第1話「脅迫」
新作です。
本日は夜までに、第6話までアップする予定です。
燦々と陽が射す、春の日の午後……
大きな建物が建ち並ぶ街中を、一種独特な雰囲気の集団が歩いていた。
構成は、人間族の女がひとりに、同じく男は5人……
ちなみに……
集団の先頭を「のしのし」と肩を怒らせて歩くのは……男ではない。
濃い赤毛を極端に短かく刈り込んだ……少女なのである。
少女は190㎝近い長身を誇り、下手な男が逃げ出すくらい、筋骨隆々のがっちりした体躯を持っていた。
前方を鋭く見据える少女の顔つきは凛々しく、鼻筋がすっと通った端正な男顔だ。
歩く姿勢はピンとし、身体のキレも感じられる。
元気良く、前後にぶんぶん振る腕は丸太のようだ。
普段、よほど身体を鍛えているに違いない。
年齢は、まだ18歳くらいであろうか……
ごつい鋲付き革鎧に身を固め、腰には大きな幅広の剣をぶら提げていた。
堂々と歩く少女の後ろには……
これまた、革鎧を纏った5人の男が付き従っている。
誇らしげに、先頭の少女を見ながら歩く5人の顔立ちは幼い。
成人した男ではなく、はっきり言って少年である。
多分、全員がまだ15歳前後だろう。
しかし、生意気そうな、斜に構えた目付きをしていた。
少年達は、先頭の少女と同様に腰から剣を提げていた。
武器をこれみよがしに見せつける6人全員からは、不気味な殺気が伝わって来る。
「物事は、全て力で解決してやるんだ」という、有無を言わせない暴力の気配が伝わって来るのだ。
派手な鎧が似合う、体躯のごつい少女の名は、カルメン・コンタドール。
王都に巣食う悪辣な愚連隊、『赤蠍団』の首領であり、5人の少年は彼女の忠実な配下である。
ここは古に冒険者上がりの勇者が興したと伝えられる、アイディール王国王都トライアンフ。
その王都の中央広場付近にある、何の変哲もない通りである。
カルメン達は、ある目的を持って、この通りに来ていたのだ。
通りの名は、そよ風通り。
この通りは、短いし、道幅も狭い。
敷かれた石畳も所々、壊れている。
道沿いに並ぶのも、比較的小規模な商店ばかりだ。
あるのは、靴屋、仕立て屋、鍛冶屋、宿屋など……
そして店構えも極めて平凡で、他とここが違うなど、特筆すべき部分はない。
この王都の、どこにでもある普通の店ばかりだ。
様々な職種の商店が並んでいて、一見便利な筈なのだが……
客は……殆ど見当たらない。
巷で聞けば、昔は結構栄えた通りであったらしい。
だが、現在は不景気の匂いが寂しげに漂っている。
手持ち無沙汰で店の前に立っているのは、もう老人に近い年齢の商店主人と、その妻や子など身内の従業員ばかりであった。
通りを闊歩するカルメン達は、グループ名の通り、蛇蝎の如く嫌われているらしい。
加えて、相当怖れられてもいるらしい。
質の悪い愚連隊を好む方が珍しいともいえるが、彼女達の姿が見えた途端、商店主達は青ざめ、急いで奥へ引っ込む。
更に扉を閉め、固く閉ざしたのである。
「ふん、お前らは、もうお終いだよ」
隠れた店主達へうそぶいたカルメンは、「ペッ」と道へ唾を吐く。
背後に居る、5人の少年達も「にっ」と嫌らしく笑う。
やがてカルメン以下6人は、古い建物の前に立った。
入口が広い造りで2階建て……やはり元は商店だったらしい。
扉はやはり……固く閉ざされていた。
カルメンは少年達に目配せした。
指示通り、少年達は背後で身構える。
「にやり」と笑うカルメンが、ゆっくり足を上げ、溜めを作る。
どどっばぁ~ん
間を置かず、カルメンの放った鋭い蹴りが、扉へさく裂した。
鍛え抜かれた強靭な筋肉から、強い衝撃が繰り出される。
木製の古びた大型扉は、派手な音を立て、バラバラになり大破した。
更にカルメンが、ボロボロになった扉を容赦なく蹴り上げる。
2発めの蹴りを受けた扉は完全に吹っ飛び、入り口は単なる穴となった。
家の中に、人の気配がする。
見れば、カルメンの正面に、腕組みをしたひとりの少女が立っていた。
長身のカルメンとは対照的に、とても小柄だ。
少女の身長は、150㎝を切るくらいだろうか?
その上、痩身で華奢である。
髪はパサパサ、ブラウンでストレート、肩まで伸びていた。
小さな顔には少しそばかすがあるものの、肌の血色はすこぶる良い。
顔立ちは、けして派手ではない。
だが、パーツのひとつひとつが可愛らしい。
まるで、森の木々で遊ぶ栗鼠のような愛くるしさだ。
しかし見開かれた目の中の、美しい鳶色の瞳は、家を壊された怒りで燃えていた。
肩をぶるぶる震わせ、立ち尽くす少女へ、カルメンは悪戯っぽく笑う。
「おや? 彼氏いない歴17年のパティさん、居たのかい?」
何と言う、ふざけた挨拶だろう。
反面、友達のような気安さでもある。
図星を言われた少女——パティは驚き、食って掛かる。
「はぁ!? 私がずっと彼氏なしだって、何で知ってるのよ!」
「うふふふ、あんたの事は何でも知ってるよ。さびしんぼうのパティさん」
カルメンの言い方には何か、含みがあった。
目的があって、パティの素性を調べた。
そんな響きである。
片や、パティもカルメンとは何度か会っているらしい。
「うるさい! あんたに言われたくないわ、あばずれカルメン!」
「うふふ」
「何笑ってんのよ! どうせあんただって、生まれてからずっと彼氏なしでしょ。私の事はほっとけ! 余計なお世話!」
「う! そ、それは……い、いや! そっちこそ口が悪いじゃないか。どっちがあばずれだい? それにこのままあんたをほっとけないよ」
「な、何が、ほっとけないのよ!」
「決まっているだろう? さびしんぼうさんにこのまま居座られちゃ、あたし達が困るんだ。一昨日、言ったはずだよ、すぐに立ち退けって。まだ引っ越ししていなかったのかい?」
「立ち退く? 引っ越し? 何、言ってるの? ここは私が生まれ育った家。私の家なのよ。それよりよくも扉を壊したわねっ、ちゃんと弁償しなさいよっ!」
パティは、カルメンを睨み付けた。
しかしカルメンは、視線を正面から受け止め、わざとらしく肩をすくめる。
「はぁ? 私の家? どこが? パティ、あんたはあたし達から金を借りたよね。でも期日までに返せなかった」
「無理よ、あんな高い利子! 不当よ!」
抗議するパティへ、カルメンは冷たく笑い、指を左右に振る。
「ちっちっち。馬鹿言っちゃいけない。借りる時は喜んでいただろう? 借用証書では家が借金の担保になっていた筈。だから、ここはもうあたし達、赤蠍団の所有物件さ」
……事情が、見えて来た。
カルメン達は、パティへ貸した借金の代わりに、この家を取り上げようと乗り込んで来たのである。
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