正義の悪
その日から俺はずっと考えていた。
正しい恋心は、本当に正義であるのか、と。
力なき恋心に何が得られると。
「この世界は、正義で成り立ってはいないよ。」
心がそう訴えてくる。だが、それに異論を唱える理屈を、持ち合わせていない。
「力が正義なのか?本当にそうなのか?」
そう聞き返す。
「ふふふ。甘いね。何かを得るのはいつも、力があるやつだけだろう?
金、女、権力、それに食料。違うか?
この国も世界も、常に何かと闘ってるだろう?
国を守るために、強くするために。あるいは己の利益のために。
何も守れない正義はね、全て壊す悪と同じだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、声の主に体を乗っ取られるような、浮遊感を感じた。
力こそが正義。揺るぎない真理なのかもしれない。
「邪魔するなら全て潰さなくちゃならない。自分が勝つために。」
抵抗するように言った。 「勝つことこそが正義なのか?くだらないな。」
「ここに来て、綺麗事か?くだらないのはお前だよ。」
ああ、そうか。勝たないといけないのか。自分を変えるのは運命でもなんでもない。
俺の力だ。
そう確信した。
辻野が女を奪われ、それをおもちゃのように扱われたのは、辻野が弱かっただけだからだ。
女を振り向かせる力があれば、奪われることはなかった。簡単で単純なことだった。
弱い奴が悪いんだよ。
これから俺の闘いが始まる。