後編
ボーイズラブ、18禁です。
表現はぬるいので、読みやすい方だと思います。
「なあ圭、今日これから暇?」
「え?」
「今日、久しぶりに飲みに行かないか?この間、お前、途中で帰っただろ?」
いつも通りの雄二からの誘い。
今までなら嬉しくて嬉しくて仕方なかったと思う。
「・・・ああ、いいよ。」
でも、今は違うから。
この胸の裂けるような思いをどこに持っていけばいい・・・?
俺は、雄二と飲んでる間、ほとんど話を聞いていなかったと思う。
前は、一緒にいられるだけでよかったのに。
今は、それが一番辛いことだから。
泣きそうになるのを絶えるので、精一杯だった。
気持ちを隠すのに必死だった。
「じゃあ、また。」
「・・・・うん。」
俺達は店の前で別れた。
俺は、うまく笑えてただろうか?
今夜も、気づかれなかっただろうか?
雄二は笑ったままだったから、きっと大丈夫だろう。
どうして、好きになっちゃったんだろう?
どうして、出会っっちゃったんだろう?
トゥルルル・・・。
【はい、藍原です。】
気が付いたら、俺は電話をしていた。
「あ、うん。」
もちろん、迷惑かもと思った。
でも、誰かの声を聞いていたかった。
この、泣いてしまいそうな衝動を自分一人ではどうにも出来ないと知っていたから。
「・・・・・」
でも、どう言ったらいいかわからなかった。
【・・・・・・先輩?】
だって、藍原はただの後輩で、関係ない。
こんなに甘えていいはずがない。
【・・・先輩、今どこですか?】
「は?」
急に何を言い出すんだ?
【いいから、どこですか?】
聞き間違えじゃない。
「あ、えっと、よく行く居酒屋の近く、だけど・・・」
【わかりました。そこ、動かないでください。】
「え?え?」
どういうこと?
【今から行くんで。】
「は?」
ガチャ。
【ツーツーツー・・・】
そのまま電話は切れてしまった。
10分後。
キキィッ!
そのまま動くなと言われた俺はその場所でガードレールに寄りかかって待っていると、ほぼ真後ろにタクシーが止まった。
振り返ると、慌てた様子で藍原が降りてきた。
「高村先輩!」
着の身着のままという感じで、上にパーカーみたいなのだけ着ていた。
本当にそのまま出てきたらしい。
「藍原・・・」
俺は、ただただ驚いていた。
もちろん電話したのは俺だけど、こんな急だったのに、来てくれるなんて思ってもみなかったから。
『どうして?』という言葉さえ出なかった。
俺が、そのまま泣き崩れてしまったから。
それは、雄二への思いと、藍原が来てくれたことの喜びと、両方が一気に溢れてきたから。
ほっとしたんだと思う。
こんな風になるつもりじゃなかった。
雄二に彼女を紹介されたとき、悲しかったけど、それでもわかっていたと諦めるつもりだった。
だから、こんなにいつまでも引きずるつもりなんてなかったのに。
ちゃんと、ずっと友達でいるつもりだった。
平静を保てなくなるほど、こんなに好きだったなんて思いもしなかった・・・。
大の大人が泣きながらこんなみっともない事を言ってる自分が滑稽に思えた。
それでも、藍原は何も言わずに俺の話を黙って聞いてくれていた。
何でそんなに優しいんだ?
藍原には何のメリットもないこの関係。
だからといって、藍原は何も強要しない。
俺が先輩だから?
俺が哀れだから?
俺はずるい。
まだ雄二のことが好きなのに、こんな風に傍にいてくれる藍原も手放したくないって思ってる。
でも、藍原は好きになっちゃいけない。
これから何があっても。
だって、藍原には彼女がいる。
俺が男だから。
それだけで、幸せへの道を奪うことになるから・・・。
それから1ヵ月後。
相変わらずな日々を過ごしていた。
「あれ?・・・じゃあ高村さん、知らないんですか?」
同じ課で働く女の子だった。
確か、藍原と同期。
なんとなく出た話だった。
「・・・何が?」
嫌な予感がする。
絶対、・・・聞きたくないことだ。
「藍原くんが秘書課の沙里と付き合ってるの。」
ほら。
「・・・ああ、うん。まあ、付き合ってる人はいるんじゃないかって思ってたけど。」
声が震えそうになる。
「・・・・ですよね、知ってたらあんな野暮なことしませんよね。」
納得したように彼女は頷く。
「は?」
どういう・・・・。
「だって、市川さんの婚約祝いの飲み会の日、本当はあの後沙里と会う約束してたんですよ?」
・・・そんなの初耳だ。
あの日は、前の日に急に彼女と婚約したって言われて、直接彼女に会った俺は、ショックでみんなの前で正気でいる事が不思議なくらいだった。
みんなに報告した途端、急に飲み会しようって話になって正直きつかった。
だから、本当は一人になりたかった。
でもあいつは、何も言わず、俺についてきた。
「・・・あの、高村先輩気分悪そうなんで、俺送っていきます。だから、2次会はキャンセルで。」
そう言って、俺の手をみんなにわからないように握ったんだ。
「あ、ああ、大丈夫なのか?」
きっと、雄二も気づいてなかった。
どうしてわかったのか未だにわからない。
「ああ、大丈夫、ちょっと疲れてたのかな?・・・また、今度飲みに行こうな。」
俺は、雄二に軽く手を振った。
「・・・ああ。」
そのままみんなに連れられて雄二は街に消えていった。
そう、嬉しかったんだ。
それまでも何度も俺の愚痴を聞いてくれていた藍原。
真っ先に気が付いてくれた。
本当は独りになりたかったわけじゃない。
誰かに一緒にいて欲しかった。
違う。
藍原に一緒にいて欲しかった。
うん。
もう、本当はわかってた。
藍原だから、何でも話せたこと。
藍原がいつのまにかこんなに大切になってたこと。
「私達、びっくりしんたんですよ、だから。でも、仕方ないですよね、知らなかったんなら。」
まるでそれは皮肉のようで。
「もう、何言ってるのよ、あんた。失礼じゃない、高村さんに。」
もう一人の子が慌ててフォローしようとする、
「あ、いや・・・」
俺は何を言ったらいいのかわからなかった。
「だって、高村さんのせいじゃないじゃない。本当に気分が悪かったのよ。」
でも、知ってたら、一緒に帰ったりしなかった。
俺は知りたくないと、目を瞑ってただけ。
藍原を失いたくなかったから。
自分の都合のいいように考えてただけ。
何も言わない藍原に甘えてたから。
「そうだね、これからは気をつけるよ。藍原にもその子にも本当に悪いことしたな、大丈夫だったのかな・・・。」
顔は、ちゃんと出来ていただろうか?
気丈に振舞えていたかな?
俺にとって、失恋なんて、何てことない。
こんな、気が付いた途端に終わるなんて珍しいことじゃない。。
でも、なんで、俺は、そんな人ばかり好きになるんだろう。
いつも、ちゃんとわかってるのに、気が付いたときには好きで・・・。
懲りたはずなのに。
雄二のときにおもいっきりわかったはずなのに。
どうして同じ事を繰り返すんだろう。
それからは徹底的に藍原を避けた。
もちろん会社では顔を合わすし、仕事の話はした。
でも、今までみたいに話すことはなくなった。
普段は一度も目も合わさない。
藍原はきっとおかしいと思ったに違いない。
でも、これしか方法がなかった。
まだ、藍原と普通に話せる自信がなかった。
だって、あいつは俺のことなんでも知ってる。
平静でいられるわけがなかった。
忘れようとしてた。
新しく好きな人が出来れば忘れられるかもしれない。
だから、初めてそういう店にも行ってみた。
勇気がいったけど、藍原のためだと思った。
あいつの幸せを壊したくなかったから。
でも、気が付くと藍原と比べてた。
少し前まで雄二が好きだったのに、そんなことは全然思い出さなかった。
俺は・・・。
誰にも言えない自分の恋の失恋話を聞いてくれる人がいるはずがなかった。
それでも毎日藍原を目で追っている自分が嫌になっていた。
だから飲まずにいられなかった。
正体なくす手前まで飲んで、毎日死んだように眠る。
じゃないと、正気なんか保っていられなかった。
俺、雄二の時より酷い。
「フッ・・・」
自嘲気味に笑う。
飲み終わって店を出た。
なんだか、今日は全然酔えてなかった。
俺って、いつのまにこんなにお酒が強くなったんだろう。
まあ、毎日飲んでれば強くもなるか・・・。
「・・・先輩・・・。」
聞きなれた声が聞こえた。
「・・・・・・・・・・・あ・・・い・・・・はら・・・・・・・・」
振り返ると、誰よりも愛しい人が立っていて。
「やっと、見つけた・・・・・・・・・・。」
涙ですぐに目の前すら見えなくなった。
そして、強引に抱きしめられた・・・・・・。
『どうして?』なんて言いたくなかった。
言えば、夢から覚める気がしたから。
ここにいる藍原が消えてなくなる気がしたから。
「ん・・・・、んん・・・」
初めての激しい激しいキス。
強引に藍原の家に連れてこられた。
玄関に入る時間も惜しまれるようだった。
「んん・・・・ぁ・・・ん・・」
惜しむように何度も何度もキスを繰り返す。
「ん・・あ・・・、んん・・・、」
抱きしめられて抱きしめ返して、苦しいけれど、そんなことはどうでもよかった。
ただ、この幸せを噛み締めていたかった。
「・・・・・あい・・・はら・・・」
キスの合間に紡げたのはやっとのことで言った名前だけ。
「・・・先輩・・っ・・」
それに答えるように藍原はさらに強く抱き締めてくれた。
「すき・・・、・・・・すき・・・」
溢れるこの想いを伝えるのに、たった一言しか言えない。
何度も何度も繰り返す。
傍にいて
誰よりも
傍にいて
何よりも
わかってるのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう。
これは同情?
聞きたくない。
怖いから。
「先輩、目、開けて・・・。」
藍原が優しい声で言う。
「や・・・・」
それを俺は拒否した。
感覚だけを追っていたい。
これだけは嘘じゃないとわかるから。
たとえ、気持ちがなくても、この感覚だけは嘘じゃないと、わかるから。
「・・・圭・・・、好きです、あなたのことが・・・。」
一瞬にして世界は真っ白になった。
「・・・・目を、開けてください・・・先輩・・・。」
促されて開けた目は何を映したのだろう・・・。
藍原が好きだという気持ちだけ・・・。
ずっと、誰かにそういう存在になって欲しかった。
自分の性癖に気づいてから、そんなことは望めないと思ってた。
雄二を好きになった時も、藍原のことが好きだって気づいた時も、叶うはずないって、初めから諦めてたから。
抱いてもらえる日が来るなんて、夢にも思ってなかった。
だから、嬉しくて、死んでしまいそう。
それが、藍原ですごくすごく嬉しい。
「あん・・・は・・・・・、あいはら・・・っ・・・」
目の前に見える顔が愛しい。
“すき”
“本当にすき”
頭はもうほとんど何も考えられないのに、それだけははっきりとわかる。
「・・・は・・っ・・・感じてるんですか?」
「・・・っ・・・」
コクコクと必死で頷く。
「・・・俺も、すげー・・、いいです。・・・圭・・」
「んっ!?///////////」
急に言われてたことに本当に驚いた。
「んっ・・・・わ、今、すごい、締まった・・・(笑)」
「ばっ・・・・、何言って・・・・///////!?」
「好きです。あなたがすごく好き。」
「あ・・・///・・・・あ」
「こんな風になれるなんて夢みたいだ・・・。」
ドクンッ。
胸が跳ねる。
好きで好きでどうしようもない。
俺だって、そう思ってる。
こんな風になれるなんて、夢みたい。
どうか夢なら覚めないでと、願っていた・・・。
朝。
小さく聞こえた鳥の声に目を覚ました。
「ん・・・・。」
いつものように起き上がる。
「・・・・っ!?」
でも、いつもと違う感覚にハッとする。
隣を見ると、気持ちよさそうに眠る藍原。
「・・・・よかった・・・。」
夢じゃなかったんだと安堵した。
「何がですか?」
「え?」
驚いた。
「起きてたのか・・・。」
「今、起きたとこですけど。」
少しだけ藍原が怒っているように聞こえるのは気のせいだろうか?
「・・・・・」
「・・・・・どうして、そんなに不安そうなんですか?」
やっぱり口調がちょっと怒ってる。
「・・・・・・・だって俺・・・、こんなこと本当は駄目なことだろ?」
知ってる。
お前には彼女がいる。
こんなにも甘えちゃいけない。
一度でも抱いてくれたこと、本当に嬉しかったんだから・・・。
「なんで、駄目なんですか?」
至極当たり前のように藍原は言う。
「何言ってるんだよ!?」
言われたくなかった。
わかってたから。
わざとわからないふりをするのも、もう限界だった。
「お前、ちゃんと彼女いるじゃんか!?ただの気まぐれで、お前のそんな優しさで、もう・・・、期待したくないんだよ!!」
子供っぽいなと、もう一人の自分は思っていた。
妙に冷静にこの場を見ている自分がいた。
馬鹿みたいに思えた。
「・・・・は?」
「だって俺・・・、期待する自分がもう嫌なんだ!お前は同情で優しくしてくれてるけど・・・、」
言ってて虚しくなった。
涙が溢れるほど、おかしくなりそうだった。
「何を勘違いしてるかわからないけど、俺は、同情で人を抱いたり出来ないよ?
俺は、あなたが好きだから、本当に愛してるから触れた・・・。」
染み渡るような声。
「で、でも、彼女は・・・?」
振るえが止まらない。
「だから、さっきから何の話してるかわからないんですけど?」
藍原は起き上がって、俺をじっと見つめて、そっと手を握った。
「え?」
「俺、彼女なんかいませんけど?」
「え?で、でも、秘書課の子って・・・」
話がかみ合ってない?
「何ですか?それ。」
「でも、俺、お前と同期の子にその話されて・・・・。」
それで、自分の気持ちに気づいた。
同時に、諦めようと思った。
「・・・・だから、あなたの態度、おかしかったんですね・・・。」
そっとそのまま引き寄せられた。
「・・・・っ・・・・」
「・・・・・好きですよ、ちゃんと。心配しなくても、あなたしか見てませんから・・・・。」
初めての気持ち。
初めての感覚。
初めての記憶。
好きな人に抱きしめられる幸せ・・・。
涙が溢れて止まらなかった。
ずっと手に入らないと思ってた。
好きな人と一緒にいられること。
藍原の背中に手を回して、顔を上げた。
「・・・・虹・・・・」
肩越しに見た窓の外の空は、輝いていた・・・。
ああ、君が好きだ・・・・・・・。
END
思ったより時間がかかり、当初の予定の1ページでは終わりませんでした。
で、実は作中で一切語ってませんが、年齢設定は藍原が24、高村と市川(雄二)が27でした。
まあ、藍原と雄二はOKですが、高村がかなり乙女すぎだろうと思ってます。
ってか、皆さんも思いましたよね?
理由は簡単、すれてないからです。
つまり、恋愛に疎い、遊んでない、ただそれだけです。
ビジュアル的には、かなり、年齢より若く見える設定なので、皆さんもそうやって想像していただけると、大丈夫かと。
でわ、また・・・。