テスト勉強のお礼
「極夜のおかげでテスト結果がめちゃくちゃ良かったぞ。教室であれだったから、知ってると思うけど」
総司は件の部屋にやって来るなり、そこで待っていた真白と顔を合わせれば、開口一番にそう言った。
この部屋は五日間限定の予定だったが、勉強を見てもらうにあたり真白の負担を考えて、最近はここで会うことが多くなっていた。
「うん。知ってる。よく頑張った」
真白は総司に向かって、柔和な笑みを向けるとサムズアップしてくる。
教室では大々的に出来ないので、その反動なのか「ぐっじょぶ」と声にも出して彼を労った。
「そっちも凄かったみたいだな」
「まぁ、いつもより勉強したから」
「俺に時間を使ってたし、てっきり勉強時間は少ないと思ってたんだが」
「教えることも勉強になる。自分でも気付くことがいっぱいあった。ありがとう」
お礼を言うのは彼の方だが、真白が先に口にした。
それには彼女の性格がよく表れていると思う。
どんなことでも嫌がらずに教えてくれたし、こうしてお礼まで言ってくるのだから、どれだけ出来た女の子なのだろうか。
それに比べて自分はどうなんだ、と彼は少々卑屈的になった。
「言い忘れたけど、ありがとうな」
「ん。これで夏休みも楽しめそうだね」
「だな。それとこれ」
総司はしっかりお礼の言葉を伝える。
そうして、彼は右手に持っていた白いポリ袋を突き出した。
「これは?」
「この前と同じでお礼だ。かなり勉強も教えてもらったから。エアコンの件でも助けてくれたしな。俺に出来ることはこんなもんだけど」
釣りに行った時、彼は感謝を込めて贈り物をしたが、あれは誕生日プレゼントの意味合いの方が強い。
今回は、勉強を教えて貰ったお礼とテストも終わったのでお疲れ様というつもりで、贈り物をしようと考えていた。
それに前に彼女の喜びようを見て、また喜んでくれればと思ったのは内緒だ。
「また、ありがとう」
前回は戸惑い気味だったが、今日はにこやかな表情を見せながら真白は受け取ってくれる。
それは真白から信頼されている証拠だし、友人として距離が近づいたかと思えば、総司は嬉しくなった。
「あ……うさぎ?」
総司が是非開けてみて欲しいといい、真白は袋の中からそれを取り出した。
袋から出てきたのは、手のひらサイズのうさぎの置物だった。
置物とは言うが、やわらかい素材で出来ており殆どぬいぐるみみたいなものだ。
「芸が無くて悪いな。この前はそれが一番反応が良かったから、兎が好きなのかと思って」
我ながら安易にまたうさぎを選んできたのは、ちょっと恥ずかしかった。
他の物にもしようかとも考えた。けれど芸が無かろうが、安直だろうがやはり喜んでくれるのが一番だ。
「芸がないとかそんなことは無い。うさぎは好きだからすごく嬉しい」
ふるふると首を動かした真白は表情を綻ばせ、それをぷにぷにと触ったり、回転させて全体を眺めたりしていた。
言葉通り本当にうさぎが好きみたいだ。
にしても、やはり真白の表情は反則だろう。
何度見ても慣れないし直視しづらいが、それだけ喜んでくれているということでもある。
プレゼントのチョイスは間違っていなかった事に、彼は胸を撫で下ろした。
# # #
「司さんはプレゼントが上手だね?」
「そうかぁ?」
真白はひとしきりうさぎの置物を愛でた後、総司に顔を向けてそう言った。
人からそんなことを言われたことは無かったので、あまりしっくりこない。
女子にプレゼントを贈ったことが真白が以外に無いのだから、当たり前ではある。
彼はただ喜んで貰えればとの一心だったから、こんな評価を貰えるとは望外の喜びだ。
「うん。オンナゴコロが分かるってやつ? 実はプレイなボーイ?」
「そうだったら、今頃はハーレム生活だな」
真白が茶化すような表現したので、総司も同じように冗談で返す。
「それは私がちょっと困る」
「えっ?」
すると、表情を曇らせて真白がそう答える。
総司は彼女の言葉にドキッとした。
「だって、そうだったら私と友達になってくれなかったかもしれないし」
ただ、総司が想像した理由ではなかったらしい。
(何考えてんだ俺は。現実的にありえないだろ……)
内心で、早とちりしかけた自分を戒めて「そんなことないと思うけど」と返答すれば、真白は「そっか」とどこか嬉しそうにしていた。
「あ、そうだった。あれを忘れてた」
「どうした?」
何かを思い出したのか、急にはっとした様子の真白。
「えっと、私からも少し早いけど、プレゼントというかご褒美がある」
「ほう」
勉強をするたび、何かしら用意していてくれたりしたのだが、総司が試験終わりにプレゼントをしたように、彼女の方でも準備があったらしい。
「ちょっとまってて」
うさぎを大事そうにしながら、真白はパタパタと部屋から出ていった。
夕方に投稿すると言いつつ、遅れて申し訳ないです。
それと、一日のPV数が一万を超えました。
いつも感想やブックマーク、評価などありがとうございます。
本作品を面白い、続きを読みたいと思われましたら、ブックマーク登録、目次の下にあります☆☆☆☆☆に色を塗って評価などをして頂ければ、
大変嬉しく思うと同時に励みになりますので、よろしくお願いいたします。