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僕はものを書くことをやめてしまった。その代わりに、いいカメラを揃えて写真を撮る仕事をしようと思った。北島大成という同じようもない僕の友人は未だに書いているという。僕にはそれほどの力を持つほど面白い人生を送ったとも思えない。そして、僕が遭遇した風景、偶然、未知というものはきっと僕の思い込みだったのだろう。そうとしか思えないほど、日々は当たり障りないものとして過ぎてゆく。
大学で知り合った青柳という男の紹介で、今日は写真を撮ることになっていた。今の時刻を確認すると同時に、彼との会話に含まれた約束のことを確認する。少し上にスクロールしていくと他愛のない話の中にその会話はあった。
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5月8日(水)
青柳
『相川さ、今度の週末暇か?』
相川
『まあ、暇だね』
青柳
『そりゃ良かった』
『写真を撮ってほしいっていうやつが俺の知り合いにいるから、できればそいつの写真を撮ってあげてほしいんだ』
『もちろん、対価はしっかり出る。少なくともお前のメシ代と交通費ぐらいは出してやるってさ』
相川
『良いよ。無茶のない条件で、何に使うか教えてくれたら喜んで引き受ける』
青柳
『ありがと。そいつ、音楽活動をしてるんだけど、その活動に使う写真を撮って欲しいんだってさ』
相川
『なるほど。じゃあ、青柳はいつ、どこでどんな感じに撮りたいのか訊いておいて』
青柳
『わかった』
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僕にとって、それほど厳しい依頼ではなさそうだった。むしろ、人を被写体にできるのはそれほど得ることができないチャンスであったし、出かけることが出来るのは心身ともに良いことのように思えた。それから会話は特に変わることがなく続いた。頻繁になにか話すようなタイプではお互いになかったからだ。そして、さらにスクロールする。
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5月9日(木)
青柳
『この前の撮影の件、訊いてきたぞ』
『場所は砂浜がある海岸で、時間帯は明るいうちが良いらしい。』
相川
『なるほどね。この時期なら多分人も大丈夫だと思う』
青柳
『それなら良かった。じゃあ、細かい日時を決めよう』
『集合時間は午前十時、場所は――
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ここまで読んで僕はスマートフォンをかばんの中に放り込んだ。日付は間違いなく今日だったし、場所も大学に最も近い海岸の最寄り駅だった。そこは北島にとってもよく訪れるところであった。最悪、駅の方に行かなくても彼がここまで来るだろうと思っていた。
しばらく、というより何時間か経った頃に青柳が姿を見せた。集合時間より一時間ほど早かった。