ、なんか元気な人だったな」


 総司は二号室に着くなりそう漏らす。


「うん。めちゃくちゃ怒られてたけど。はいどうぞ」

「おう、さんきゅー」


 ローテーブルの前に座ると、真白は苦笑しながら、自室から持って来たお茶を二人分並べてくれる。

 この二号室で過ごすことが定着化し、すっかり総司の部屋に彼女が訪れることも少なくなっていた。


 夏休み中はこのアパートでアルバイトをするから、よりここで過ごすことも多くなるだろう。

 随分と自分の生活も変わったなと総司はふと思った。


「それにしても、凄い人だった」

「自然と受け入れてしまったというか、初対面なのにそれを感じさせないというか」

「友達多そうな人に見えるね」

「ああ、絶対人脈広いタイプだよな」


 一花についての感想を二人で述べ合う。

 どちらも彼女の勢いに呑まれてしまった感が否めなかった。


 初対面でぐいぐい来たり、軽々しくはあっても所々で他人を気遣えたりするなど、総司と真白は彼女に良い印象を持った。


「高校時代の恩師の元に転がり込むとか、大抵の人は出来ないだろうな」


 彼女の言動には難があるけれど、行動力と言えばいいのか、卒業しても堂々と恩師を頼れるというのも一花の褒められるべき部分だろう。


「五十嵐さんの人柄もあると思うけど、それでもほとんどの人は無理だしね」

「大学生ってあんな感じなんだろうか」


 二人は高校生になってまだ四か月弱。

 総司と真白には、彼女らがとても大人という感じがして、少し憧れるような感覚があった。

 

「すぐに私たちを名前で呼べるところとかも凄いと思う。ああいう人が友達をいっぱい作れるのかな」

「だよな。普通は出来ないもんな」


 真白は本当に凄いなと感心しながら、どこか羨ましそうだ。


 教室では彼女に、およそ友人と呼べる関係のクラスメイトはいない。

 学外限定で話したり遊んだりする、総司くらいなものだろう。

 最近では、雪菜や飛角とも仲良くなってきているようだが。


 総司もあそこまで自分にコミュニケーション能力があれば、真白ともっと早く友達になれたのだろうかと思案したりした。


 二人は「俺には無理だな」「うん、私も」と口々に言い、微笑を浮かべたが、コミュニケーション能力において、一花との差を痛感して押し黙ってしまった。


 だが、


「…………そ、総司さん……わわ! やっぱ何でもないっ! えっと聞こえてなかったりする?」


 少しの間、沈黙が流れたかと思えば、急に真白が彼の名を呟く。


 ただ、すぐに我に返ったかのように慌てふためいて、都合の良い展開にならないかと真白が、彼に尋ねてみる。


「いや、がっつり聞こえたけど」


 そのように彼は冷静にツッコんでみるが、まさか自分の名前を口にされるとは思っておらず、真白が慌てなかったら彼が大きな反応をしていただろう。

 今のはそれほど破壊力が強かった。


 鼓動が早くなるような感覚で、上手く思考が回らない。

 言葉では表現しにくい何かが、総司の胸の内を駆け巡る。


 飛角や他の男友達に名前を呼ばれてもどうとも思わないが、真白から呼ばれると気恥ずかしさを感じて冷静さを保つのに苦労した。


「うぅ……」


 真白はどうして口に出してしまったのだろうかと、後悔と羞恥から小さくなっていた。


 総司も顔を突き合わせて女子から言われるというのが、どうにも落ち着かなかった。

 雪菜に呼ばれてもそうなるのかは分からない。


 でも一つだけはっきりしたのは、彼女と少しだけ距離が近づいたという事。否、近づけるという事だった。


「こういうのって自然にそうなるのが普通だから、わざわざ意識して呼ぶのはなんか変な気はするな。でも、別に名前で呼ぶだけだし、友達ならそれほどおかしくないんじゃないか?」


 縮こまっている真白に対し、総司は率直に考えた事を口にした。


 本来は友達に対して「今から名前で呼びます」とか言わないものだが、二人にはまだどこか遠慮をしている部分があった。


 だから、総司はこの機会でなければ、彼女と気軽に名前も呼び合えないんじゃないかと思って、そう言ったのだ。


「ん。確かにそう。名前くらい普通。友達だもんね」


 彼女は心做しか友達と言う部分を強調して、噛み締めるように口に出し、うんと頷く。


「なぁ、真白?」

「な、何?」


 彼女は総司に名前を呼ばれた瞬間、目をぱちくりとさせる。


 総司が自分の名を口にされると思っていなかったように、それは真白も同じだったらしい。

 急に自分の名前で呼ばれて、彼女はびくりと体を震わせれば、彼に恐る恐る短く漏らす。


「名前で呼んでみようと思ったんだが、変だっただろうか? 嫌ならやめるけど」

「や、やめなくていい! 嫌じゃないから。名前で呼んでくれて大丈夫」


 もし嫌がるならやめようと思い彼が言った瞬間、彼女は恥ずかしさで顔を逸らしていたが、こちらに振り向き語気を強めて総司に告げる。


「そ、そうか。じゃ今度からは名前で呼ぶことにしよう」


 それほど彼女が強く否定するのが予想外で面食らったが、彼女が拒否しなかったから、次からは名前で呼ぶことにする。


「うん。私も総司さんって名前で呼んでいい?」

「もちろん。けど、さん付けは少しずるいだろ。俺はそのまま呼んでるのに」

 

 彼女が遠慮気味で、まだ呼び捨てにすることが出来ず「さん」付けにすれば、総司は軽く不満を溢す。


「そ、総司…………く、ん」


 そうすると、彼女は一度、彼の名を口に出すが、やはりまだ恥ずかしいのか二秒ほど間を空けて付け足す。


「まぁ、いいかそれで」


 これ以上は求めても強要っぽくなるし、イジメるみたいで可哀想だと彼は妥協することにした。


「あ、でも、まだ他の人がいるところでは、呼べないかもし、れ、ない……」

「俺も無理かもしれん。はは! ま、とりあえず自分が呼べる時だけにしようか」

「ん。そうする」


 真白はおどおどと、人前では無理だと消え入りそうな声で総司に伝える。


 それは彼も同じだった。飛角や雪菜の前ではおそらく急に彼女の名を口には出来ないだろう。


 無理をすることでもない。

 総司と飛角がそうだったように、真白とも自然に人前でもいつか名前で呼ぶ時が来るはずだ。


「総司くん……」


 真白はぽつりと言い、少々赤らんだ表情で柔和な笑みを見せた。


 名が呼ばれたのだから、自分も「どうしたんだ真白?」と呼び返そうとしたが、彼は真白の笑みを目にすると、ふと恥ずかしくなってやめてしまった。


 結局、総司はぶっきらぼうに「なんだ?」としか言えなかった。

22時に投稿する予定でしたが、思ったより帰ってくる時間が遅くなってしまい投稿できませんでした。すみません。


明日も同じ予定ですが、最悪投稿が出来ないかもしれません。その時は活動報告にてお知らせします。


本作品を面白い、続きを読みたいと思われましたら、ブックマーク登録、目次の下にあります☆☆☆☆☆に色を塗って評価などをして頂ければ、

大変嬉しく思うと同時に励みになりますので、よろしくお願いいたします。



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