同級生と半日ぶりの再会
タイトルを少しいじりました。※12/17 4:06 追記
「まだ、痛いな」
ベッドの上で昨日、負傷した右手の人差し指をさする総司。
腫れてはいるが病院に行くほどではないので、総司は救急箱を引っ張り出してきて簡単に包帯を巻いた。
「こんなもんか。んで、今日はどうするか」
時刻は現在、午前十時半過ぎ。
溜まっていた漫画も読み切ったし、熱心にプレイしているソシャゲのスタミナも切れて、やることがなくなったところだ。
一人暮らしなので、親に買い物を頼まれたりすることもないし、土曜日だから学校へ行く必要もない。
つまり、暇だ。
総司はどうしようかと思案する。
「そういや極夜のアレ、店にあるかな。よし、ボドゲ屋にでも行くか」
昨日、彼女が持っていた雑誌の事を思い出す。
加えて彼の趣味の一つにボードゲームがあり、地元のボードゲーム屋にはよく行っていたが、こちらに来てからはまだない。
すでに、店の場所は見つけてあるし、ちょうどいい機会だ。
彼はボードゲーム屋に向かった。
# # #
駅前の通りから少し歩いた所に、そのボードゲーム屋はある。
初めて来る店なので、わくわくして店内をぶらついていると、総司は良く見知ったというか、約半日前に会話した少女と遭遇した。
「あれ? 極夜?」
「え?」
まさかのエンカウントだ。その瞬間、総司は負傷した指をズボンのポケットに突っ込んだ。
だが真白はすぐに気が付いて「あっ」と声を出す。
「いや、これはその、」
適当に誤魔化せばいいものを、彼は面白いくらいに挙動不審だった。
これでは昨日の事に関係があると白状するようなものだ。
真白も彼の様子を見て確信したらしい。口元を手で押さえていた。
「ごめんなさい。昨日、私が驚かしてしまったから」
「大丈夫、大丈夫。ほんの少し痛いだけだ。念のために処置してあるだけで、元はと言えば、俺が鞄を引っかけたのが悪い。だから気にしなくていいから」
真白は顔面蒼白になってペコペコ頭を下げるが、本当に重症ではないので総司は困ってしまう。
「でも怪我はしてるから病院とか、治療費ぐらいは」
「スポーツやってたし、これくらいならすぐに治るって分かってるから、そんなに謝られたら俺が困る」
「やっぱり、こういうことはちゃんとしないと。大丈夫かどうかは私が判断するから。手、見せて」
総司が明るく振舞っても真白は引き下がらなかった。
しっかりしているとか義理堅いというよりも、禍根や遺恨を残さないための行動に思える。
総司も彼女に気にさせたままにするのは申し訳なくなって、包帯を取り指を見せた。
「やっぱり、ちょっと赤黒くなってる」
「内出血だろうな。これくらい本当になんともないんだが」
「手当は包帯だけ?」
「軽く固定してたらいいかと思って」
「ちゃんと湿布は貼った方がいい」
彼女は呆れるように言う。
確かに、湿布を張るべきだろうが面倒くさいのでそれはしていなかった。ただ、寝る前に痛みが引いていなければ、湿布を張るつもりではあった。
「湿布買いに行くから。付いて来て?」
「良いよ別に。家にあるからもったいないし」
真白がコンビニがある方を指差し、行こうと少し腕を引っ張られる。
湿布が家にあるのは、本当の事なので断ろうとするが、
「………じゃあ、司さんの家に行こう。そこで私がちゃんと治療するから」
「分かった」
そう言いきられてしまい、総司は頷いてしまった。
# # #
店から総司が住んでいる部屋まで徒歩二十分ほど。
道中、会話は殆ど無いまま、二人は総司の部屋に辿り着た。
「ちょっと待ってろ。救急箱を取って来る」
「うん」
真白を部屋に上げる必要は無いが、流石に玄関で待たせるのは気が引けるから中に案内し、ソファに座らせる。
(まさか、こんな形で女子を部屋に入れるとはな)
小、中学生の時は友人たちと遊んだ時に女子が彼の部屋に来たことはあるが、男女入り混じっていたことと、家族が住んでいる実家だった。
一人暮らしを始めてからは初めての事だ。妙に落ち着かない。
「はい、これ救急箱な。じゃあ、手当を頼むわ」
「分かった」
真白は渡された救急箱を開け、そこから湿布と包帯、はさみと医療用テープを取り出す。
手を出してと言われ、総司は怪我をした指を見せると、真白は彼の指の大きさを図り、湿布をその大きさに切っていく。
切った湿布を彼女は丁寧に張り、包帯も綺麗に巻き付けて仕上げにテープで止めた。
その手際は良い。総司もスポーツ経験者なだけあってこういう手当は上手だが、いかに自分が適当な人間か思い知らされる。
「はい。お風呂に入る前に取り外して、そのあと今のようにすれば治ると思うから」
「分かってる。ちゃんとする。な、もういいだろ? わざわざ休日に出かけてたそっちの時間がもったいないし」
「うん、強引でごめん」
真白は苦笑しながら立ち上がる。強引だと言う自覚はあったようだ。
彼女の優しい性格の事だし、申し訳さなからこうしたまでだろう。総司がいい加減なのが悪いところもある。
彼は感謝も込めてちゃんと真白を見送ろうとしたが、リビングを出る直前で彼女の動きが止まった。
「あれは?」
「ん? あの棚のことか?」
「そう。置いてあるのってボードゲーム?」
真白が部屋の隅の棚を指で指す。
その棚は総司が持っている大量のボードゲームや据え置き型のゲームが仕舞ってある棚だ。
「そうそう。和洋問わず色々あるけど興味があるのか? いや、さっきボドゲ屋にいたんだからそりゃそうだよな」
「うん。ボドゲは趣味だから。あなたもボドゲが趣味だったりするの?」
「趣味と言えるほど入れ込んではないけど……まぁこれだけ集めてたら趣味にはなるか」
「そうなんだ」
真白はちょっと嬉しそうに呟く。
「ボドゲはリアルでやる友達は少ないから、最近は仁天堂のアソブ大全集とかで遊んでるけど」
「アソブ大全集面白いよね」
「極夜もゲームとかやるんだな」
「うん。ソシャゲも。ほら、このゲームとか今ハマってて」
真白がスマホを取り出してゲーム画面を見せて来る。
そのゲームは総司が今朝、遊んでいたスマホアプリゲームだ。
意外だった。ゲームとかあまりしていなさそうなイメージだったが、彼女も現代っ子らしい。
ちょっとだけ親近感が沸いてもう少し、何か話そうかと思った。と、そこで総司の腹がぐぅと鳴る。
「お腹減ったの?」
「朝、何も食べてなかったしな。早いけどそろそろメシにするから、極夜も帰ったらいいぞ」
「その手で作るの?」
「ああ、まぁ、簡単にうどんにするだけだから大丈夫だ」
「この際だから、私が作る」
急に立ち上がった真白が言う。
「手当もしてくれたのに、そこまでしてくれなくても」
「怪我の治療は当然だし、お詫びはまだしてない。だから、ご飯くらいなら作る」
「もう好きにしてくれ。うどんの材料は全部冷蔵庫にあるから」
「そうする」
彼女が強引なのは、すでに短い時間だが理解出来ている。
何を言ったところで聞かないだろうから、彼は素直に真白に昼食を作ってもらうことにした。
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