プロローグ~リセット~
~リセット~
「今まで、ありがとうございました。愛美先生が居なくなってしまうのは寂しいですが、大学へ行っても頑張ってくださいね。また、一緒にお仕事できるのを楽しみにしています。」
夏休みも終了し、明日から新学期が始まろうとしている時期
私、有村愛美24歳は2年半勤めていた保育園を退職して、来月から資格を取るためにもう1度大学へ進学することになった。
本当ならば、あと半年待って春学期入学を選んでもよかったのだが、職場環境のごたごたに巻き込まれそうになり、嫌気がさしてしまった。原因は、もっと深いのだがそれはまたの機会にお話をしよう。
特に、この半年厄年なのかというぐらいに色々な事が起こり、少しでも早くこの環境から離脱したくて秋入学を選んだのだ。
最後のお別れの挨拶をしている時、泣いている職員もいた。泣いている職員には、申し訳ないと感じるのだが、私自身ここで何かを成し遂げたわけでもない為、愛着などもなく心の中で、どこか冷めている自分がいた。
「ありがとうございました。また、皆さんと一緒に働けることを楽しみにしていますね。」
神様に誓ってもあり得ないことだが、上手い社交辞令を言って職場を離れた。
まだ、残暑が残る夜の風が心地よく感じながら帰りに貰った大きな花束を抱えて家路へと向かった。
電車に揺られながら、花束から香る薔薇の匂いに心を癒されている中、1通のメールが届いた。
【今日で、仕事終わったんでしょ!おめでとう】
彼氏からのメールだ。
【でも、お前さ俺にさんざんな事言っていたくせに結局逃げてんじゃん。俺に甘いとか言っていたけどお前も社会舐めてんのな】
どういうことだ?彼とは、大学時代の付き合いであった。彼も私も同じ時期に就職をしていたのだが、就職先で上手くいかず半年もせずに退職をしてその後は、派遣の仕事で生活をしていた。しかし、今年に入って働いていた会社の業績が悪く不運にも派遣切りにあってしまったのだ。その後、働き口を探すにも見つからない様子だった為、アルバイトでもいいから働くように促していた。そんな、チクチク言う私が嫌だったのかこんな感じで「仕事」というワードが出ると口論になることが多かった。今回も、私が仕事を辞めて大学に進学することが決まってからは、「俺とお前は同じだ」とお決まりのセリフを何度も言っていた。
もう潮時なのかもしれない、何回も別れを考えたがここまで言われたことはなかった。だから、ギリギリのところで留まることができていたが今回ばかりは、もう難しいのかもしれない。私は、意を決して返信をした。
【そうだね。私は、人のことを言うばかりで貴方の気持ちを考えてあげられていなかったね。こんな奴と一緒にいるよりも、貴方にはもっと他にいい人がいるよ。価値観が合わないからこれ以上一緒にいてもいいことないからね。ここで終わりにしましょ。】
その後、何通かメールが届き色々言われたが何とか別れることができた。
夏の終わり、2年半付き合っていた彼氏と職場を手放した。
私の2年半は何だったのか、全てを捨ててしまった気がした。
しかし、それ以上にモヤモヤしていた事から抜け出した開放感の方が増して少し肩の荷が下りた。
夜風に吹かれながら、明日からは前を向いて生きてみようと思える夜だった。