帰り際の約束
「ふぅ、ちょっと形が見えて来たな」
「でも、今日はここまで。次は料理の時間。また、ゆっくり教えてあげるから」
船体とマストを大まかに作ったところで、総司は一息を付く。夕食の時間が近づいてきた。
今日は学校があり、お互いに一度帰ってから着替えたりしていたので、準備時間を除けば作業に充てられるのは一時間ちょっとだった。
初心者用とはいえ、一時間で出来るのはこんなものだろう。
「汚れたところとかゴミの掃除は俺がするから、キットとか道具の片付けは任せていいか?」
「うん。了解」
それぞれ分担して、後始末をする。
「難しかったけど、結構面白かったな」
「司さんなら、ボトルシップの楽しさを分かってくれると思ってた。これが終わったら、次はちょっと難易度が高いのもやってみる?」
彼女は前のめりになりながら、楽しいでしょ? と誘ってくる。
どうやら総司はハマってしまったようで、次のボトルシップ作りが今から楽しみだ。
そんな彼を見て真白は、こちらの世界に引き込むチャンスだと思っているのだろう。獲物を逃がすまいとする虎のようだった。
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「やっぱり、極夜が学校の先生だったら良かったな」
「そんなに言うほど?」
夕食も作り終わり、彼女が帰る時間になった。
いつも通り、玄関で真白を見送る際、今日一度言ったことを彼はまた口にする。
「だって、教えるのが上手いのはもちろんだけど、こんな可愛い人に教えて貰うだなんて理想過ぎるだろ」
「え? あ、うん。そう?」
ボトルシップ作りが楽しかったことで、気が緩んでいたのか思わず本音が出て、彼は正直に可愛いとか言ってしまう。
すれば、真白は戸惑うように答えるのみで、彼から目を合わせようとしない。
「すまん。忘れてくれ。俺みたいなやつから言われても困るだけだよな」
「そ、そんなことは……ない。ちょっと驚いただけ」
総司はしまったと思い、無かったことにしようとする。
男子から可愛いや綺麗など、そんなありきたりな誉め言葉など何度も聞いただろうし、教室で迷惑そうにしている。
真白からすれば、嬉しくもなんともないだろう。
総司は自分が下心で真白に近づこうとする人間に、思われてしまったのではないかと焦った。
けれども彼女の反応を見るに、嫌ではないらしい。
ちょっぴり赤くさせている耳が、玲瓏な銀髪に隠されているので分かりにくいが、照れくさいと言った様子だろうか。
「いや、まぁ、嫌じゃないなら良かった」
「ん。てっきり、司さんは私に興味が無いと思ってたから」
「好きとか嫌いとかそう言う次元じゃないけど、お前は目立つし前から気になってはいたかな。クラスメイトとしてって感じだが」
恋愛感情を持っていなくとも、彼女ほど注目を集める少女に興味が沸かないわけが無い。
ただ、自分から積極的に関わるつもりが無かっただけで、クラスの男子のように、そこまでして彼女と話したいとは思わなかった。
ただ、こうして趣味が合って楽しく遊べる今となっては、もう少し早くに話しかけておけばよかったと後悔しているのも事実だ。
「司さんが馬竜さんと仲良く話してるのを何度も見かけたから、私はちょっとだけ羨ましかった」
「あ、そうだったのか」
真白は微笑むようでいて、どこか悲しそうに独り言みたく呟く。
総司の授業中や休み時間の話し相手は大体が飛角だ。
それを真白が羨ましいと思っていたのは、考えもしなかった。
確かに、彼女は趣味の合う友人が今までいなかったのだ。彼らの関係を自分も、と望んでいても不思議ではない。
「今は司さんと趣味の話が出来るし、遊べるから満足してる」
「なら良かった。俺もこれほど趣味の話をしたことも、共有したこともなかったからな」
「今度は司さんが好きなプラモデルの事も教えて?」
彼女はおねだりする子供のように、総司を見上げる。
こういう動作が一々、可愛らしいのだから、男子生徒が熱を上げるのも分かる気がした。
「いいぞ。ま、俺はギャンダムのようなメカメカしいのは好きじゃないから、部屋にあるのはアニメとか漫画のキャラのプラモなんだけどな」
「片付けの時に見た。私もアニメとか漫画もそこそこ好きだからやってみたい」
「開けてないやつが、まだちょうど二つ残ってるんだ。どこかでやってみるか?」
「おっけー」
彼女は言いつつ両手で丸を作る。
相変わらず、強く動揺したり恥ずかしがったりする時以外は、声に抑揚や表情の変化がないのだが、今のようにジャスチャーや体で表現してくれることに気づいた。
これも最近の事で、教室では見たことが無い。
真白が自分に対して、少しは信頼や友情を感じてくれているのであれば、嬉しくて昂るような気持ちになる。
「どこかでっていうより、明日からプラモデルとボトルシップを交互にやってみるのはどう?」
「それなら、明日はプラモの準備をして待ってるわ」
「うん。また明日」
「ああ」
自然と明日も会う約束をして、総司は彼女を見送る。
「ばいばい」
ガチャリとドアが閉まる向こう側、その一瞬の隙間で彼女は微かに笑いながら手を振っていた。
その姿に思わずドキリと、総司は胸が高鳴ったのを感じた。
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それにしても、趣味の話が出来る友人がいるのは良いですよね。
私はもっと、友達を作れば良かったと後悔しております。
というわけで、真白に私の分も頑張ってくれぇと思いながら、本作をお届けしていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。