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Neoネくら魔's  作者: Reサクラ
勇者編
18/21

第17話 アラソルンの息子

 勇者ってのは、困っている人を助けるもんだ。

 魔王ってのは、人を困らせるもんだ。

 で名探偵は――どうでも良いよな? そんなもんにみんなは興味ないはずだ。

 それよりも、美少女ってのはどうだ?

 美少女ってのは、そうだな、人を幸せにするな。これがまず一つで、すっきりと気持ちよくしてくれるのが二つ目だろうな。あと七つくらいならすらすら出で来るが、まあ今はこれくらいにしておこう。

 今の俺が言っても自画自賛みたいになってしまうからな。俺はどっちかと言えば謙虚だから、いくら美少女だったとしても、あんまり自分のことを褒め散らかすのはどうかって思うわけ? でも、こういうつつましいところも、俺の魅力なんだろうね。


 などと説法してみたが、広瀬は聞く耳を持つそぶりもなかった。

 心が読めるくせに聞こえないふりか。斬新だ。


「君を助けるのは嫌々で、仲良くする気はないよ。わかるよね?」

 呆れたように広瀬が言った。こうやってしゃべらせたし、不快な笑みが出てこなかったので、実質俺の勝ちみたいなラインだった。

「何だよ、頭がピンクの癖して、お高くとまりやがって」

「君は頭の中がピンクじゃないかな」

 そんなことはない。

 もちろん性欲に色が付くなら、多分、桃色なパラダイスなんだろうけど。

 だってほら、実際ピンクでもないじゃん? むしろそれって少数派よ。どっちかって言うとベージュっていうかアーモンド色っていうかなんていうか。

 何の話かって? そりゃあれよ、胸の先のあれよ。


「僕はけっこうピンクだけどね」

「え……? お前、マジで言ってんのか? マジなら、俺も態度改めるけど(※1)」

「下着のことだよね? 僕が持っているのは八割くらいピンクだよ。それがどうしたの?」

 下着? 何言ってんだこいつ。

 俺はブラジャーとかそういうのにきゃっきゃっできるお子様じゃないっての。おヌードよ、おヌード。ありのままのヴィーナス(※2)だけが俺のお望みなわけ。

「あ、そう。ふーん、良いんじゃない。ま、俺はそういうの興味ないけど」

 と適当にあしらって済ますが、しかしそうか、こいつの下着はピンクか。うん、感が深いな。としばらく悟りに近い感覚が俺を支配する。

 俺はこうした突発的な、性の神髄に触れるような瞑想を日に何度かしてしまう癖がある。多分前世(※3)はイケメンの哲学者だったんだろうな。あ、こっちの世界の俺の前ね。今の二個前。

 もっちも、この世界の俺もイケメンで哲学めいた啓蒙家であったことは疑いようもないことだけれども。


「今更だけど、言って置くとこの髪は地毛だからね。僕の世界じゃ、こういう髪色の人間はたくさんいたし、珍しいものじゃないんだよ」

「ずいぶんと派手な世界だったんだな」

 俺はコスプレ会場みたいなものを思い浮かべた。

「あと、これも言って置くよ」

 広瀬は俺の頭に指を差す。

 えと、舐めろってこと?


「君の頭も十分派手だよ、この世界で言えば」

 と広瀬は言った。

 なるほど、確かに俺の頭は白金色だった。

 今時、金髪のやつってのもなかなか見ない。田舎とかにはまだそういうヤンキーがいるんだろうけど、東京にはそんなバカほとんどみかけない。ま、歌舞伎町とかにはけっこういそうだけどな。


 そんな中、俺はプラティナブロンドなわけさ。

 うん、確かに派手だ。

 でもほら、顔もべらぼうに美人なわけで、どう見ても外国人な俺がこういう髪色だとしても特に変でもないわけだよ。

 そりゃ、変じゃないだけで、とっても素敵で目立ってしまっていることは否定できないけどな。


 朝学校に行ったときもえらい賑わいだったものさ。

 あの人誰、どこのモデルなの? ってなもんよ。突然アラブのイケメンな石油王が求婚してきても不思議じゃないくらいだね。


 こうやって喫茶店でお茶してても、男やら芸能プロダクションスカウトやらにじゃかぽこ声をかけられて、モラルもへったくれもない陰キャのキモオタに盗撮されてSNSに今やべえ美少女いたんだが、とか上げられててもおかしくないわけさ。


 だからピンクのお前と一緒にして欲しくないね、と、これから俺を男に戻してくれようとしているとても心優しい広瀬さんには、とてもとても言えない。

 あー良かった、俺ってそういう常識がある人間で。言って良いことと悪いことの分別が付くんだよ。大人だかんね。


「…………」

「おい、何か言えよ。こっちはお前が心読んでいることを踏まえてやってんだぞ。なんかしゃべってないのに独り言言っちゃったみたいな気分になってくるだろ」

「知らないよ」


   ◆


「というかさ、魔力が足りないのが問題なのはわかってんの。そんなのは最初からさあ」と俺はマドラーでぺしぺしとテーブルを叩く。

 アイスのキャラメルマキアートには一見必要のないものに思えるが、その通りなんの必要もなく資源の無駄使いとなってしまったものだ。家に持ち帰って、《魔王》とでも書いて庭の隅にでも差して置こうか。うん、良い活用方法だ。

「肝心なのはさ、男に戻るためには膨大な魔力が必要で、俺のマックスでも足りないって事。でもってさらに問題なのが、こっちの世界に戻ってきてからマックスどころかちっとも魔力が回復している様子がないわけ」

 口に出す必要もないのかも知れないが、俺はとうとうと苦言を並べる。

「昨日の夜の段階でほぼ魔法が使えなくなってる。多分今も、ろくな魔法は使えないと思う」

 正直言うと、さっぱり魔法が使えないってのが怖くて、今日は使わないように意識していたところもある。でも俺は魔法が使えなくっても美少女だったから、十分魔法的なエンジョイ生活をしていただろ?


「広瀬が言うように、こっちの世界じゃエネルギーが集まらない? ってのか、ほとんど自然回復は見込めないわけ」

 うんうん、と俺は肯いてから。

「そーんなんは、ずっと前からわかってるわボケっ! 何が名探偵だ! わかりきったことしたり顔で言ってんじゃねえぞ! 名探偵自称するならもうちょっとマシなこと言よなっ!」

 とキレてみるが、広瀬の方は涼しい顔のままだった。

 俺みたいな美少女が怒ったところで、意に介すこともないらしい。


「だからねえの? こっちの世界で回復する方法は、さ。そこが知りたいんだけど」

 向こうの世界じゃいくらでもあった。苦い草とか苦くて白いべたべたした液体(※4)とか、そういうのを身体に取り込んで、魔力を補うことができるわけだ。俺は魔法使いだからそういうのももちろんけっこう携帯していたんだが、魔王との戦いでほとんど使い果たしている。

 手持ちの残りじゃろくすっぽ回復はできないだろう。

 おそらくシャンプーとリンスの中身を三往復させる程度というところだ。


「そうだね、ないわけじゃないよ。でも君が言うとおり、こっちの世界じゃ、莫大なエネルギーをまかなうだけの回復方法となるとちょっと難しいかな」

「……おい」

 まさか、あれだけ褒め称えさせて置いて、本当に役立たずなのか? おいおい使えないにもほどがあるぞ。俺が無理してアゲアゲしたあの辛さを取り返したいぐらいだ。

「こっちの世界なら、だよ」

「はい? いや、そりゃ向こうの世界ならあったけど、持ってきてねえんだよ。それとも何だ、お前は異世界からなんか便利なもん持ってきてんのか?」

「残念なことに僕も着の身着のままだよ。この心が読める力以外はこの世界の人間と何も変わらないよ。強いて言うと名探偵ってのもちょっと特別なところだけど」

 あと頭の色と頭の中身ともかなり特別にキメてるだろ。

「おい、ってことはもうどうしょうもないだろ。俺もお前も為す術なしじゃねえかよ」

「でもまだあるだろ?」

「は? おい、もったいぶるな、早く言えよ」


「君が異世界から持ってきたもの、ほら」

「……俺、この顔のことか?」

「うん、違う」

 広瀬は不愉快な笑顔で口を引きつらせた。

「君の家にいるよね? もっとも、本当に今も家でおとなしくているかはわからないけどね」

「家……?」

 それってつまり、アイドルの写真集とかそういう――のではなく、そうだ。

 俺が異世界から持ってきたものがあった。


 勇者だ。ラプスがいる。


「あの勇者がなんか役に立つのか?」

「立つよ。その子は君が思っているよりずっとすごいことができるよ、君を助けてくれるはずさ」

「そりゃ、まああいつはすごいとは思うけど……おい、俺は男に戻りたいんだぞ。そんなの勇者だからって何にもできないだろ」

 基本的に剣を振り回すことしかできないようなやつだからな。

「まさかあれを切る……!? って違う、俺は男に戻りたいんだ、わかるよな? 切るようなものは何もないんだぞ!?」

 あるいは誰かのを切ってきて、俺にくれるとか? って無理無理、他人のとか絶対無理だし。俺男風呂入るのも無理なくらいだからね。他人のアレを自分のものとして受け入れるなんて絶対無理だから。


「異世界でもずいぶんと面白そうな経験をしたみたいだしね」

 と広瀬がニタニタと笑う。

「え、おい、お前は頃が読めるだけで別に記憶は読めないよな?」

 確かに、異世界で美少女だった俺は他人のアレに散々嫌な思いをさせられた経験がある。でもそんなことは別に思い出していなかったはずなのだが。というか思い出したくない。早く忘れたい。


「それなら本題に戻るけど、君のお友達は魔法が使えるよ。それもかなり強力な魔法がね」

「あ、あいつが魔法? 嘘だろ、そんなわけない、あいつは勇者で魔法の使い方も……」


 魔法の使い方、と言っても妖精語改め日本語で呪文を唱えるだけだけど。

 あれ、となるとそうか、ラプスはかなりのレベルで日本語が使えていた。対魔法使いとの戦闘対策の一環として妖精語の勉強をしていたと言っていたが、つまり素養さえあれば、魔法は使えるはずなのか。


「いやでもあいつが魔法なんて使ってるとこみたことないし、そんな話も聞いたことないぞ」

 お前魔法は使えないの? と聞いた覚えも確かにないが。

 だって勇者だぞ。魔法は使えないだろ、普通。あれ、俺ゲームとかそんなやらないからわかんねえんだけど、そうだよね? もしかして使える? 普通勇者も魔法って使うの? そういえばアラゴルン(※5)も大量の亡霊を引き連れて明らかにガンダルフよりも魔法使いめいた戦い方してたしな。


「じゃあ、本当に? ならあいつの力で俺は元の姿に戻れるわけか?」

 ちなみに魔王は? あいつ魔王なのにもしかして出番とかないの? と少し心配になったが、よく考えてみたらここから先あいつがもう二度と俺の前に現れなかったとしても特に問題はなかった。

※1 態度改める

身体はすげえナイスバディなんだけど、顔がちょっと残念って女の子がたまにいるだろ? 俺はフェミニストだから胸さえでかけりゃ差別なんてしねえけどさ。それと一緒で、胸がでかくても頭があれだとね、ちょっと気持ち的には下がるわけ。逆に物足りないサイズ感でも、綺麗な薄桃色とかだとむしゃぶりつきたくなるよねって話だ。


※2 ヴィーナス

裸で貝の上に立っているちょっと頭が心配になる女性。でも肉付きが良い美人だから、あんまり悪くは言いたくない。


※3 前世

前の俺の前世はおそらくオーランド・ブルームかリヴァー・フェニックスだろうな。顔を見ればわかるよ。そっくりだもん。あれ、これ前も言ったな? えっとリヴァー・フェニックスは四歳の時に童貞喪失したらしいぜ。やべえだろ四歳って、俺でもまだ精通してねえよ。やっぱブルームの方かも知れないな。奥さんが美人だし。


※4 苦くて白いべたべたした液体

苦くて白いべたべたした液体。飲むと魔力が回復する。俺は飲まない。飲ませるのは割と好き。


※5 アラゴルン

アラソルンの息子で髭が濃いタイプのそこそこなイケメン。彼女がすげえ美人。ま、リヴ・タイラーなんだけどね。俺そっくりのオーランド・ブルームがエルフ役で出てくるやたら長い映画を三本を観た理由は、同じくエルフ役のリヴ・タイラーが美人ということ以外他にない。そういやアルマゲドンに出てたときもすげえ可愛かったよな。リヴ・タイラーのおっぱいの山を動物ビスケットみたいので登るシーンがあるんだけどさ、はっきり言うとアルマゲドンで一番良いシーンだよね。ハゲが爆発するとことかよりずっと。超色気のあるへそも堪能できるしさ。あー俺も早くおっぱいの山登りたいなあ。

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