ケーキの甘さと……
しばらくして、彼女が戻って来る。
お盆を持った真白が現れたかと思えば、その上にはケーキと飲み物が見えるが、余程気に入ったのだろう一緒にうさぎの置物がちょこんと乗っていた。
「駅前のお店で買って来た。一緒に食べよう」
真白に促されて総司はテーブルに着くと、チョコレートケーキとショートケーキどっちが良いかと聞かれたので、総司は迷わずショートケーキを選んだ。
すれば、でかでかと瑞々しいイチゴが乗ったショートケーキと紅茶が出された。
「かなり甘いけど、美味いな。これって確か、この間テレビで紹介されてたやつじゃないか?」
ショートケーキは見た目よりずっと甘かった。
クリームもスポンジも思わず表情が緩むほど甘い。ただ、上品な甘さで気分が悪くなったりはしない。
ケーキのほとんどが甘い半面、イチゴの酸味が印象的でバランスの良さを感じる品だった。
味わっていると総司は数日前に見たテレビ番組の事を思い出す。
「ん。司さんが勉強を頑張ってたから、私が作るよりご褒美に相応しいかなって」
「そんなことないけどな。何なら俺はお前が作るやつの方が好きかもしれん」
「ふぇ!?」
総司は正直に評価を述べただけなのだが、真白はびくんと体を跳ねさせて腑抜けたような声を出した。
けれどもすぐに彼女は落ち着きを取り戻して「そ、そう?」と聞いてきた。
「ああ。うどんもクッキーも、その他もすんげぇ美味かった」
「ん。だったら嬉しいな」
彼女はぱくりとチョコレートケーキを食べてはにかむ。
「でも」
「でも?」
「でも、まだまだこのケーキには勝てない。この苦みの中にあるコクは私じゃ出せないし。ほら、食べてみて?」
彼女は一口食べてからそう言いだした。
「あ、い、いや、その」
フォークに刺さった一欠片のチョコレートケーキが、急に口元へ差し出され総司は狼狽える。
人に食べさせて貰うのは高校生がすることじゃないし、それにこれは巷で有名なあーんというやつだ。彼は躊躇う。
しかし、真白が食べないの? と首を傾げるので、自分だけが意識しているように思えて、総司は勢いに任せぱくりとフォークを咥えた。
「どう?」
「う、美味いけど、普通に苦い感じだな。コクは分からん」
脳内は味覚よりも羞恥心がリソースを占めており、総司はちょっと味が分かっていなかった。
しかも、いきなりの状況に焦って自分で感じた味と違う事を述べる。
本当は苦みではなく、どうしてか甘さだけが伝わってきていたのだが。
「司さんて子供舌なのかな?」
「うるせぇーよ」
からかってくる真白に、総司はふんと顔を逸らして紅茶に口を付ける。
すると彼女は「可愛い……」と呟き、笑みを溢した。
「はい、もう一つどうぞ」
何を思ったのか真白は、またフォークにケーキを刺して、総司の口元まで運んでくる。
「遠慮する」
「苦いのは嫌い?」
「そうじゃないけど、貰ってばかりだとそっちのが無くなるだろ?」
もっともらしい事を言う総司だが、実際はもう一度食べさせて貰うのが恥ずかしいだけだ。
「じゃあ、司さんのも分けて」
「ああ、いいぞ。ほれ」
彼女がショートケーキを指差すので、総司は食べさせられるよりはまだマシだなと、一口大にフォークで切り分けたケーキを真白の目の前に差し出す。
「…………」
だが、真白はそれを見つめるばかりで一向に食いついてこなかった。
「どうした?」
「あの……、これ、ちょっと恥ずかしい」
だそうである。
真白は自分が食べさせられる側になって、ようやく恥ずかしい行為をしていたことに気付いたらしい。
彼女は耳まで紅潮させ少し涙目になっていた。
「今気付くなよ……」
総司は総司で忘れてようとしていた恥ずかしさを思い出させられて、このタイミングかよと呆れるようにするが、もちろんその頬は赤い。
「ほら、俺だけに恥ずかしい思いをさせるな」
「う、うん。いただきます」
もう、いっそのことだ。
こんな空気に耐えられなくなった総司は、少々強引にケーキを食べるよう勧める。
真白も食べないわけにはいかないと察したのか、おずおずと口を開きフォークを咥えた。
「美味いか?」
「……(こくこく)」
総司に問われても、彼女は恥ずかしさで声を出せないのか頷くだけ。
小さくなってもぐもぐする真白を見続けられなくった彼は、誤魔化すように紅茶をずずっと飲み干す。
その後、真白が「あま……」と誰にも聞こえないようなか細い声で呟いた。
今日は一話を三回分割した形になっていましたが、実はなんと! この本話を書いている途中丸々消えてしまって、書き直していたからなのです! 本当は2分割のつもりだったのですが……
一言で言って、最悪でしたw
というわけで本日三度目の投稿となります。
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