第十二節 修学旅行
時は過ぎ――3月。場所は主人公の教室。
「はーい、注目。来週、遂に待ちに待った修学旅行の日がやって来るぞー」
「やったぜ!」
「楽しみ―」
「何持って行こうかー?」
担任教師の言葉に、ざわつき始める教室内。
「はいはい静かにー。……説明を始めるぞ。旅行先は、知っての通り、沖縄だ。どこを回るかだが、1日目は――」
(修学旅行かー。楽しみだなー。沖縄の3月って暑いのかなー?)
主人公が考え事をする。
「いちおー、海で泳げるぞー。強制ではなく、希望者だけだがなー」
教師が言う。
「俺は泳ぐゼー!」
逃隠が右手を上げて叫ぶ。
「ははははははは」
騒がしくなる教室内。
「おー、サケルは元気があっていいなー。説明を続けるぞー」
教師が言う。
(楽しみだなぁ……そうだ! 狩人の仕事、どうしよう? スマシさんに相談しないと……修学旅行、行けるといいなぁ)
――放課後、主人公と逃隠が教室に残っている。電話をしている主人公。
「もしもし、スマシさんですか? 来週、修学旅行があって……」
祈る逃隠。
「そうか。副隊長のケガももう治ったし、私やセツナ、隊員達も健在だ。1月、2月のゾムビー発生率から考えて、3月もそんなには発生しないだろうから、行っていいぞ、修学旅行」
爆破の言葉に、明るい顔になって逃隠の方を向く主人公。
「っシャ!」
パチンと逃隠が指を鳴らしながら言う。
「楽しんで来いよ」
「はい!」
「プツッ……プー、プー、プー」
電話が終わる。
「ぃやったー‼」
「おっシャー‼」
叫ぶ主人公と逃隠。
「不安だったけど、修学旅行に行けるよー!」
主人公が言う。
「今回ばかりハ、中学生で1回きりのイベントだかラ、任務より優先してしまうゼー‼」
逃隠も叫ぶように言う。
「楽しみだね!」
「おウ! じゃア、また明日ナ!」
「うん!」
二人は学校から帰宅した。
――1週間後、修学旅行当日。羽田空港にて。
「うオ――――‼ 飛行機がたくさンあるゼ――‼」
ラウンジで逃隠がはしゃいでいる。
「うわぁ……飛行機なんて、生まれて初めてだよ」
主人公が感動している。
「おーい、そろそろ時間だ。俺らのクラスも乗るぞー」
「はーい‼」
担任教師の言葉で、主人公のクラスが動き出す。
「プー、プー、プー、……皆様、間も無く離陸致します。シートベルトをもう一度ご確認下さい。那覇空港への到着は……」
機内、アナウンスが鳴っている。
「おイ、ツトム。シートベルトをしたカ?」
逃隠が主人公に話し掛ける。
「したけど、どうしたの?」
主人公が問う。
「コレをもシ、中途半端にはめテ、失敗でもしてみロ……最悪……」
「最悪?」
神妙な面持ちの逃隠に、再び問う主人公。
「死ヌ……!」
「え?」
逃隠は続ける。
「突如、発生する上昇気流ゥ! 雨雲は発生していキ、次第に台風にまで発展すル! 荒れ狂う天候ゥ! 揺れ動ク機内! そして吹き飛ばされた機体は海へと真っ逆さマ…………そこデ、シートベルトをしっかりト着用できていなかった者ハ……命ヲ落とすんダ……」
「大袈裟な……しかも、めちゃくちゃな理論だし……」
呆れる主人公。
「へっ。くだらねぇ」
友出が窓際で言う。
「ガシャン!」
「!」
飛行機が離陸のため、動き出したようだ。
「ゴ――――」
機内にGがかかる。
「うオ――! この力感んン‼」
「うわ、何だか気持ち悪い感じだ……」
逃隠、主人公が口々に言う。
「ス……」
機体が離陸した。
「! 何だか、感覚が……」
主人公は違和感を覚える。
「見ロ! ツトム‼ 陸ガ……離れていくゾ……‼」
「!」
逃隠の言葉に、窓の方を見る主人公。徐々に、陸が遠くなっていった。
「うわぁ……凄い。飛んでる……海もあんなに遠く……」
暫くし、雲よりも機体は高くなっていった。
「ヤバいゾ! ツトム! 雲よりも高みへ昇っちまったゼ‼ 何物にモ邪魔されない場所で太陽様が拝められル‼」
「凄い凄い‼ ホントに雲より高い‼」
――10分後。
「……何だか、景色、変わんないね」
「あア……何もねェ……」
――更に10分後。
「すー、すー」「くかァ――」
二人は寝始めた。中学生にとって、変わり映えのしない景色と言うのは苦痛だったようだ。
――数時間後、那覇空港。主人公のクラスは、沖縄に到着した。空港内を歩く一行。
「ふあー。結構寝ちゃったね」
「おウ。これが時差ボケと言う奴カ……」
(いや、日本だし……そこまで変わんないよ……)
会話を交わす主人公と逃隠。
「よーし、全員居るかー? 今から点呼をとったあと、バスに乗るぞー」
一行はバスに乗り込んだ。
「右手に見えますのは……」
バス内。バスガイドが那覇空港近辺を紹介している。
「よウ、ツトム。最初はどこに行くんダ?」
逃隠が、教室内の如く後ろの席から主人公に話し掛ける。
「えーと、旅のしおりによると、最初はあったかビーチに行くんだって。今年は特にあったかいから、もう海開きをしているみたい」
主人公が答える。
「うオ――‼ 俺は泳ぐゼ――‼」
逃隠が叫んだ。
「はは……」
主人公は苦笑い。そして――
あったかビーチ、到着!
「うわぁ……! 沖縄の海って綺麗なんだなぁ……」
透き通った海を見て、感動している主人公。
「チョット、ツトム君」
「へ?」
何者かに話し掛けられる主人公。
「この海、一見綺麗に見えるのですが、自然環境は少し、昔よりは悪い方なんです。通常、サンゴ礁等の自然溢れる海なら、少しばかり海は濁っているのですが、この海、透き通り過ぎていますよね? それは、サンゴ礁が減少している証拠なのです」
「へぇ……そうなんだ……ところで、失礼だけど……君は?」
何者かに問う主人公。
「ボクの名は佐藤モブ太、2年1組の生徒なんだ」