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番外編 イケメンが迫られたいときの対処法

 一月の日の入りは早い。まだ夕方の六時をまわったところなのにあたりはすっかり暗くなっていた。

 今、遼太が運転するこの車は私の家に向かって順調に進んでいる。

 さっき、うまれた時から知っているイケメンに迫られてキ、キスをされてしまった……!

 いや、もう二十六歳で、初めての彼氏ってわけでもないんだからキスぐらいで騒がなくてもっていうのは分かるよ。分かるけど……めちゃくちゃ恥ずかしい!

 大人になって出会って三か月目の相手とするキスのほうが全然気楽!……なはず。

 遼太の事は色々知っているつもりでも、キ、キスをするときの癖とか……そんなのは……知らない……じゃん。

 ダメだ! 照れてしまって話にならない!

 ううううううううううう!

 でもさ。

「でもホントに私でいいの? 私、気が利かないし、女子力低いよ」

「知ってる」

「…………」

 秒殺? 否定はしないのね?

「今更そんなの気にしないよ。そのぶん俺が気が付くし。多分俺がこういう性格になったのはお前のためだったんだな」

「叔母さんがシングルマザーだったからそういうふうになったんじゃないの?」

 遼太の両親は早くに離婚している。だから遼太は一通りの事が出来るようになったんだと思っていた。

「俺もそうだと思ってたんだけど、あの人結構何でもさっさとしちゃう人なんだよ。あの人のためっていうよりリカのためにこういうマメな性格になったんだと思うほうがしっくりくる」

 そんなものなのか……?

「じゃあ、リョータは叔母さんに似たんだね」

「顔は別れた親父にそっくりらしいけどな」 

「あ~、叔父さんイケメンだったもんね。ウフフフ……」

 私は、叔父の顔を思い出してつい、にやけてしまう。叔父さんはかなり私のタイプなのだ。

「お前……」

「そっか、リョータもあと二十年待てばイケオジに……!」

「オイ……俺はもうこれ以上待てないよ。それに今だっていい男だろ?」

 そりゃあ、いい男だよ。いい男だけど・・・・・。

「うーん、じゃあ今度スーツで会ってくれる?できればスリーピースがいいな」

「ああ、ああ、わかった。なんでもいう事を聞くよお姫様」

 ひっ

「ひっ、姫って……私そんな柄じゃないよ!」

 姫はないでしょ! 姫は!

「リカはかわいいよ。バレエの発表会でいっつも伯母さんが『たとえどんな役でも、一番下手くそでもうちの子が一番かわいい』って言ってたけど見に行ったら本当にそうだったんだ。俺はいつもリカばかり見てた」

「お母さんめ、そんなの単なる親のひいき目じゃん!」

 褒めてないぞ! 明らかにディスってる! 遼太もすっかり私の親目線じゃん……。

「逆にリカは俺の事、見た目だけで好きになってくれたわけじゃないだろ?」

 それは、ま、ね……。

「リョータがこんなにかっこいいなんて正直今日まで気が付かなかった……。ごめんね」

「いや、それが嬉しかったんだよ。女の子に見た目だけで惚れられても嬉しくない。っていうかもう、リカ以外考えられないから」

「う……重い」

「だろうね、俺の愛は長い時間が詰まっている分重いよ」

「覚悟してます……」


 この日、なぜか我が家はどんちゃん騒ぎに発展し、お酒に弱い私はこたつで寝落ちしてしまった。

 私が寝ているときに遼太や両親がどういう話をしたのかは未だに教えてもらえない。




 四月、私は待望の六年生の担任になった! 私は電車通勤なので小学校から最寄りの駅までは歩いて帰る。

「修学旅行……たのしみ~」

「そうですね、今井先生。僕達は事前に出張で本番と同じルートを視察に行きますから、その時は一緒にまわりましょうね!」

「佐藤先生……」

「夜は部屋でUNOをしましょう! たのしみだな~」

「しません」

 正月に映画デートを断った佐藤先生は未だにしつこく誘ってくる。

 あんなにいい人のオーラを出していたのに最近はイケメンの本性丸出しだ。

 よりにもよって同じ六年生の担任になってしまった。

「じゃあ、大富豪?」

「しません」

 どうやら、私が全然先生の顔にポ~ッとならないのがいいらしい。

 本当の自分を見てもらえる気がする! とかなんとか。

 あのね、もうそういう人は間に合ってます。

 一人でじゅうぶん。

「じゃあ、私、下りホームなので」

「じゃあ、今井先生、また月曜日に」

「はい、良い週末を」

 イケメンなんて全然平気だ!

 イケメンに迫られたときの対処法は完璧のはず!


 流れていく車窓からの景色を見ながら私はほほ笑んだ。じつは、この後遼太とデートなのだ。

 今日は途中下車をして大宰府政庁跡にお花見に行く。

……もう葉桜だとは思うけどね……。桜なんてただの口実で遼太と会えれば何だっていいんだ。

「リョータ!」

 政庁跡近くの都府楼前駅で遼太は待ってくれていた。私はすぐに車に乗り込む。

「お疲れ様、リカ」

「うん、ありがとう」

 車内にはお弁当のいい匂いが充満している。仕事帰りにお弁当を買ってから迎えにきてくれたようだ。

 くーーー! 相変わらず気が利く!


 政庁跡は今は公園として整備されている。

 桜の全盛期は花見客でいっぱいだけど、すでに葉桜になっていて人はまばらだった。

 私たちは桜の木の下にレジャーシートを敷いてお弁当を広げた。

「はい、リカはチキン南蛮弁当ね」

 遼太は私の好みも良く知っている。

「ありがとう! いただきます!」


 私は今日、ある計画を胸に帰って来た。

 普段、すっかり遼太に翻弄されている私だけれども、いつまでもやられっぱなしではいませんよ! 遼太さん。

 私だってやる時はやるんです。

 題して『思いがけずリカから迫られておどおどするリョータを楽しもう!』大作戦!

 いつもの仇をとるのだ!

 では、早速! 

「あ、ごめん!」

 私はペットボトルの水をわざとこぼして遼太の手にかける。

「ごめんね」

 遼太の手を取ると、ええーい、ぱくっと遼太の指に噛みついた。

 どうだ、まいったか?

 ちらりと上目遣いで確認すると遼太は目を見開いて固まっている。

 どうだ、私の魅力にメロメロだな~!

 ところが……。

「いいね、これは、くるものがあるね」

 あれ? 全然動揺していない。……それどころかちょっと嬉しそう?

 さとい遼太は私の企みなんてすっかりお見通しみたいだ。

 ちょっと待って。作戦失敗?

 困らせてやろうと思ったのに遼太、めっちゃ喜んでるじゃん。

「次は何してくれるの?」

 それどころか楽しみにされている!

 そ、そんなぁ。

 『たまには俺も迫られたい』ってそんなに瞳を輝かせて期待されても、私にこれ以上どうしろっていうのよー!


 誰かー!イケメンが迫られたいときの対処法を、私に教えてください~!




ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。

リカとリョータの物語は一応完結です。

……が、次回作の『あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~』にも二人は登場致しますので続けて読んでいただけたら嬉しいです。


リカに振られ続けている佐藤先生に春は来るのか?

お楽しみいただけるよう頑張ります。


ブックマークと評価もありがとうございました。

初めての投稿でしたが読んでいただけて幸せでした。

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