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思えば()は、平凡な人間であったように思う。

暗い海の中で揺蕩うクラゲのように、何事もなく、普通の生活を送る日々。

無邪気に笑い、よく遊び、仲の良い友達と一緒に帰宅して、ちょっと大人ぶっていて生意気ではいたが、両親からはたくさんの愛をもらい、生きていた。

小学生の頃はよく馬鹿な悪戯を友達たちとしては笑い合い。

中学生に上がってからはちょっと不良ぶってみたりと……オタクの友達が話す物語のような、壮大で起伏のある波乱万丈な人生ではなかったけど、存外嫌いではなかったと思う。

そんな日常の最中、何の変哲もない人生の中で『ソレ』は突如として降りかかった。


友達との帰路、少しオタクではあるが気の良い奴だったアイツと、いつも帰り道でお互いの好きなものについて語り合い、学校の話題などについて取り留めもなく話し合っていた。


そのいつもの帰り道でのことである。


いつもより少し下校が遅くなった帰り道、友達と共に通りを歩いてる時に【死】は訪れた。


ブゥウ―――――ン。


道路に面している通学路ではよく聞く車の近づいてくる音がふと気になり、何気なく振り向く。

そこで初めて、僕は状況を認識した。


道路から蛇行運転でやってくる、黒い車の影。

明らかにこちらにハンドルを切られている状況。


今、僕らは死の間際に対面しているのだと、理解した瞬間。



「危ないっ!」



僕は友達を突き飛ばしていた。


キギィ――――――キュルルルルルル――バンッ!


大きなスリップ音とともに、弾き飛ばすような衝撃。

小さな僕の身体が宙に舞い、視界がグルグルと回る。



「――――かふっ!?」



空中を回りながら、肺の中の空気が一気に吐き出される。

音が聞こえず、視界も定まらない中、僕の体は地面に叩き付けられ思考が真っ白に染まる。

少し間をおいて脳が痛み認識すると、その痛みを最後に目の前が真っ暗になっていった。


不規則に浮上する意識の中で耳にしたのは。



「うわああああああん、―――が―――があああ」



泣き叫ぶ友達の声。



「ねぇ…目を覚まして……お願いよ―――」



僕の身を案じる母の声。


ウウゥゥゥン―――ウウゥゥゥン――――ピーポーピーポー――――。


けたたましく鳴り響くサイレンの音。



最後に浮上した意識の中で考えていたことは、嗚呼...このまま死んでしまうのだろう、という諦めにも似た達観であった。






そうして考えていると、暗い水の中に一筋の光が差した。

それは体を芯から温めるように、まるで体を覆うような――――。


『暖かい、光…』


近付きたくて手を伸ばすが、光には届かない。

諦めて伸ばした手を引っ込めようとした瞬間。


ゴオオッ。



『うわぁぁあああ!?』



大きな音と共に強く、引っ張られるようにして意識が光の中に飲み込まれていった。






次に目が覚めた場所は見知らぬ部屋であった。

どうやら僕は今、ベッドの上に寝転がっているようだ。

体は熱く、重い。


もしかしたら助かったのかな? なんて考えるけど、どう見てもここは病院の一室には見えなかった。

そもそも木製だし、ちょっと汚いし。


ガチャ。


ドアの開く音が聞こえる。



「おぉ~目が覚めたかカヅ~」



男性の野太い声が聞こえるのと共に、ごついオッサンが視界に映った。

誰だこいつと思い、口を開き声を出した瞬間に、俺の心の中は大きな驚きの色に染められた。



「あぅ」



は?



「あぅあぁ~」

「おうおう元気だなぁ~よかったよかった」



は?? なに言ってるんだ、自分は?

まるで赤子の声のような…まさかと思い、眼下に目を向ける。


幼児のような小さい手に、体にって……なんじゃこりゃああああああああ!!??



「おぎゃああああああああああああああああああ」

「おぉおぉ元気になったな~」



楽観的な男性の声とは裏腹に、ありえない事実が頭を真っ白にし、感情の高ぶりが収まるまで泣き続けた。


これが俺、カヅリック=アーソルトンによる最初の産声であった。

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