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初めてのプレゼント

「楽しかった」


 釣り堀で楽しんだ二人は、昼からどうするか相談した結果、昼食を摂ってから帰ることにした。


 今は口コミで評判のパスタ屋へ来ており、料理を待っている間だ。

 彼女は足をプラプラさせて満足そうに言う。

 

 釣り堀ではシマアジ、ブリ、ヒラメ、イシガキダイ、真鯛を釣り上げた。

 上々の釣果を思えば、気分が良くなるのも当然だった。


「楽しんで貰えて何よりだ」

「また行こう」

「ああ。今度は別の場所に行ってみるのもアリかもな」


 釣り堀で真白を抱きとめた件の後、総司は気まずくなるかと心配したが、特にぎこちない空気が流れるようなこともなく、楽しく釣りが出来たのは良かった。


 落ち着いた今でも、会話が弾んでいるのは僥倖だ。

 

 しかし、彼には一つ問題があった。

 

(プレゼントはいつ渡すべきだろうか)


 前日に買いに行ったプレゼントを渡すタイミングについて、総司は悩んでいた。


 待ち合わせしたタイミングで渡しても良かったが、駅前やり取りをするには雑過ぎる。

 料理を待っている今でも良いが、それではなんだか告白やプロポーズっぽくて変に気にしてしまう。


 昼食後は魚を分け合うために一度総司の部屋に寄るので、適切なのはそのタイミングだろう。

 だが、総司が用意したプレゼントは匂いに関係するモノなので、魚を捌いたりした後では渡しづらい。

 部屋に戻って即というのもタイミング的には適切かわからない。


 どうしたものかと、悩んでいるとウエイターが料理を運んでくる。

 一旦、総司はプレゼントに関する思考を放棄した。


         # # #


「美味しそう」

「パスタにエビってなかなか豪勢だな」


 運ばれてきた、互いの品々は見るからに美味しそうだった。

 

 真白は半熟卵付きのカルボナーラとコーンスープ、総司は大きなエビが乗ったアラビアータパスタにオニオンスープを頼んでいた。

 

「「いただきます……う、うまぁ~(美味しい)!」」


 二人は手を合わせれば、待ちきれんとばかりにパスタから食す。

 すれば両者共に満面の笑み、表情を輝かせる。


 総司が頼んだアラビアータパスタは、ピリ辛でエスニックな風味が口腔を駆け抜けるような痺れる旨さがあった。


 エビもぷりぷりで食べ応えがあり、絡んだソースに良く合っている。

 また、にんにくやハーブ類も目立ち過ぎず、隠れ過ぎずと絶妙で食欲を駆り立てて来る。

 合間に口にするオニオンスープも憎いほどに、主役パスタの旨さを引き出していた。


 一方、真白が注文したカルボナーラは、優しい味わいだった。

 ソースは卵黄のみを使っており、濃厚でクリーミー、それでいて全然重ったるい感じがしない。

 

 パスタの上に乗った半熟の卵を割ればさらに濃厚になる。

 パンチェッタの塩気、チーズの良い香り、どれをとっても格別だ。

 コーンスープもまろやかで、カルボナーラと相性が良かった。


「流石は評判の店だな」

「来て良かったね」


 二人は料理に舌鼓を打ち、めいいっぱい至福の時間を過ごした。


         # # #


「戻ってきてしまった……」


 結局、プレゼントを渡すタイミングが分からずじまいで、とうとう部屋まで戻ってきてしまった。

 未だに背負っているリュックサックの中に、プレゼントが残っていた。


「どうしたの?」

「いや、独り言だ気にしないでくれ」

「そう……?」


 彼はごまかしつつ、クーラーボックスを台所へ運ぶ。

 

(さて、渡すなら今か、後か)


 悩んでみるが、帰って来る間に決まらなかったのだから、そう簡単に結論を出せるわけがない。

 総司はまだ葛藤する。

 

「あ、捌くの手伝う」

「助かる」


 総司がクーラーボックスを運んだのを見て、荷物を置いた彼女がそばにやって来る。

 

 そして、まな板の上に魚を取りだそうとして、クーラーボックスのロックに手を掛ける瞬間、


「あー、なんだ、そのちょっと、なんというか、待ってもらっていいか?」


 総司は少々しどろもどろになりながら真白を制した。


「なに?」

「えっとだな、魚を捌く前に少しだけ良いだろうか? リビングに来て欲しいんだけど……」

「ん? 分かった」


 よく分からないといった面持ちで、彼女は頭上にはてなマークを浮かべながら、リビングへ向かう総司に付いて行った。


 総司はリビングまで来ると、机に置いてあった自分のリュックサックから洒落た紙袋を取り出した。

 

「これ一応普段、世話になってるお礼と言うか、この間の誕生日のプレゼントも兼ねたものなんだが……極夜にと思って」


 こうしてちゃんとプレゼントをしたことが無い総司は若干照れており、微妙に顔を下に向けて逸らしながら紙袋を真白の前に差し出す。


「え?」


 急な展開に真白は目をぱちぱちとしばたたかせる。


「もし、良かったら受け取ってもらえるとありがたいんだが」

「うん。……もちろん」


 彼がそう言えば驚きつつも真白は受け取ってくれた。

 ただ、どことなく警戒するような瞳と困惑した様子なのは異性から直接、しかも二人きりだからだろう。

 

 けれども、真白はそこそこ彼を信用しているようで、すぐにソレは引っ込めた。


「開けて良い?」

「どうぞ」


 彼が答えると、真白は紙袋の口を止めていたシールを綺麗にはがし取って中身を一瞥する。


「キーホルダーとキャンドル?」

「あと、スマホ用のクリーニングクロスが入ってる。多くて申し訳ない。どれを気に入ってもらえるか分からなくて」


 前々日、総司が雪菜と相談した結果、使いやすいものが良いだろうとなった。

 本来は一つ、二つ程度に絞って渡すべきだろうが、喜んでくれるか心配になった彼は三つ用意していた。


「こんなに沢山……ありがとう。あ、うさぎのキーホルダー、可愛い」


 真白は目を細めながら、紙袋の中にあったキーホルダーを手に取る。

 これは雑貨屋でたまたま見つけたもので、総司も一目で気に入った品だ。


 うさぎの形を象ったそれはステンレスで出来ており、一見無骨そうに見えるがデザインはとても可愛らしい。

 丈夫で鞄や何かに付けても壊れることもないだろうと思ったのが選んだ理由だ。


「キャンドルも良い匂いがする」


 次に彼女が手に取ったのは、アロマキャンドル。

 これは雪菜が勧めてくれたもので、使えばリラックス効果が期待できるし、そうでなくても見た目的にも飾るだけでもお洒落で、総司も即決で購入を決めた。

 

「クロスもありがとう。実用的でとてもいい」

「喜んでくれるなら、プレゼントしがいがあったよ」


 三つとも真白的に貰って嬉しいものだったようだ。

 彼女は気遣いの出来る少女なので、普段ならそう言っているだけと思うかもしれないが、今日はそうでないと総司には確信があった。

 

 どのプレゼントを見つめても、真白の目は優しくあって、口角も僅かに吊り上がっている。

 これで、本心ではそうでもない風に思っていればとんでもない演者だ。

 

 総司は無事に贈り物を渡せて、今日一番の安心をした。


「でも、なんでわざわざ?」

「言っただろ? 普段のお礼だって。料理を教えて貰ったり、前には片付けも手伝わせたしな。お菓子も作ってくれたし」

「でも、それは今日、一緒に釣りに行ってくれたし」

「それじゃ、俺が手軽に済ませてるみたいだったし、誕生日には渡せなかったけど、これくらいはしとかないと釣り合わんだろ」


 総司が何もしなくても、彼女は全く気にもしないだろうし、真白だって総司の誕生日を知ったところで、こんな風に祝ってあげようとも思いはしないだろう。

 

 友人関係だとは思っているが、それほど親しいかと言われればまだ答えにくい。

 

 けれども、せめてもいつもやってくれていることへの、お返しぐらいはしておこうといった彼の考えだった。


「気を使わせた……? あ、私も司さんの誕生日に何か……」

「やめてくれ。何度も言うがこれはお礼だ。そっちが喜んでくれればそれでいいし、何かして欲しくてしたわけじゃない」

「そっか……ありがとう」


 真白がそんなことを言い出したので、彼はちょっと強めの口調で自分の真意を改めて伝える。

 すれば彼女は、頷いてプレゼントを抱きしめるよう、その言葉を噛みしめるように呟いた。


 ふと、真白の顔を見れば、慈愛に満ちた微笑みを浮かべており、心の底から純粋に喜んでくれているのが分かった。


 気遣いだとかお返しだとか、もうそんなことは気にしてない様子だ。

 ボトルシップを完成させた時も同じような笑みを見せたが、真白が本当に喜んだ時に見せるのが、この笑顔なのかもしれない。


 彼女の綺麗で女神みたいな表情を目にして、総司は心臓が跳ねる音がした、という表現を初めてすることになった。


「司さん、恥ずかしがってる?」

「言うなって、余計恥ずかしいだろ。人に、それも女子に贈り物をするなんて慣れてないんだよ」


 ドキドキとしながら喜ぶ真白を眺めていると、彼女は先ほどの女神のような笑みから、悪戯っぽい表情に変えて総司に指摘した。


 図星だった彼は頬を掻き、真白から一歩距離を取り本音を溢す。


「ふふっ、こんな風にプレゼントを貰うのは初めてだから同じ。私もちょっと恥ずかしい」


 真白は照れながら苦笑気味にそう漏らすのだから、可愛いと言うほかない。

 

 自分は美人に絆されたり、美人局には引っかからないと思っていたが、こうも男は単純なのだから、怖いものだと感じる。


 彼は何を言おうか迷いつつ「そうか」としか返せなかった。


「本当にありがとう。大切に……する」


 そして、聞こえて来た囁くような真白の声についぞ、反応できなかったのは少し情けなかっただろうか。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

最近、少しずつですがブックマークや評価が増えてとても嬉しく思っております。本当にありがとうございます。


それと全話の後書きで書き忘れましたが、なんで夏の時期の話を私はこんな真冬に書いているんでしょうね。

季節感が無さすぎて自分でも笑っております。


いっそのこと毎日五話ずつ投稿すれば、クリスマスに間に合うんじゃね? と危険思想を抱きましたが、自分の命を考えてやめました。


次々回あたりから、本格的に夏のお話になりますが、お楽しみいただければと思います。

 

また、面白い、続きを読みたいと思って頂けたら、ブックマーク、☆☆☆☆☆に色を塗って評価などをして頂ければ、大変嬉しく思うと同時に励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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