前編
ボーイズラブです。苦手な方はスルーしてくださいね。
好きな人がいた
その人のことがずっとずっと好きだった
『好きだ』という言葉は結局最後まで言えなかったけれど
それなりに幸せだった
それでも一番近くにいるのは自分で
親友として隣にいられたから
そんなことを知らない彼と一緒にこれからも笑っていられると<
そんなことは夢のまた夢だということにあの頃は気がつかなかった
あの頃はまだ子供で
こんなにも
こんなにも『好き』になってると気づいていなかった
そう
気づいていなかったんだ
だって傍にいられなくなることが
こんなに悲しいなんて
だって彼が自分以外の恋人を見つけることが
わかっていた筈なのにこんなに辛いなんて
知らなかった
わからなかった
理解しているつもりで
【男同士】
という事実が心の奥に突き刺さって
臆病だった自分自身との戦いに負けたんだから
「圭に一番最初に紹介したかったんだ。」
嬉しそうに彼女を紹介された時に
ちゃんと笑えた自分が
泣きたいのに泣けない自分が
一番大嫌いだと思った・・・・・・・・・
『きらきらひかる 手を伸ばした先の虹色』
前編
「・・・先輩、・・・・高村先輩!」
「・・・あ?・・」
いつもの居酒屋。
揺り起こされて見上げた先には見慣れた顔。
「いい加減にしてくださいよ、高村先輩。」
呆れたように俺を起き上がらせる。
「・・・・・・う〜・・・・、あいはらぁ〜?へへ〜・・・」
俺は、相当酔っていたんだと思う。
そのまま藍原に抱きついた。
「ちょっ・・・・せ、先輩?!」
藍原は案の定驚いて声を上げる。
「えー・・・いいじゃ〜ん・・」
俺は藍原の制止も聞かないでそのまま絡む。
「もう・・・、先輩・・・・・、頼みますから・・・・・・・」
藍原は俺を戸惑いながら剥して、
「すいません、お勘定お願いします。」
店員に向かって伝票を渡した。
「・・・っ・・・」
藍原の俺を支えた腕が意外に強い力で驚いた。
「・・・・円になります。」
店員が俺に向かってちょっと嫌な顔をしながら藍原に言う。
「はい。」
「・・・あいはら・・?」
「・・・今日は俺が奢りますよ。」
見つめると言いたい事がわかったのか何も言わなくても答えが返ってきた。
「・・・・なんで?」
「・・・・・・・・・・・・ふっ、失恋して傷ついてる人になんか奢らせられませんよ。」
さらっと言って、俺を連れて外に出る。
「・・・・ばかにすんな・・・」
ちょっとだけ笑った藍原が少しだけかっこよく見えた。
俺は恥ずかしくなって、藍原に支えられていた体を離した。
「ありがとうございましたー。」
後ろで店員の声がした。
「・・・・・・ほら、行きますよ。」
グイッ。
そんなことは気にせずに、今度は手を引かれる。
「あいっ・・・・はら・・・・」
驚いて藍原を見上げる。
「ん?」
藍原は何でもないように振り返る。
「・・・・・・・・・あの・・・・・こ」
「あ、タクシー!」
藍原は俺が言おうとしたのを遮って、そのまま目の前の道路でタクシーをひろう。
キキッ!
タクシーが止まってドアが開く。
俺は藍原を見上げたまま。
「・・・先輩、家どこですか?」
「え?・・・あ、白鳥町、だけど・・・、」
「わかりました。」
だって、あんまり事務的に言うから。
「運転手さん、白鳥町まで。」
「白鳥町ね。」
藍原が運転手に言って、それに運転手が答える。
「ほら、先輩、乗って。」
「え?」
繋いでいる手を離して強引にタクシーに乗せられてしまった。
「え?」
俺は状況を飲み込めていなかった。
「・・・・・気をつけて帰ってくださいね。」
俺に向かってにっこりと笑う藍原。
「・・・?」
離れていこうとする藍原が不意に振り返る。
「先輩?」
俺が藍原のスーツの端を掴んだから。
「・・・・・・一緒に・・・」
それからの記憶は、俺にはない・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・っ・・・・」
目が覚めると、見慣れた部屋の天井だった。
不意に何か違和感を感じて、横を見ると、同じベッドで眠る藍原がいた。
「・・・・!?・・・・」
なんで・・!?
声にはならなかった。
あまりに気持ちよさそうに眠る藍原を見て、とっさに自分の口を塞いだからだ。
「・・・・・・・・・」
そして、恐る恐る布団を上げる。
「は・・・、だか・・・!?・・・」
自分の目を疑った。
何が・・・・・、あったんだ・・・?
いや、状況から、大体の想像はつくけど、恐ろしすぎてその答えに行き着きたくない。
だって、俺にとってこいつはただの後輩っだった。
もちろん一緒に飲みに行ったり、愚痴を聞いてくれたり、それなりには仲はよかったと思う。
でも、こんなことになるはずない。
俺は、だって、失恋したばっかで、確かに弱ってはいたけど、でも、こいつには彼女がいたはずだし・・・。
「・・・ん・・・・」
起きるなよ、頼むから起きないで・・・。
俺は切実に願っていた・・・。
俺はそっとそのベッドを抜け出して・・・。
ガタンッ!
「わっ!?」
そのまま布団に足をとられておもいきり転んでしまった。
「ん・・・・?」
その音に反応して目を覚ます。
「・・・・あ・・・・」
目が合って、声にならなかった。
「・・・・おはようございます。
笑顔と共に藍原が何気なく発した言葉にドキッとした。
「・・・・・・・・っ・・・////」
別に何でもない言葉なのに。
ただの朝の挨拶なのに。
ドキドキが治まらない。
「・・・・・先輩?」
あまりに何も言わない俺を不思議に思ったのか、藍原が俺を覗き込むように見る。
「・・・あ、・・・うん、おはよう・・・・・・・・・/////。」
慌てて答えたけど、恥ずかしいと思う気持ちは消えない。
何が何だかわからなくて、ただ下を向いていた。
「先輩?」
藍原は不思議そうに覗き込んでくる。
「・・・・//////」
絶対に顔は見せられない。
ものすごく真っ赤だから。
床に落ちえていたシーツを握り締める。
緊張と恥ずかしさとで頭が変になりそうだ。
「・・・・・・先輩、心配しなくても、何もないですよ。」
はあ、とため息をひとつついてから藍原は言った。
「は?」
間抜けな顔をしていたと思う。
顔を上げると藍原と目が合った。
「だから、俺たちの間には何もありませんって。」
そう言って呆れたように少しだけ笑う。
「でも・・・・///」
「・・・ま、でも、酔っ払った先輩はかわいかった(笑)」
「え・・・・・」
そう言った藍原が少しかっこよく見えた。
「先輩、シャワー貸してくださいね、昨日、結局は入れなかったから。」
そう言って立ち上がった藍原は男の俺から見ても、かっこいいというか、なんて羨ましい体つきをしているんだろうと思った。
「・・・・あのね、先輩、そんなに見ないでください。今、何も着てなくて恥ずかしいんですから。」
「え、あ・・、ごめん////。」
ちょっと藍原が照れて言うから、やっと我に返った。
っていうか、もしここに他に誰かいたらなんて変な光景だろうと思うだろう。
大の大人の男が二人して裸で、何をやっているんだろうと。
「あ、着替えも貸してくださいね、ジャージとかでいいですから。俺のスーツ、昨日のですごいことになってるから・・・。」
藍原はそう言いながらベッドの横に置いてあったバスタオルを取って腰に巻く。
「あ、うん。・・・って、えっと、もしかして俺が原因?」
嫌な予感。
「・・・そうですよ(笑)。」
やっぱり・・・。
「昨日大変だったんですからね、ほんと。」
俺、いったい何したんだろう?
見上げたまま無言で問う。
「・・・もう、そんな心配しなくても大丈夫ですよ。ただからかっただけです。」
そう言って藍原はまたにっこり笑う。
「あの後部屋着いた途端、先輩俺に向かって思いっきり吐いたんですよ。トイレまで待って言ったのに無理で・・・。先輩のスーツも結構汚れちゃったから、脱がして、俺も脱いで。先輩何度呼んでも起きないから、風呂には入れられないし、吐いてるからいちお拭いたりとかして。俺はその後シャワー借りようと思ってたのに、拭き終わったと腕離してくれなくて、すごい力でさ。
仕方ないから、そこにあったタオルで拭いてそのまま・・・。裸なのはそのせい。でも、まあスーツも何とか無事だったし、それに・・・・・・・・。ま、そんなに心配しなくても家に帰る服さえ貸してくれたら別に問題ないし。」
一瞬、間があった。
「・・・・・・・・うん、・・・・・・・ありがとう・・・。」
意味は二つあった。
一つは、普通なら怒りそうなことを笑って許してくれた事。
もう一つは、昨日のことに触れないでいてくれた事。
藍原は、本当にいい奴だと思う。
シャーっとバスルームからシャワーの音がしている。
俺はその間に着替えて、藍原の着替えを用意した。
その後、軽い朝食を作っていた。
「・・・あ、いいにおい・・」
すると、後ろから声が聞こえた。
「あ、うん、今、朝ごはん作ってるからちょっと待っててね。」
俺は少しだけ振り返ってそう言って、また前を向いた。
「・・・・っ・・・あ、うん。」
俺は知らなかった、その時、藍原がどんな顔をしていたかを・・・。
「あ、藍原、ちょっと、これ沸いたら止めてくれる?俺、その間にシャワー浴びてくる。」
エプロンを取って、俺はバスルームに向かった・・・。
「マジで、勘弁しろよ・・・。」
藍原が何か囁いたのに、その時の俺には聞こえていなかった・・・。
「・・・あれ?先に食べててよかったのに・・・。」
俺がシャワーを浴びて帰ってくるとパンと簡単に作った料理を皿に盛って、コーヒーを入れて、藍原が座って待っていた。
「・・・そういうわけにはいきません。あ、勝手にコーヒーは入れさせてもらいました。」
わざわざ報告する藍原が面白い。
「そんなことまで言わなくていいのに・・・。」
俺はクスクス笑いながら藍原の座ってる席の向かい側に座った。
その後、他愛もない話そして、朝食が終わってしばらくすると藍原は汚れたスーツを持って帰っていった。
クリーニング代を出すと言った俺の申し出を断って、代わりに今度映画にでも行こうと言われて・・・。
藍原との出会いはあいつの部署移動だった。
元々総務に配属されていた藍原は今年俺のいる営業にやってきた。
仲良くなったのは、俺が教育係を任されたからだ。
でも、藍原は俺なんかよりずっと営業向きだった。
明朗快活で、昔運動部だったらしい藍原は礼儀もしっかり身に付いていた。
営業のノウハウとか教えたことはほんの少しで、自分で勝手に成長していった。
勉強もよくしてるみたいだったし、俺としてはすごくやりやすかった。
その上、俺にすごく懐いてくれて、部署内では雄二がダントツ人気だったので、俺の方がいいって言ってくれたのは初めてだった。
別に雄二が羨ましかったわけじゃない、俺は目立たないポジションで満足だったから。
成績もそこそこ普通、怒られもしないし褒められもしない。
学生の頃からそうだった俺は、それでも全然満足だった。
普通でよかった。
普通で。
ただ、それには理由もあったけど・・・。
「あの、つかぬ事、伺ってもいいですか?」
「え?あ、ああ、いいよ。」
それからしばらくして、営業先を回ってきた帰りだった。
急に改まって言うから何事かと思った。
「・・・先輩って、市川さんが好きなんですか?」
自分の耳を疑った。
今、藍原は何て言った?
驚いたなんてものじゃなかった。
「な、何?それ・・・・。」
声は震えていなかっただろうか?
俺は精一杯冷静を装ったけど、きっと声はわかるくらいに震えていたと思う。
「・・・・やっぱり、そうなんですね。」
そんな俺は関係ないという風に、藍原は一人で納得したように頷く。
「だ、だから、何の話だよ?」
俺は必死だった。
だって知られちゃいけない。
知られるわけにはいかない。
「先輩・・・。」
無駄だってわかっていた。
藍原の目を見れば、もう隠せないことも。
「だって、そんなことあるわけないだろ?・・・男同士だぜ?」
でも、あいつに知られるのはごめんだった。
俺の一方的な片思い。
それでも、あいつに知られたら、きっと離れていく。
他の奴らだって、もし知ったら、俺の勝手だって、きっとわからない。
あいつに対してもよくない噂が出来るかもしれない。
俺と違って、期待されてる雄二の負担になりたくなかった。
「・・・・大丈夫ですよ、俺、本当に誰にも言いませんから。」
「え・・・・?」
意外だった、きっと面白がるのだろうと思っていたから。
それでも、信用できるわけじゃない。
普通の想いじゃないから。
「だから、本当に誰にも言いませんから。」
まだ疑いの目を向ける俺に藍原はもう一度言った。
「ただ、悩んでるあなたの力になりたかったんです。」
そう、真剣な目を向けて言い切った。
「あなたの愚痴とか悩みとかを聞ける人になりたかったんです。」
とも・・・・。
「え・・・・・・・・・・・・・・」
そして俺は、驚きと嬉しさとでしばらく固まって動けなくなってしまった・・・。
あれから、ちょくちょく二人で飲みに行っては、あいつに愚痴を聞いてもらっていた。
俺がへこんでいると、一番最初に気が付いて寄ってきては、『今日飲みに行きませんか?』と、声をかけられた。
何かアドバイスをくれるわけじゃない。
俺にとって解決策が見つかるわけじゃない。
ただ黙って、話を聞いてくれるだけ。
じっと頷いてくれるだけ。
それでも、一人でいるよりずっとよかった。
一緒にいてくれるだけで、救われている気がした。
それでよかった。
一人でいるよりはずっといい。
こんな風に話を聞いてくれる人なんて、今までいなかったから・・・。
藍原と出会えてよかったよな、俺・・・。
to be continued…
ちょっと長くなったので後半に続きます。
これは、私のHPにものってる話です。