第五節 即席コンビ
食品売り場内を走る二人。体液を辿り、カップ麺コーナー、調味料コーナー、お菓子コーナーと、隈なく探して走る。程なくして、ある場所に二人は辿り着く。鮮魚売り場だ。辺りには異臭が漂っていた。
「うっ……臭い……」
生魚と、何かヘドロの様なモノが混じったような臭いに、顔をゆがめる主人公。そこには、案の定ゾムビーの姿があった。ゾムビーは4体ほど居た。
「よう。ゾムビーってのは、こんな沢山湧いて出るモノなのか?」
抜刀が主人公に問う。主人公が答える。
「分からない。……けど、こんな沼地でもない、水気の無い場所にこんなに発生するのは、異常だと思う」
「……なるほど」
ゾムビー達はバリバリと包装のラップを破り、むしゃむしゃと鮮魚をそのまま食している。
「おい……」
「!」
抜刀の一声に、反応するゾムビー達。
「商品ってのはよう……ちゃんと代金を支払ってから購入するものであって、代金を支払う前に食っちまうものじゃあねぇんだ。」
「ゾ?」
鮮魚を食べるのをやめるゾムビー達。
「その代金ってのも、自分でせっせと働いて稼いだ金だ。誰かから簡単に貰ったものじゃねぇ! 全部! 自分で! 汗水流して苦労した結果得られるものなんだよ‼」
「スチャ」
超能力の刀を構える抜刀。
「働かざる者、食うべからず……死んで、詫びろ……!」
「ズバァアア‼」
一番近くにいたゾムビーを、横一文字に真っ二つにする抜刀。
「ゾォオオ‼」
崩れ落ちるゾムビー。
(……凄い。セツナさんは、やっぱり強い……僕も負けてられない)
「リジェクト‼」
抜刀に感化されて、闘争心を燃やす主人公。次に近くにいたゾムビーにリジェクトを打つ。
「ゾゾォオオ‼」「バシャアア‼」
断末魔を上げながら破裂するゾムビー。
「ヒュ――。この分なら、余裕だな。残り、行くぜ!」
残りのゾムビーを倒すべく、走り出す抜刀。
「フッ」
一瞬、一呼吸入れる抜刀。
「スパッ」
ゾムビーに斜めに太刀を入れる。
「ゾ?」
「ピッ……ズズズ」
切れ目が入り、斜めに崩れ落ちていくゾムビー。
(あと1体だ……)「リジェクトォオオ‼」
最後の1体にリジェクトを喰らわす主人公。瞬間、
「ドムゥウウン」
最後の1体は、リジェクトの衝撃を吸収した。
「! コイツは‼」
何かを悟る主人公。
「? 何やってんだ? お前さんよぉ。倒さないなら、俺が頂くぜ!」
抜刀が走り出す。
「待って!」
それを止めようとする主人公。が、抜刀の耳には入っていない。
「おらぁああ‼」
抜刀は、最後の1体を横一文字に切り抜く。
「ピシッ」
ゾムビーに亀裂が走る。
「トン……」
勝利を確信し、右肩に刀をのせる抜刀。
「これにて、一件落着っと」
余裕綽々で振り向いた抜刀の目に映ったのは、彼にとって意外な光景だった。
「ボコボコボコボコ」
最後の1体に入ったはずの亀裂、そこから泡の様なモノが吹き出していた。
「⁉ こいつぁ……?」
不審に思う抜刀。
「ボコボコ……シュ――」
軽く煙が出るとともに、ゾムビーに入った亀裂は元通りに戻っていた。
「やっぱり!」
主人公は言う。
「こいつ……石の……」
少しばかり動揺を見せる抜刀、しかしすぐさまキッと目を鋭くさせる。
「だからと言って、引く訳にはいかねぇんだよぉおおお‼」
刀を両手で振り上げる。
「ズバァアア」
今度は、縦にゾムビーを一刀両断する抜刀。
「……やったか?」
「ダメだ!」
主人公が言う。
「ボコボコボコボコ」
再び、再生を始めるゾムビー。
「セツナさん! あいつは中にある石を取り出さないと勝てないんだ!」
主人公の叫びに、抜刀は問う。
「じゃあどうしろってんだよ⁉」
「僕に考えがある。セツナさん、今の内に二人でゾムビーを挟み撃ちにしよう!」
「わぁーったよ! 従ってやる‼」
主人公の提案に、おとなしく従う抜刀。主人公とは反対側へ走り、ゾムビーを囲った。
「で、どうするんだ⁉」
抜刀は問う。
「再生が完全に終わったら、またゾムビーを斬りつけて!」
主人公は答える。
「りょーかい!」
「ボコ……シュ――」
ゾムビーの再生が終わった。
(今か……)「行くぜ!」
ダッと一歩踏み込む抜刀。
「ズバッ」
横一文字にゾムビーを斬った。
(よし……)「セツナさん! 避けて‼」
主人公が叫ぶ。
「へっそういう事か……」
「タンッ」
抜刀は横へ跳ぶ。
(今だ!)「リジェクト‼」
「ドッ」
抜刀が石のゾムビーを斬る。そこから主人公がリジェクトを打ち込む。一時的にではあるが、真っ二つになっている上半身と下半身は、上半身がリジェクトの衝撃を喰らう事で、完全に離れ離れとなった。
「ドサッ」
「ゾゾォ」
倒れる上半身。その切り口から、光り輝く何かが見えた。
「セツナさん! その宝石を! ヤツの体から取り除いて‼」
「! これか……」
主人公の言葉で、宝石を確認する抜刀。
「スチャ」
超能力の刀の剣先に、宝石をのせる。
「ふん……」
「ピッ」
刀を振り上げ、宝石を放り上げた。
「パシッ」
宝石を左手に掴む。
「ほらよ! しっかりと取り除いてやったぜ‼」
主人公に宝石を見せつけながら言う抜刀。
「ありがとう! これで……行ける……!」
手袋をはめた両手を構える主人公。
「リジェクトォオオオ‼」
「バシャアア‼」
破裂する最後の1体。
「やった……」
安堵する主人公。
――数分後。
「正直、最初は癪だったが、お前の言う通りにして正解だったぜ。的確な指示を、ありがとな! ツトム」
抜刀は言う。
「あ……名前を……」
キョトンとする主人公。
「ん? 初めて名前で呼んだか? まぁ、細かいことは、気にするな」
笑顔で握手を求める抜刀。
「あ……うん!」
それに応える主人公。
「ダダダダダダ」
狩人隊員が数名、姿を現した。隊員が口を開く。
「あの後、トイレを探索しましたが、ゾムビーが2体ずつ、男子トイレと女子トイレに存在していました。どちらも駆除に成功しています! お二人はご無事ですか?」
「は、はい」
主人公が答える。
「それは良かった。この後は、この階一帯を探索後、何もなければ清掃班を呼び、洗浄、殺菌作業に移ります」
――1時間以上の徹底された探索が、各階で行われたが、1階は中央トイレ、食品売り場、2階は中央トイレ、そして3階は中央トイレとペットショップコーナーにのみゾムビーが発見されただけで、その他の場所ではゾムビーは見つからなかった。
――帰りの車内。この車には、爆破、主人公と隊員の数名が乗っている。
「今回も、ご苦労だったな、皆。それにしても、私の所だけ石のゾムビーが現れなかったのは何故だろうか……? 私のバーストが、どの程度通用するのか、試してみたいところだが……」
腕組みをしながら言う爆破をよそに、主人公は思う。
(強敵だけど、スマシさんなら圧倒的に勝ってしまいそうだからコワイ……)
一同は帰り道を辿る。