同級生の災難
朝、通学途中、総司は偶然真白を見つける。
彼女はコンビニの駐車場脇で、教室にいる時のように複数の生徒に話しかけられていた。
ただ、今日は少し様子が違う感じがした。
総司はスマホをいじるふりをして、あたかも興味無さそうな通行人へと擬態し、そばにあった電柱にもたれかかって様子を見る。
「放課後、今日の放課後ちょっとだけでいいから、俺たちと遊びに行ってほしんだけど!」
「俺ら三人さ、極夜さんと仲良くなりたいんだよ」
「ま、早い話、放課後遊んでさ、もしよかったら俺たちから一人選んで、付き合ってほしいんだよね。まじで、迷惑はかけないから。どう?」
それぞれ茶髪、黒髪、金髪とカラフルな男子生徒三人が彼女を、囲うようにして話しかけている。
少し離れたところからでも、聞こえてくる声はやかましいと言うより不快だ。
もちろん、女子を囲んでいるのも見ていて不快である。
「ごめん。放課後は用事があるから」
当然のように真白は断る。
周囲から見えづらい場所ではあるものの、店のすぐそばだ。
はっきりと断られた彼らも引き下がるだろうと、総司は干渉しないようにして学校へ再び足を向けようとした。
「もしかしてデート? それだったら、俺ら諦めるよ?」
「違う。けど、友達との約束があるから」
「んじゃ、頼む! その友達には悪いけど、俺らも高校生活掛けてんだよ! 夏休みまでに彼女欲しくてさ」
「約束だし、それは無理だからごめんなさい」
「そこを何とか頼むって!」
だが、馬鹿がいた。いや、馬鹿共だ。
真白が苦笑いをするから、それを彼らはまんざらでもないとでも思ったのだろうか、全く引き下がる気配がない。
「放課後駄目なら、今からどっか行っちゃうか!」
「あーいいね。学校一日くらい行かなくたって大丈夫でしょ。極夜さんも、いつも真面目だし非日常を味わってみるのもさ、いい経験と思って。ね?」
「嫌。今から学校に行くから。ちょっと、どいて」
珍しく彼女は本気で嫌がり、不快そうな表情を表に出してそう言えば、彼らを押し退けようとする。
「待ってって、ごめん。謝るから!」
「あ……っ!?」
その場から離れようとした真白を、茶髪の男子生徒が彼女の手首付近をガシリと掴む。
すぐに、彼女は怯えるように声を上げた。
アウトだ。流石に無視することは出来ない。
総司は速足で彼女のいる場所へ行く。
「嫌がってるだろ。それはやめとけよ」
大体一メートル弱まで近づいた彼は、いつもより低い声を発する。
見た目に迫力があるタイプではないので、ちょっとでも威嚇になればと意識しての事だ。
「司さん!?」
先に真白が気付いたようで、驚いた様子でこちらを見やる。
その瞳には『助けて』と、SOSのサインが宿っていた。
「何? 君、誰?」
真白を掴んでいた少年が、悪びれる様子もなく総司と同じように低い声で喋る。
どこか、イラついているようだった。
「俺の事を聞くより、先にやることあるだろ。その手離しとけ」
きつく言ってやるのが良いだろうと、総司は強めの口調で彼を責めた。
「あーと、俺らさ極夜さんと話してただけなんだよね。ちょっぴし齟齬があったみたいで、揉めたみたいになってるけど、お前の介入は大丈夫だから。ね? どっか行ってくれる?」
しかし怯むこともなく横から黒髪の男子生徒が、敵意を向けてくる。
(面倒過ぎる。はぁ……)
うざそうに内心でため息をついた、総司は一、二歩踏み出して、躊躇いもなく真白を掴む茶髪の少年の手を握ると、強引にねじるよう引き寄せた。
「ぐっ!? ……っ!」
その腕は変な方向に曲がりそうになって、思わず真白の手首を離す。
彼は苦痛から、顔を歪めていた。
「おい! 暴力は!」
「彼女に対しては、そっちが先だろ?」
金髪の男子生徒が彼を非難するが、総司は淡々と言い返しつつ引き寄せた手を開放する。
「もう、やめとこうぜ。こいつ絶対、停学とか気にしないやつだって」
唐突に黒髪の男子生徒が、仲間と総司を諫めようと割って入ってくる。
先ほどは、あんなにも威勢が良かったのに随分な変わりようだった。
「だるいわ。もういい、行こうぜ」
と、茶髪の男子生徒はダサすぎる捨て台詞を吐いて、仲間を引き連れて逃げるようにその場を去った。
「極夜、大丈夫か?」
「私は何ともないよ……」
三人が背を向けた後、総司は真白を心配して声を掛けた。
もう、怯えるような気配はなくなっているが、まだどこか不安そうではある。
笑って彼に大丈夫だとアピールしようとするも、彼女の表情は微妙に引き攣っていた。
「そうか。なんともないなら良かった」
「迷惑かけてごめん」
彼女は悪くないだろうに、律儀に総司に頭を下げてまで謝る。
その行動には真白の性格が良く現れていた。
「お前が謝る必要ないだろ。それにクラスメイトが困ってるのに、見ない振りしたら多分、親友に見限られる。なにより、俺が後悔するし」
「うん、本当にありがとう」
総司がそう言えば、彼女は頷いて微笑んだ。
「だいぶ時間取られたけど、まだ間に合いそうだな。そろそろ学校へ行こうか」
「そうだね。遅刻しそう」
ホームルームが始まるまで、あと十五分だ。
総司と真白は、急ぎ足で学校へ向かった。
「そう言えば、今日はこっちから来たんだな」
「公園の方は工事中だったから。今日はこっちから行くついでに、コンビニに寄ったら絡まれた」
「それはタイミングが悪かったな」
学校へ向かう途中、二人は会話しながら歩いていく。
普段、真白は運動を兼ねて通学路を遠回りするため、こちらの道を通らない。
なので総司は不思議に思っていたが、どうやら道を変えた途端、不幸な目にあったらしい。
「でも、司さんが助けてくれたから」
「それに関しては、タイミングが良かったよな」
「出番を待ってたヒーローみたいな登場でびっくりした」
「あー、うん。そうだな」
まさかしばらくの間、見ていたとは言えないので、総司は半笑いになりながら歯切れ悪く答える。
「ちょっと怖かったから、司さんが通りかかって本当に良かった」
「というか、俺の方が怖くなかったか? いつもは気を付けてるけど、もともと口が悪い方だし。強引に相手の腕も捻り上げたし」
総司は喧嘩慣れしていないので、どういう風に対処して良いのか分からず、あのようなやり方になってしまった。
自分でもガラは悪かったなと思っている。
真白にどう思われたか心配で、彼は不安げに尋ねる。
「全然」
「そうか?」
ただ、それは杞憂だったようだ。
なんなら、彼女はどうして? と首を傾げるぐらいだ。
「うん。それに……」
「?」
「なんでもない」
真白は言いかけて、言葉を止める。
何を言おうとしたのかは分からないが、自分について悪い印象を抱いていないのならそれでいい。
安心して彼は登校することが出来た。
「なぁ、総司? 朝、極夜を助けたんやってな?」
しかし、総司が教室に着くなり親友から、そう声を掛けられた時には頭を抱えた。
今日の休みの時間は面倒になりそうだ。
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