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第5話「友達以上恋人未満」

 赤蠍団レッドスコーピオンズがベアトリスの禁呪?によって、いずこともなく強制転送され、暫しの時間が経った……

 

 カルメン他の、口汚い罵声が消え……静けさが帰って来たそよ通りに……

 隠れていた商店主達は、漸く戸外へ出て来た。

 左右を「そっ」と見渡し、おっかなびっくりで外へ出ると……

 パティの家まで、恐る恐る訪ねて来たのである。

 そして『襲撃された』パティが『無事』なのを知ると、各々安心して帰って行った。


 ……まるでパティを完全に見捨てているようで、情けなく見えるが……

 商店主達も、最初から無抵抗だったわけではない。

 一生懸命抗って、散々脅されたり、暴力を振るわれた結果の上での傍観だったのだ。


 そこへ、ちょうど戻って来たのが、パティの幼馴染ポールである。

 

 ポールは、パティよりひとつ年上の18歳。

 金髪で短髪、決してイケメンではないが、笑顔が爽やかで人懐っこい。

 身体は180㎝を超え、日々の労働もあって肉体は逞しい。

 そんなポールもパティ同様、少し前に両親が他界してひとり暮らしだ。


 大工見習いをしているポールは、カルメン達がやって来た時、ちょうど仕事で不在であった。

 口笛を吹きながらご機嫌で帰って来たポールではあったが……

 商店主達から、事の顛末を聞き、慌ててパティの下へやって来た。


「おいおい、パティ、大丈夫か? 怪我はない?」


「ええ、ポール、大丈夫、無事よ」


「何だよ、おっさんたち、パティを守ろうって気概くらいないのかよ!」


 パティの安全を確認した上で、ポールはとても憤っていた。

 ひとり暮らしの少女が、凶悪な愚連隊からの迫害という危機に陥ったのだ。

 やはりというか、商店主達は難を避けて自宅へ引きこもり、見て見ぬ振りをしていたから。


 もしも自分が居たら、身体を張ってもパティを守ったのにと、ポールは鼻息を荒くしている。

 しかし事情を知っている、パティは横に首を振る。


「仕方がないわ……おじさん達も最初は散々やりあって、脅され、殴られた上に、奥さんや子供まで脅迫されて……そこまで嫌がらせされれば、怖くなるもの……」


「だけどさ!」


 ポールが納得出来ないと、再び不満げに鼻を鳴らした瞬間。


「にゃあん」


 いきなり、ベアトリスが鳴いた。


「おお、拾ったあの猫、元気になったんだな。よしよし……」


 ポールはにっこり笑い、自然に手を伸ばした。

 しかしベアトリスは「さっ」とよけてしまった。

 『嫌われた』ポールは、しかめっ面をしてしまう。


「何だよ、その猫、相変わらず俺には身体を触らせないな」


 パティが猫を拾った数日後、ポールも世話をしようとした。

 しかし意識が戻っていた猫——ベアトリスは激しく唸って威嚇し、ポールには指一本触らせなかったのだ。


 じっとポールを見た後、ベアトリスは「とことこ」歩いて行く。

 そしてカルメンが蹴破った、扉の傍に「ちょこん」と座った。


 こうなると、どうしても大破した扉が目に入る。

 ポールは今更、吃驚している。


「ああっ! 赤蠍団レッドスコーピオンズめ! パティんちの扉、ぶっ壊しやがったのか?」


 間抜けといえば、間抜けだが、ポールはパティの家の扉がない事に気付いていなかった。

 良く言えば、パティの安否が、まずは気がかりだったのであろう。


 ポールの反応には……さすがに、パティの表情も微妙だ。


「そ、そうなの……」


「よっし、任せろ! この前解体した家の扉を貰ったんだ。少し手直しすればぴったりな筈だ」


 ポールは、一転張り切っていた。

 パティの窮地を救えなかった無念さを、ばっちり挽回出来ると切り替えたからに違いない。


「ええっ? じゃあ、お金……払うわ」


「良いよ、金なんか要らないって! どうせ、貰い物の扉さ」


「にゃあん!」


 ポールの言葉を聞いたベアトリスは、また嬉しそうに鳴いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 早速扉を取り付けたポールは、晴れやかな笑顔を浮かべて、また違う仕事へと出かけて行った。

 働き者の彼は昼間は大工見習い、夜は居酒屋厨房手伝いと昼夜で働いているのだ。


 片やパティは、両親が残した『便利屋』の稼業を受け継いでいた。

 便利屋とは……文字通り雑用屋である。

 犯罪以外は「何でも受ける」という仕事で、元戦士だった父は護衛や力仕事、魔法使いの母は魔法を駆使して家事雑用まで、いろいろな案件を請け負っていた。

 一昨年母が亡くなった時、パティは迷ったが、結局便利屋を受け継ぐ事にしたのだ。

 ちなみに、自宅が店舗となっている。


 閑話休題。

 扉も直り、漸く落ち着いたパティは大きくため息をついた。

 そんなパティを見て、べアトリスが含み笑いをする。


『ふふふ』


『な、何ですか? いきなり笑って?』


 戸惑うパティへ、ベアトリスは言う。


『いや、あのポールという少年は中々、良い男だと思ってな。だいぶ、抜けてはおるが……』


『え、ええ……抜けてるというか、おおらかです。そ、そして……ま、真っすぐで、良い人です……よ』


 何となく歯切れの悪いパティへ、ベアトリスの追及は続く。


『良い人? ふむ……どのような意味でじゃ』


『どのような意味って……ポールは私にとって、お兄ちゃんみたいな人です』


『ふむ……兄と妹? ……いや違うな』


 きっぱり、言い放つベアトリス。


『え? えええっ! ち、ち、違うって、どういう意味ですか?』


 ベアトリスから、ポールが兄代わりでないと言われ、パティは焦ってしまった。

 

 何故か、温かい感情が湧いて来る。

 そういえば……ベアトリスはパティの心を読んだ……と言っていた。

 ポールへの、この不思議な気持ち、これって……恋愛感情?

 

 パティは、ごくりと唾を飲み込み、ベアトリスの言葉を待った。

 そして、


『うむ、パティ、お前の感情はのう……』


『わ、私の感情は?』


『ポールに対して、友達以上、恋人未満というところじゃ!』


『友達以上、恋人未満って何? すっごく中途半端じゃない……私、ポールの事、男性としては好きじゃないのかな?』


 はっきり言って……微妙な感情である……

 まだ、彼氏いない歴17年は続くのか……

 

 パティは、更に大きくため息をついたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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