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2話 私、こんなに遼太の事を好きになっていたんだ

 こうなったらやけ酒だ!

 今日は飲んで飲んで飲みまくってやる!

 私たちは計画を変更してお酒を楽しめるレストランに入った。

 こんなに真昼間から飲めるなんて日曜日、最高!

「では、カンパイ!」

 陽気に振る舞う私を気遣ってか二人もやけ酒に付き合ってくれた。

 やっぱり、持つべきものは心優しき同僚だね。

「今井先生、大丈夫よ、まだ浮気しているって決まったわけじゃないんだから」

「そーですよー、ホテルっていったって、あそこにはレストランやバーもあるし、仕事の打ち合わせとかかも知れませんよ」

 そうは言っても……。

「リョータは役所勤めだから、日曜日にホテルで打ち合わせをするような仕事じゃないんだよぉ!」

 うぇぇぇええん。

 私は人生で一番お酒を飲んだ。

 運河をはさんだホテルに遼太がいると思うと気が気じゃなかったのだ。

 全部、忘れたい。

 遼太との約束の時間には、すっかり酔っぱらってしまっていた……。


「おい、リカ」

「ふぇ? リョータ……?」

 気が付くと遼太の車の助手席だった。

 私は窓ガラスでゴチンとおでこを打った。

 あいたたた……。

 な、なんで……?

「大丈夫か?……もう、お前、飲みすぎ」

 車は渋滞に、はまっている。……まだ博多駅の近くのようだ。

 遼太はまっすぐ前を見ている。

 こうして二人きりで過ごすのは随分久しぶりだ。

 遼太は平日、良く私の家に夕飯を食べに寄ってくれるから、会えてはいたものの、なかなか休日の予定があわずにデート出来ずにいた。

 今夜会えるのを楽しみにしていたのに。

 キャナルで映画を見たり食事をしたりしたかった。

 でも、自分でぶちこわしてしまった……。

「ねぇ、リョータ……今日は何の用事だったの?」

「ん? 学生時代の友人と会ってた」

「ふ……ん」

「眠いのか? 家に着いたら起こしてやるから寝てていいぞ」

 遼太は前を見たまま言った。

 そっか、友人と……。

 それって男の人? それとも女の人?

「キャナルにはいつ来たの?」

「え? さっきだよ。リカがあんまり遅いから電話したら原先生が出てさ、お前に何かあったのかと焦ったよ」

「うん、ゴメン……」

 お昼に遼太を見かけたことは言えなかった。

「いいよ、今日は楽しかったのかな? リカがそんなに飲むなんて珍しい」

 遼太は私の膝にのせた手に自分の手を重ねた。

「デートはまた今度しよう。今夜は送るよ」

 赤信号で止まったすきに素早くチュッと唇を重ねられる。

「リカ……」

「ん、リョータ……」

 どうしよう、遼太が好きだ。

 ホントにホントに大好きだ。

 でも……遼太は私に嘘をついている。


 中山先生が、遼太が女の人と会っているのを見たらしいんだけど、その人誰なの?

 今日ホテルに入っていったよね。

 あれってどういう事? って問いただせばいいのかな?

 ねえ、もしかして浮気してる? って直球で聞けばいいの?

 そんな事……できないよっ!

 もし、『うん、他に好きな人が出来たから別れて』って言われたらどうしたらいいんだよっ!

 遼太と別々の人生をずっと歩いていくなんて想像もつかない。

 私、こんなに遼太の事を好きになっていたんだ。

「ゴメン、少し寝るね……」

 私は瞳を閉じた。

 遼太は大きな手のひらで私の頭をポンポンと優しく叩いて、

「いいよ、おやすみ……」

 と言ってくれる。

 いつもだったらそんな気遣いが嬉しくて心が舞い上がるのに今夜は悲しくなるばかりだ。

 他の人にもこんな事をしているの?

 目を閉じていたものの、家に着くまで一睡も出来なかった。


「え? じゃあ、何も聞けなかったんですか?」

「そうなの……」

 月曜日の早朝、学校に着くと中山先生が更衣室で待っていた。壁際のベンチに座ってスマホで音楽を聴いていたようだ。

 電車通勤の私はラッシュを避けるためにかなり早い電車で学校に通っていて、いつも一番乗りなのでこれは珍しいことだ。

……中山先生は、本当にいい子だ。

「ごめんね、中山先生にまで心配をかけてしまって」

「私の事はいいんですよ、今井先生。……私もいっつも相談に乗って貰っているし……」

 中山先生は顔の前で手を振った。私はロッカーに荷物を入れるとネームプレートを首にかける。

「じゃあ、夕べは結局……」

「うん、私があんまり酔ってたからまっすぐ家に送ってくれたの。しばらくうちのリビングでうちの両親も交えて話してたんだけど、次の日仕事だからってあっさり帰っちゃった」

「そっか……今井先生って実家ですもんね」

「そ、おまけにリョータはいとこだから……普通、カレシを連れて帰ったら両親も気をつかうだろうけど、甥っ子だから全然よ……」

 中山先生の隣に座ってため息をつく。

 昨日、何も聞けなかったから問題は全然解決していない。

 そもそも、浮気しているのかどうかすらはっきりしていないんだけど……あやしいことには違いないもんね……。

「はぁーあ……」

 大きなため息が口からこぼれる。

「そういえば今井先生、二日酔いとかしないんですか?」

「ん……?」

 たしかに、夕べはけっこう飲んだけどね……。

 私、前の日のお酒は残らないタイプみたいだ。

「ぅえっ……」

 しばらくすると、事務の原先生が出勤してきた。

 顔色がすごく悪い。

「原先生、大丈夫?」

「……朝から2回も、吐いた……」

 昨日、やけ酒に付き合わせてしまってごめんね、原先生。


 やっぱり、遼太とちゃんと向き合わないといけないな。

 次に会った時に勇気を出して聞こう。

 そ、それで別れることになったとしても……。

 はっきりさせないと、ダメだ……。 

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