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同級生と完成の喜び

タイトルを少しいじりました。※12/17 4:06 追記

「ここんとこ、なんか忙しそうやな? バイトでも始めたんか?」


 昼休み、中庭の芝生広場で飛角と昼食を摂っていると、彼は卵焼きをつまみながら言ってくる。


「してない」

「ほな、彼女でも出来たんか? しかも、別の学校の」


 彼の指摘は間違ってはいるが、真白と会う機会が増えているので当たらずとも遠からずだろうか。

 感の鋭い男である。


「なんでそう思うんだよ」

「そら、そうやろ。友達が付き合い悪くなって、んでバイトでも無いっていうんやから、彼女関係疑うわな。で、お前が学校で女子と会ってる気配もない。じゃあ、学外の女子やって思ったんや。どうや、当たっとるか?」


 彼はドヤ顔をしていて、とても自信満々だ。

 恋愛でもないし、違う学校の人物でもないが、女子と学校の外で会っているという点は的確だった。


「違う違う。ていうか、習い事とか趣味とかそういう選択肢もあっただろ。なんで、恋愛一択なんだよ」

「まず、春休みにだらしない食生活をするような、適当な人間が急に習い事を始めるとは思わんやろ。んで、趣味の方やけどそれなら僕との会話に出て来るはずやし。なら、後は恋愛だけやと思ったわけやな」

「確かに矛盾はしてないし、筋は通ってるな。多分」


 出会ってからたった二か月半ではあるが、この友人は人の事をよく見ている。

 悪友と言うべきか親友と言うべきなのか分からないが、総司は彼のこういう所を信頼していた。

 

「それで、結局はどういうことなんや?」

「趣味関係だ。けど、たまたま学校の外で同じ趣味の人を見つけたから、人と会ってるってのは正解だな」

「相手は同い年くらいの女か?」

「あ、ああ。まぁそうだ」

「やっぱり恋愛絡みやないか! もっと話聞かせてや」


 妙に食いついて来る飛角。

 そんなに人の恋愛に興味があるのだろうか。

 彼には付き合っている女性がいるので、彼女持ちとそうでない総司ではまた感覚が違うのかもしれない。


 これは、真白と会っていることは絶対に明かせないなと総司は思った。


 飛角が言いふらしたりはしないのは、彼を信頼しているので断言できる。


 だが、真白が男子生徒を遠ざけているくらいなのだから、総司と真白が学外で会っていることを他の人に知られるのは嫌がるだろう。

 それは総司の望むところではない。


 総司としては、いずれ飛角と真白も含めて遊んでみたいとは思っているが、今はまだその時ではないはずだ。


「ねぇよ。この間、普通に友人って言ってもらったばっかりなんだぞ? そんな簡単に恋愛に発展してたら、この世の中またベビーブーム来てるだろ」

「お前のその感じ見てて思ったことが一つだけあるで」

「なんだよ?」

「総司、君はその人と絶対に恋愛に発展する。これだけは断言しといたるわ」


 ビシッ! と箸を向けてきて、彼はまるで予知した結果を伝える占い師のように明言する。

 

「あのなぁ、向こうは俺の手に余るくらい優秀で綺麗な人なんだぞ。俺に見向きなんてするわけないだろ」


 真白ほどのスペックを持つ少女が、どうしたら自分を好きなるのか、彼にはそんなビジョンが浮かばない。

 

 クラスメイト、友人としての距離感はちょっと普通ではないかもしれないが、それでもやはり友達以上の関係になるとは思えなかった。


「ほぅ、優秀で美人か。ええこと聞いたわ!」

「お前、誘導したな!?」


 にんまりしたと思えば、がははと飛角は満足そうに笑う。初めからこの手の情報を引き出す目的で、会話をしていたのだろう。

 彼の関西弁も相まって、喋り上手なやり手感をひしひしと感じる。


 その後、彼の質問攻めを躱すには苦労をした。

 何度、記憶にございませんと言ったか分からないぐらいだった。


                # # #


 放課後になり、総司は今日も真白とボトルシップ作りに励んでいた。

 先日から、プラモデルとボトルシップを日替わりで製作しており、すでに八日が経った。


 そろそろ今日くらいには、ボトルシップが完成するところまで進んでいる。


「早く完成させたいな」

「ただ早くしても、雑になるだけだから普通にすることをお勧めする。曲がったマストとか、瓶の中でバラバラになってもいいのなら、別に止めない」


 完成した姿を想像すると、ちょっとでも早く進めたくなってしまう。

 総司のはやる気持ちを、真白は脅すように忠告してくる。


 それに彼女の表情は曇っていて、妙にリアルな表現と語り口だったので総司は察する。

 ああ、一度経験があるんだな、と忠告には従うことにした。


「それは嫌だな。時間をしっかり掛けて作ることにするよ」

「ん。それが良い」


 そうして、彼女と一緒に何度も試行錯誤、悪戦苦闘しながら、ついにその時がやってきた。


「ようやく、ボトルシップの完成だ」

「うん。この時が一番たまらないから、あなたも味わってみてほしい」


 総司は手元で組み立てた船に軽い感動を覚える。後はピンセットでつまんで、瓶の中へ入れるだけだ。


 今回は、初心者用で簡単に組み上げられるもので、マストを折りたたんでから瓶へ投入するタイプの物を選んでいる。


「行ける。このまま、慎重に…………よしよし! 入ったぞ!」

「後はマスト立てるだけ。頑張って」


 ミスをしたら取り返しがつかなくなるという、緊迫感から震える手で総司はどうにか船を瓶の中に入れることが出来た。


 本当にボトルシップ製作のクライマックスだ。

 そして、彼はマストも瓶の中で立てて完成させる。


「やった! 終わったぞ。すげぇ。出来た!」

「おめでとう!」

「ありがとうな。お前がいなかったら、絶対ミスってた」


 何時間も掛けた末の完成から来るとてつもない達成感に、総司は腰が抜けそうになりながら感動する。


 真白が言った、たまらないという言葉の意味を彼は理解した。

 これは癖になりそうだ。


「楽しかった?」

「めちゃくちゃ、楽しかったぞ! 完成出来て本当に嬉しいな」

「ふふっ。喜んでもらえて良かった。私も教えた甲斐があった」


 彼女はとびきりの笑顔でそう言った。

 完成したボトルシップをうっとり見つめ、少し愛おしげに瓶を撫でている様子は、我が子に対して慈愛を向ける母親みたいだ。


 真白の物でもでなくとも、一緒に完成を喜んでくれているのだろうし、総司に楽しいと思わせたボトルシップに感謝してるのかもしれない。


 彼女は今までも微笑んだりすることは何度もあったが、こんな風に笑うことは無かった。

 そんな真白が自分以上の笑顔をし、天使や純真な子供を思わせるその笑みは本気で綺麗だと感じた。


(こんなに笑ってくれるなら、ボトルシップに挑戦して良かった)


 総司は彼女の喜びように、柔らかく微笑しつつそんな感想を抱く。


 なんというか照れるような妙な気持ちである。

 おそらく、これは昼の飛角の言葉の所為だろう。


 彼の『恋愛に発展する』というセリフに、意識させられてしまった結果だ。


 はっきり彼女に恋愛感情が無いことが自分では分かっているし、気の合う友人だと思っているが、これには異性として真白を可愛らしいと思わざるを得なかった。


「どうしたの? さっきより静かだけど疲れた?」


 総司が飛角の放った言葉にもやもやとしていると、真白が覗き込むようにして話しかけて来る。


「大丈夫だ。完成して、ちょっと呆けてた」

「私も初めて作った時は、気が抜けたようになったから、その気持ちは分かる。また一緒に作ろうね」


 言って、彼女はニコリとする。


 もうそれだけで先の笑顔を思い出して、総司はどうしてか微妙に恥ずかしくなった。

 

「次はちょっと難易度が高くても良いな。引き続き、ご指導頼みます師匠」

「うん。精進あるのみ」

 

 大げさにして敬礼する総司に彼女は付き合って腕組をしながら師匠っぽい? 演技をする。


「またやろうね」


 そうして、真白は今日何度目か分からない微笑みを見せた。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思って頂けたら、ブックマーク、☆☆☆☆☆に色を塗って評価などをして頂ければ、大変嬉しく思うと同時に励みになりますのでどうぞ、よろしくお願いいたします。


明日は自動車免許取得のために教習所に行くので、今日のように遅い時間か、朝の早い時間の投稿になると思いますが、もし投稿できなかったら申し訳ございません。先に謝っておきます。m(__)m

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