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あの事故があった出来事から数日後、どうやら僕は転生してしまったらしい。


いや待ってほしい、確かに万人からすれば頭おかしいんじゃないかと言われるくらいには、自分でも頭のおかしいことを言っているという自覚はある。


けど現実を見て欲しい。

僕の体は重く、まだまだ筋力が発展途上な事を示し、しゃべる言葉はだいたいが母音や『あ』か『う』で発声器官の未熟さを感じさせる。

これを赤子だと言わずしてなんだというのか……。



「あ~う」



誰に向けてか自己弁護に耽っていると、ふとおなかのあたりに痛みを感じる。

あ、うんこ出そう。

こういう時には泣いて親を呼んで我慢する。



「おぎゃあ! おぎゃあ!」



俺が泣くと、近くにいたであろう両親であろう人が様子を見に来てくれる。

ここですかさず我慢していたうんこを放出する。



「あらあら、トイレかしら?」



おなかに詰まったものが放出されていく感覚を感じて、スッキリした気分になる。

最初はただ垂れ流していただけだが、最近ではおなかに溜まっているものを少しの間でなら我慢できるようになり、僕は肛門括約筋の成長を感じていた。

……未だに下着の中がうんこにまみれるのは慣れないけど、これでも最初の頃に比べたら随分克服した方だ。



「はい、終わったわよ~」

「あ~う~」

「ふふふっ、可愛いわね」



母親が僕の頭を優しく撫でながら、幸せそうな笑顔になる。


言葉に関しては、この数日でだいぶ理解することが出来てきた。

初めの頃は両親が何を言っているのかまったく理解することができなかったが、何が何を指しているのかを自分の中で変換すればそう難しいことではなかった。


時々両親もあれやこれやと指をさして教えてくれていたりしたから、あとはその物を見た目や文脈から察するだけでよかったのも大きく、文体がほとんど日本と同じで、動詞と名詞だったのも一役買っている。

赤ん坊の脳とはすごいもので、スポンジのようにぐんぐん知識として言葉を吸い込んでいく。

することがそれくらいしかなかったからっていうのもあったけど、赤ん坊っていうのは凄いもんだと感じさせられた。


ちなみに僕の名前はカヅリック=アーソルトンというらしい。

アーソルトンがファミリーネームで、カヅリックがファーストネーム。

父の名前はアルフレッド、母親の名前はメイレアで、まるで外国にいる気分だ。


ところでらしいというのは、まだ自分がそうであるという実感が湧かないのと、前の両親への罪悪感からだ。

………いつまでもこのままじゃいられないのはわかるけど、それでも今はまだ、僕は僕でありたい…だから……。



「すぅ…すぅ…」

「あら、いつの間にか寝ちゃったのね」

「ゆっくりと寝かせてやろうぜ。カヅも元気になったことだしな」

「そうね」






ここはカッツェル村っていう王都から離れた小さな農村。

周辺を森に囲まれており、ちょっと離れたところに村全体を見下ろせる丘がある。

たまに商人の馬車がやってきたり、冒険者と呼ばれている何でも屋みたいな職業の人達がやってきている。


赤ん坊である状況で得れた身の回りの情報はそのくらいだ。

この体は異様に耳が良く、壁一つ向こう側であってもよく聞こえた。

最近では父親と父親の知り合いらしき人間が何度か入ってきて話をするんだが、その話を盗み聞きして言葉を覚えている最中だ。

俺は早く喋りたくて、暇があれば口を動かしている。

意味があるのかはわからないが、やらないよりかはマシなはず…。


赤ん坊の体は何かと不便で感情の制御が出来ない。

嬉しくても泣いて、嫌な気持ちになれば泣き、うるさかったりしただけでもすぐに泣いて頭が真っ白になってしまう。

そうして感情が爆発した後はたいていすっきりして眠くなる、そしてその眠気にもまったく逆らえない……吸収の効率を全て無駄にしてる気がしてならないんだけど、こればっかりは赤ん坊の性質というか、仕方がないので割り切るしかない。

まあ、赤ん坊なんて泣いてなんぼみたいなものだし、そのあたりは気にしても仕方がないしね。




今日も今日とて口を動かし体を動かし、ぼ~っと考えに耽っている。


両親の顔は整ってたし、将来顔には期待できるなーとか、あぁ~乳うめぇ~とか、前世の両親には親孝行できなくて悪いことしたなとか、あいつら元気にしてるかな~とか。



「うぇ」



前世のことを考えていると、死んだときの光景が頭に浮かんできて気持ち悪くなってぐずりそうになるが、なんとか堪えた。


そういえば友達がこういう転生系は魔法とかある異世界なんだよ! って力説してたけど、そんな目に見えないもんどうやって見つけろっていうんだろうか。

こんなことなら詳しく聞いとくんだったと、死んだ今になって後悔している。

両親からはそんな気配しないし、目を凝らしても、耳を澄ませてもそんなものは微塵も感じれない。

もしかしたらここは魔法のまの字もないのかもしれないけど……いや、諦めるな、まだ手段はあるはずだ。


とりあえず、前世の漫画で見た音を立てて呼吸する、特殊なコオォォォォとかいう謎の呼吸をしてみる。



「けほっ、けほっ!」



むせただけで体から何かしらを感じとることはなかった。

むしろそれをやってた時の友達の姿を思い出してなんだか恥ずかしくなっただけであった。


あぁ~、なんか変なこと考えてたせいか、眠くなってきた……今日はおとなしく寝よ。

おやすみぃ~。


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