同級生はおひとり様?
司総司が通う高校の一年三組には、男を寄せ付けない鉄壁ガードの美少女がいる。
同級生たちは、恋愛鉄壁と表現していた。
そう呼ばれる彼女、極夜真白は誰もが認める美少女だ。
彼女のトレードマークである、流麗な長い銀髪は風に揺れる度、比喩ではなく本当にきらきらと輝く。
それと対をなすように、彼女の肌は白磁に負けないくらいに美しい。
大きく透き通るような瞳にツンと高い鼻と淡いピンク色の唇。どれをとっても絶妙で、そう整った顔立ちをしていれば、人気が出るのは当然だった。
男女両方から人気があるのだが、特に男子からの人気は凄まじい。
モテる。とにかくモテる。言い寄って来た男子の数など総司が見かけただけでも、軽く五十は越えているかもしれない。
授業でも教師の質問や与えられた問題に難なく答え、中間テストの結果が張り出された時、三位の文字の下に彼女の名前があったのを覚えている。
人当たりも良く、自慢できるであろう自分の才能と容姿があるにもかかわらず、決して他人を見下したり馬鹿になどしないから、性格もおよそ咎められる部分が無い。
まさに才色兼備、温厚篤実と表現するに相応しい少女だった。
総司自身も、綺麗な子だなと思う。
だが、彼にとって真白とは、中学でも高校でも一人はいる凄く可愛い子。
そんな位置づけの同級生だ。
真白に対して興味はあるが、好意があるわけではない。
彼女が言い寄られて迷惑そうにしているのも分かっているので、無駄に話しかけたりはしない。
けれども、彼女の異変に気付くと放ってはおけなかった。
# # #
十数人ほどで軽く食べに行く話があって、たまたま総司も呼ばれて参加していた。
団体用の座敷部屋に陣取った面々は盛り上がっているが、一人だけ隅の方でポツンと座る少女がいた。
真白だ。
(体調でも悪いのか?)
普段は、男女共に人気のある真白が一人でいるのは珍しい。
一人でちびちびとオレンジジュースを飲んでいるだけで、微妙に顔色が悪いように見えなくもない。
しかし、本当に体調が悪ければ、人気のある彼女を誰かが気に掛けるだろうから、単純に休憩中なんだなと、スルーしようとした。
でも、もし誰も気付いていないだけだったら? そう、ふと思った彼はその場を立った。
「極夜、皆の所に混じらないのか?」
ストレートに聞いても、気を使って大丈夫と返されるだけと思い、総司はそんな尋ね方をする。
騒がしい場所だが声ははっきりと聞こえたようで、真白がゆっくりとこちらに振り向いた。
一瞬、睨んでいるような目で見られる。
いつもは人当たりも良く、話す機会があった時も、こんな風にはしないので尚更気になった。
「私が一人でいたらおかしい?」
ぶっきらぼうと言うか、感情と声音に抑揚がないような喋り方をする独特な彼女だが、それは真白の個性なだけで、愛想が無いわけではない。
実際、言葉を放った後は表情を和らげている。
「いつもは、色んな人といるからどうしたのかと思ってな」
「あなたはみんなの所に行かないの?」
「あーいや、そんなに友達が多いわけでもないし、今日も呼ばれたのも、たまたまみんなが話してる場にいたからだと思う」
「そう」
短く返してくる真白は頷いていたが、さほど興味は無さそうだった。
誰に対しても優しい彼女にしては珍しい態度だ。
やはり、休憩しているだけじゃないよな、と総司はもう少しだけお節介を焼くことにする。
「後な、一人でジュースを飲んでるから気分でも悪いのかと思ったんだよ。まぁ、こっちの方が話しかけた理由の本命なんだが」
彼はようやく本題を切り出す。
「大丈夫、体調は悪くない。お腹がいっぱいで眠くなってただけだから。気を使ってくれてありがとう」
「まぁ、それなら」
ニコリとしながら真白は話す。
教室内で見かけるいつもの優しい彼女に戻りつつあり、本当に体調が悪いわけでもなさそうだ。
これ以上はうざがられるだけなので、総司は何事もなくて良かったと自分の席に戻ろうとした。
「おっと!」
その時、足元にあった鞄の紐に足を引っかけてしまう。
中身がちらりと姿を現し、見えたのは雑誌だった。
(これって、確か……)
雑誌を持ち歩くこと自体は普通だが、この雑誌はあまり見かけることのないジャンルのものだ。
この場にいるどの若者よりも年齢が高い、それも男性が持っているイメージが強いものだったので、誰の物だろうかと不思議に思った。
「あ、蹴っちまった。悪いな」
わざとではないが、蹴ってしまったことを詫びながら、彼は片付けようとする。
「あ! それ、私の⁉」
「うわ!」
鞄と雑誌を拾おうとした総司だったが、急に真白が声を上げて鞄に手を伸ばしたので、総司は驚いて尻もちをついた。
「痛てぇ」
「ご、ごめんなさい⁉」
咄嗟に手を付いたがそれが悪かった。
臀部よりも、人差し指を負傷してしまった。
痛がった総司に対して、真白は慌てて謝って来る。
「謝らなくていいよ。それよりその鞄、極夜のやつだったんだな。蹴って悪かった。中身は大丈夫か?」
「う、うん。でも、あなたはケガしてない?」
「ん? ああ、声が出ただけだ。そんなに痛くもないのに声が出ることあるだろ。今のはそういうやつだから、気にするな」
「良かった」
変に心配させてもしょうがないので総司は嘘をついた。
本当はじんじんと指が痛む。けれども重症なら、今頃のたうち回ってるだろうから、大げさにはしたくない。
総司の気遣いの甲斐あってか、真白は安心していた。
「騒がせて悪かった。戻るわ」
「ねぇ? さっきの雑誌、見た?」
立ち去ろうとするが、不意に呼び止められ、真白が恐る恐る聞いて来る。
「ん? 見たけど?」
「そ、そう」
と答えれば、真白はなぜか落ち込んだ。
「最近、ブームになってるよな。極夜はそう言うのが好きなんだな」
「うん…………」
短く答える彼女は元気がなく、それどころか怯えるような表情をしている。
「なんか、そのジャンルでアニメ化した作品もあるし、史上最年少のタイトル持ちも現れるし、話題に尽きないよな。って、悪いな勝手に一人で語って。じゃあ、もう戻るわ。またな」
「あ……」
その雑誌のジャンルは、総司も気になっていた話題だったので、変に話してしまったが、雑誌を読んでいる真白の方が詳しいだろう。
にわかは嫌われる、とはっとした総司はその場からいそいそと立ち去った。
明日、もう一度彼女と出会うことになろうとは、つゆほども知らずに。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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一応は二十話ほど書き溜めておりますので、ある程度コンスタントに投稿できると思います。
それでは、今後とも本作品をよろしくお願いいたします。