友人は見ていた
今朝の一件から、総司には困っていることが一つあった。
「ちょww おま、有名人じゃんww ってならんかったなぁ」
「なってたまるか」
それは、昼休みになった今でさえ、朝の件をこのように飛角が茶化してくることだ。
コンビニでの一部始終を、他の生徒が見ていたのだろう。困っている真白を誰かが助けたという、噂はすぐに広まっていた。
幸いなのは、助けた人物が総司であると判明していないことだ。
真白は目立つし有名人なので、名前付きで噂が広まるのだろうが、総司はごく普通の男子生徒。
交友関係をそれほど広げようとしていない分、誰だか認識され辛かったらしい。
しかし、なぜか目の前にいる飛角だけは、総司がやった事だと突き止めていた。
「クラスメイトを助けるとは、流石は僕が見込んだ男やで」
「うるせーよ。にしてもよく俺だって分かったな?」
ポンポンと肩を叩きつつ、彼は人の悪い笑みを浮かべる。
総司は鬱陶し気にそれを振り払いつつ、真白を助けた”犯人”が自分だと突き止めた推理の経緯を訊いてみた。
「ああ、それな。部活の時にグラウンドの外を見たら、お前が彼女と歩いてたんが目に入っただけやで? せやから、カマかけたら見事に、っちゅう訳や」
推理も何も無かった。
一応、真白が変な噂が立つのは総司に迷惑だと言って、学校近くで離れたのだが、どうもグラウンドからは見えていたらしい。
つまり、ただ単に総司がバラしただけだった。
「性格の悪い奴だな。彼女に嫌われるぞ?」
「うはは! それは無いわ。僕の彼女、僕より腹黒なんやで。これくらいで嫌われるなんて、あらへんあらへん!」
カマをかけられたお返しにせめてもと嫌味を言ったが、彼は高笑いして手を左右に振るのみで全く通用しなかった。
しかし、
「あら? 飛角さん? 誰が腹黒なんでしょうか?」
「へ?」
飛角の後ろに怒りを滲ませた声でにっこり笑う美少女がいて、その声を聴いた瞬間、彼の表情は凍り付いた。
「これは、教育が必要みたいですね」
「雪菜、待ってーや! ちょっとした冗談やんか!」
「冗談でもこんな綺麗な恋人に、あんなことを言うなんてひどいお方です。では、懺悔と参りましょう」
五十嵐雪菜。飛角に優しくそして凄みのある顔で、微笑む少女の名だ。
彼女は二つ隣のクラスに所属する生徒で、飛角の恋人である。
長い黒色の髪に、端正な顔立ち、ピンとした背筋と丁寧な言葉遣い。育ちの良さを窺わせる、真白とはまた違った美少女だった。
「総司、助けてくれ。まだ死にとうないんやっ!」
「南無三、南無三」
救いを求める親友に向けて、彼にしてやれることは手を合わせるだけだ。
「司さん、彼をお借りしていきますね」
「そいつは貴方の物ですから。どうぞ真人間にしてやってください」
「ご友人の許可を頂きましたし、では行きましょうか飛角君」
「うぎゃああああ!」
雪菜と総司は短く言葉を交わせば、彼の意志など関係ない。
飛角は断末魔を響かせながら引きずられて行く。まったく、仲の良いカップルである。
「あ……」
親友を見送ってしばらくぼぅっとドアの方を向いていると、どこかに行っていたらしい真白がたまたま帰って来て、視線がぶつかった。
目が合ったとか言葉を交わしたくらいで朝の事がバレるわけはない。
だが、飛角の所為で用心深くなった総司は目を逸らそうとする。
しかし、その前に真白が彼に向けて小さく笑ったのが見えた。
「ふふっ」
「え?」
彼は思わず反応してしまったが、取り直して次の授業の準備を始める。
「お? 極夜さんが笑ってる! なんか良いことあった?」
「やっぱ、朝の事?」
「誰に助けて貰ったか教えてくれよー」
すれば彼女の席の方から、クラスメイトが矢継ぎ早に真白へ話しかける声が聞こえて来た。
総司は見向きもしない。
これが教室での真白との距離だ。
関わるのは放課後くらいなものだが、いずれは飛角や雪菜などと一緒に、真白と教室で談笑する日が来るのだろうか。
そう薄ぼんやりと考えながら、総司は鳴り響く予鈴を聞きつつ友人の帰りを待つのだった。
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