同級生とふとした遭遇
2つ目の『# # #』から下に、三行付け足しました。話の内容に大きな変更はありません。※12/14 4:57 追記
タイトルを少しいじりました。※12/17 4:06 追記
それは振り向いた瞬間だった。
真白に別れを告げて帰宅しようとした矢先の事で、総司が雪菜の声を聞き、姿を見たその一瞬フリーズしてしまった。
後ろでは、真白も「え?」と呆けている。
全く予期せぬ事態に彼は頭を悩ませた。
「奇遇だな……」
まさか知り合いに真白と一緒にいる場面を、目撃されてしまうとは思いも寄らなかったが、誤魔化すことは出来まい。
彼はだらりと冷や汗をかきながら雪菜に短くそう発する。
「えー、そのなんと言いましょうか。はい……奇遇ですね」
彼女の方も戸惑っているらしく、雪菜は言葉が出てき辛いようだった。
ただ、コミュニケーション能力と適応力は高く、次の瞬間には総司の背後にいた真白に近寄って会釈する。
「あのう? 三組の極夜さんですよね? わたくし、五十嵐雪菜と言います」
「わ、私は極夜真白。初めまして、えっと確か馬竜さんの彼女さん?」
雪菜が丁寧に腰を折り、自己紹介をすれば真白も多少慌てたが、同じように頭を下げて挨拶をする。
二人の所作は育ちの良い家のお嬢様を伺わせるような雰囲気がある。
学年で一、二を争う美少女同士の邂逅の瞬間に居合わせた彼は、自分が場違いな所にいるのではないかと錯覚するくらいだった。
「はい! よくご存じで! 馬竜飛角はわたくしの恋人です。それでわたくしは、彼の友人である司さんとも仲良くさせて貰ってるのですが、あなたも司さんとお知り合いだったのですね」
「うん。そんな感じ」
「そうでしたか。なるほど」
真白と雪菜はお互いの関係を把握し合う。
すると、雪菜は総司へふと視線を送り、意味深な笑みを向けて来る。
「なんだよ。急に笑って」
「いえ、なんでも。失礼しました」
ふふふと笑い声を溢したかと思えば、「ふむふむ、そう言うことで……」と独り言を呟きつつ、彼女はやはりまだニマニマしていた。
頭の良い雪菜の事だ。おそらく、先日総司が相談した事に結びつけたのだろう。
雪菜が何を勘繰っているのかは、大体想像が付く。
理解力の良さも考え物だなと、彼は密かに面倒に思った。
# # #
「それでなんで、五十嵐がここにいるんだ?」
一通りやり取りを済ませたところで、総司は一番の疑問を雪菜にぶつけた。
総司はこの周辺が生活圏だが、今までは辺りで彼女を見かけたことは無かった。
雪菜の家までは、ここからだと歩いて三十分は掛かる。彼氏である飛角の家も逆方向なので、彼女がどうしてここにいるのか謎だった。
「わたくしはこのアパートに用事がありまして」
総司の質問に彼女は答えつつ、真白の部屋があるアパートに顔を向ける。
「そうだったのか」
「ええ、今年の夏はここでアルバイトの予定ですから」
「ん? よくわからん」
雪菜の言葉に総司は新たな疑問を抱く。
アパートでアルバイトとはどういうことだろうか? 普通アルバイトと言えば、お店だったりどこかしらの施設を思い浮かべるのだが。
「実は、わたくしの叔父がこのアパートを管理しているのです。その叔父が、今年長い間旅行に出かけるとのことで、代わりに手伝うことになっていまして」
「なるほどな」
雪菜は見かけ通りの良家の令嬢だ。
その彼女の親戚が、不動産などを経営していても何ら不思議ではない。
さらに、この辺りで五十嵐と言えば昔は大地主だったらしく、現在も土地や町の開発事業なんかに関わっている大きな家だ。
彼女の親族には県議会議員などの有力者も少なくない。
もしかすれば総司の暮らしている部屋があるマンションも、五十嵐家に関係のある建築物の可能性は大いに有り得る。
それくらい雪菜の家は大きいものだった。
「ええ。ですから早い内にと思いまして本日、伺いに来ておりました。それで、いざアパートに到着したら、お二人をお見掛けした次第です」
彼女から説明された事情は以上だった。
雪菜と遭遇してしまったのは、タイミングが悪かったと言うに他は無いだろう。
総司と真白はやましい関係ではないし、雪菜と飛角のように甘い関係でもない。
一見して隠すような間柄ではないのが、真白の事情や学校での立ち位置を鑑みれば、こうして一緒にいる所を学校の生徒に見られるのを避けていた。
ただ、見つかったのがまだ雪菜で良かったのだろう。
彼女は人の気持ちを正確に汲み取れる、数少ない信頼のおける友人だ。
変な噂を流したり、気分が悪くなるようなからかいは絶対にしない。
そう思えば、運は良い方なのかもしれない。
「で、こう言うのも申し訳ないんだが、俺らの事はあまり他言しないでくれると嬉しい。クラスとか学年の奴らが知ったら、絶対に面倒くさくなるし。五十嵐もその辺は分かるだろ」
総司は、頭を掻きながら困り顔で頼み込んだ。
それを受けて、雪菜はちらりと真白の顔を窺うと、彼女がこくこくと頷いているのを確認する。
「はい、ではそうしましょう」
「すまん、助かる」
「ありがとう五十嵐さん」
雪菜はパンッと手を打ち、笑みを浮かべ快諾すれば、総司も真白も軽く頭を下げた。
「まぁ、わたくしもお気持ちはよく分かりますから。……クラスの阿呆と来たら、鬱陶しいことこの上ないですし」
「え?」
「いが、らし……さん?」
雪菜も真白に匹敵しうる人気ぶりだ。加えて家柄も相まって、周囲の反応には悩まされてきたのだろう、真白に強く同情していた。
ただ最後、小声でぶつぶつと言っている内容には驚かされた。
# # #
雪菜にはある程度掻い摘んで、総司と真白の事を話しておいた。
彼女のクラスでの立ち位置、学校外では趣味の合う友人関係を築いていることなどだ。
それに伴って、彼はもう一つお願いをしようと考えた。
「あと、もう一つあってな。とりあえず、飛角には黙っておいてもらえるか? アイツも悪いようにはしないとは思うが、俺がだるい。頼まれてくれるか?」
飛角にもいずれは、真白と仲が友人であることは話すつもりだが、今はこの話題でやかましい彼の相手をするには疲れるのだ。
恋人に隠し事させるのは申し訳ないが、総司はこの際だと先日彼女に電話で相談した時のようなことを言った。
「あ、ははは……それはどうでしょう? ちょっと難しいのではないでしょうか」
「そうか。えっと、理由を聞いても良いか?」
彼女は総司の頼みを聞けば、苦笑気味にとても歯切れ悪く言葉を並べている。
やはり、恋人に隠し事をするのは、物理的にも精神的に難しいのだろうか。
そう彼は思ったが雪菜の次の一言で、状況を把握することになった。
「その、後ろに」
「後ろ?」
雪菜が気まずそうにして、口にした単語を彼が反復すると、元気の良い声音が背後から聞こえて来た。
「ま、こういうことや。残念やったな。相棒!」
「いたのかよ」
ニィと歯を見せて笑い、調子の良い口ぶりで彼は現れた。
突如、後ろから現れた彼に真白が地味にビクンとしており、飛角は「すまん、すまん」と彼女に声を掛けてから雪菜の隣に立った。
「はぁ……」
「そんなため息つかんでもええやないか。僕悲しいわ」
「お前の顔はそうでもなさそうだが?」
飛角の放った言葉とは裏腹に、彼の表情がすでに笑っている。白々しい奴めと総司は呆れた。
「こうなったから、仕方ないか……あのな、『みなまで言わんでもええで』」
総司が言いかけると、それを遮って彼は肩を組んでくる。
「雪菜との会話は殆ど聞いとったし事情も分かる。何より彼女が黙ってる言うてんねんから、それに僕は同調するつもりや。心配はいらん。これまで通りや。なぁ?」
「珍しく聞き分けの良い奴だな。でもありがたい。さんきゅ」
軽薄で賑やかな彼だが、小さな子供ではない。
友人の頼みを無視して、楽しむようなことをするつもりでは毛頭ないようだった。
彼との会話に体力を使うことはままあれど、嫌だと思った事は一度もない。
状況に応じて気持ちを汲んでくれるのだから、やはりいい友人なのだろう。
総司は言葉以上に内心で感謝した。
「さてまぁ、かくかくしかじかあったけど、今年の夏はよろしくやで」
「まさか、お前もこのアパートでバイトをするのか?」
「そやで。雪菜一人やと大変過ぎるやろ。実はお賃金が結構ええみたいやし」
まさかとは口にするが、彼がここに現れた時点で総司は察してはいた。
カップル二人揃って管理人のアルバイトをするらしい。
大変仲のいいことだ。
「極夜さんも、今後ともよろしくお願いしますね」
「うん。よろしく」
男子二人会話していると、その横では女子同士いつの間にか仲良くなってるいるようで、にこやかに握手をしていた。
真白が積極的に人と仲良さそうにするのは珍しい。
総司の友人であることも関係しているのだろう。良い方向に事が進んで安堵する。
「夏休みが楽しみやな」
「ああ、その前に試験があるけどな」
「自分、しっかりしぃや」
「大丈夫、私がどうにかするから」
「そうですね、いざとなればわたくしもお力添えしますので」
「お前ら、まるで俺がどうしようもない奴みたいに言いやがって」
総司と飛角の会話に女子二人が加わり、自然と談笑が始まる。
いずれは四人でと総司の考えていたことが、思わぬ形で実現することになった。
その後、総司が真白から勉強や料理を教えて貰っていることや、趣味が合うことなどを二人に話した。
今年の夏休みは真白と遊ぶか、飛角やその友人らと適当に過ごすと思っていたが、どうやら少々賑やかな夏季休暇になりそうだった。
今朝、投稿した前話の後書きと上部の前書きでも触れたのですが、嬉しいことにジャンル別の日間ランキングに本作が乗っておりました。
92位から朝、70位に上がったかと思えば、昼頃には38位まで上昇していてびっくりしております。
現在は26位となっており、うっとりひたすら眺めていましたw
ですが、某慢心王を反面教師にこれからも頑張ってまいりますので
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