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Neoネくら魔's  作者: Reサクラ
勇者編
17/21

第16話 心の隅に忘れ物

 昔から、女の子が好きだった。女の子と書いて好きと読むのだから何か不思議なことでもないだろう。

 昔から、大きな胸が好きだった。女性の象徴である胸、それが大きいと言うことはつまり女性的強さとも言えるわけで、大きな胸を好むことは男性として正しいことであり、これもまた不思議なことではないだろう。

 生物的かつ種の生存本能的に正当なものであり、俺にとっては何ら疑いようのない自然現象であったのだが、それは呼吸ように、あるいは鼓動のようにあるべきものであったのかと聞かれてしまうと、多少考えてしまうことでもあった。


 つまるところ、何故俺がこんなにも女性を好いているのか、それは自分自身でもわからないことなのである。

 好きであることはおかしくないが、確かに他の野郎共と比べて俺はちょっとばかし好きの度合いが大きいようではないだろうか。

 顔が良いからか? 男性ホルモンが強いからか? そういう遺伝子DNAに刻まれた何かであるのなら、俺になすすべもない。

 もっとも、別に俺は抵抗などする気はなかった。

 俺は女の子が好き。女の子もかっこいい俺が好き。


 まさしくあるべき世界平和の姿とも言うべきではないか。

 でもちょっとばかり、俺が好きな女の子も、俺のことが好きな女の子も数が多すぎるのが問題である。俺自身は、こっちも別に問題とは思ってはいないけれども、どうも問題の発端となることがたくさんあるのは事実である。

 異世界へ転生する原因だってそうだし、こいつが理由で異世界でもいろんな事が起きた。

 波瀾万丈な毎日ってのも悪くないけどさ、俺はどっちかと言えば穏健な性格だし、こんなにイケメンなのにインドアなところがあるから、おかしな事件に巻き込まれるのも、おかしな連中に絡まれるのもごめんこうむるわけだ。

 ただ平凡に、女の子たちと平和に暮らしていきたい。

 俺はそれだけを願って今日まで二度の人生を過ごしてきていた。なんて謙虚で慎ましいんだ。顔も良くて性格も良い。こんな俺を神様はもっと幸せにしてくれても良いんじゃないか?


 神様じゃなくて、女神様ならきっと俺のことも愛してやまないだろうにさ(※1)。


   ◆


「僕はここじゃない別の世界の人間だった。どんな世界かって説明は省略しよう、君は興味もなさそうだからね」

 少しだけ興味はあったのだが、心を読める広瀬がそう言うのだから、おそらくこいつ自身話したくもないのだろう。

「こっちの世界に来たのはある事件に巻き込まれたことが原因だったんだよ」

「ある事件? なんだよ、孤島で殺人事件でも起きたのか? 嵐の中、連絡手段もなく島から離れることもできない、古びた洋館で次々と誰かが死ぬんだろ」

「へへ、違うよ」広瀬は鼻をつくような笑いで首を振った。「僕が名探偵になったのはこっちの世界に来てからなんだ。だから前の世界では別に名探偵でもないければ、探偵でもなかったんだよ。向こうじゃ、ちょっとした自警団みたいなものをやっていてね」

「ああ、そういうやつ」

 いるよな、元警察の私立探偵みたいなの。

 そういうのって何、異世界でも流行っているんすかね。何かたかが探偵のくせに警察にやたらコネがあるのって俺はけっこう萎えるんだけどな。結局それなら最初から警察で良いじゃんって思うわけ。

 だから俺はミステリでも最初から警察が探偵役の方がまだ好きだね(※2)。結局メインの人間が探偵の代わりに推理するってだけで、中身はだいたい同じだけど。


「こっちの世界に来て、色々と困ったからね。幸い、僕はこの能力があったからなんとかなったけど、名探偵になったのも仕方なくだったんだよ」

「それにしては鼻高々に見えるけど」

「否定はしないよ。僕は名探偵ってフレーズを気に入っているからね。君だって自分のことを美少女天才魔法使いって言うのがずいぶんと好きみたいだけど?」

「好きじゃなく別に事実だから……」


 広瀬は俺と違って、こっちには異世界転移的なあれで来たのだろう。

 つまりバカ勇者とバカ魔王と一緒だ。バカ探偵だ。

 密入国者たるこいつが、そこそこ行政の行き届いた日本という国でひょっこりと生活するのは中々に大変だったろう。そりゃホームレスなんかで生活するならできなくはないけど、何かしらの身分というものがないと部屋を借りることすらできないし、こいつみたいに若い女性じゃ、夜もふらふらと出歩いていれば警察に補導されてもおかしくない。

 そうしたらこいつは直ぐに怪しい人間として拘置所送りだろう。

 実際はどこの国から来たわけでもないが、中国やら中東あたりの密入国者だと疑われ、シャバに戻れる可能性は低いと思われる。かといって送り返される母国があるわけでもないから――最終的にどうなるのかは知らん。

 どうなるんだろうな。

 忘れ物とか落とし物の大半は持ち主が現れず、警察のどこかで何年間かは保管されて、その期間が過ぎると捨てられるらしいな。多分それと同じ感じになるんじゃないかな。


「その時に助けになってくれたのが彩ちゃんってことになるんだよ。僕が名探偵駆け出しだった頃ね」

 名探偵駆け出しって何だ。床上手な処女みたいなもんか。いや、それだとすげえ良い感じになるし逆? ってことはマグロ嬢(※3)? 妖怪かな?

 で彩が助け? 俺の幼馴染みが何をしたって言うんだ。

「助けって何だ? 助手役でもやってくれたのか? あいつにそういう賢いことはできなかったと思うけど」

「細かいことは次の機会があったら話させてもらうよ。彩ちゃんへの感謝は数え切れないほどだけど、君に話したいというわけじゃないしね」

「俺も聞きたくはないな」

 とは言いつつ、正直彩が何をしたのかはかなり気になった。


 まさか変なことはしていないよな。一応、女同士だし。ん、待てよ、まさかこいつも前は男だったってことはないよな? それはなんていうか許せないというか、なんというか複雑な男心なんだが。

「僕は転生したわけじゃないからね。前の世界でもこの姿だよ」

「……あそ」

 興味なさそうに返すが、俺は一安心する。

 プライバシーのへったくれもないのは勘弁して欲しいが、聞きにくいことも口にしないで聞けるのは便利と言えば便利かも知れない。友達になりたいかと言えば、「僕の方もお断りだ」と広瀬。同意見。


「それでね、お礼というほどじゃないけど、僕にできることで彩ちゃんに何かしたかったんだよ。それが君の素行調査だったんだ」

「そ、素行調査?」

 いきなり探偵っぽい単語だ。探偵というか興信所か? 何がどう違うのかは知らないが、興信所の人間が殺人現場に出くわしても何の頼りにもならなそうだ。

「一ヶ月前から、一昨日くらいまでかな。――つまり君が死ぬ一ヶ月前から死んだ一日前まで、君のことを調べていたわけだよ」

 一ヶ月間、俺はこいつにつけ回されていたらしい。

 しかし一ヶ月前と言っても、俺にとっては実際のところ十七年以上前のことなので、さっぱり覚えていない。

 全く、ストーカーじゃないか。これが女の子だからまだ精神的に許せるレベルだが、気持ちの悪いおじさんとかだったら発狂してもおかしくないな(※4)。

 というかこんな派手な頭で尾行とかってできんのか? これに気づかないって俺も俺でマズイんじゃないか?


「待て、それってことは屋上で――俺が異世界に転生する原因になったあの日――彩が浮気だの何だのと根も葉もないことを言いながら付きだしてきた証拠写真はお前が撮ったやつか!?」

 俺の記憶がふわふわとよみがえってきた。

 そうだ、写真を証拠に俺の浮気を疑ってきたんだ。確かに複数名の女の子と仲良くはしていたけれど、俺の愛は疑いようもない本物だったというのに、心外なことだ。

「根も葉もない? 証拠写真は君見たんだろ? 根や葉どころか、花が咲いていると思うけどな」

「花が咲いてんのはてめえの頭だろうが! 何してくれてんだ、お前のせいで俺は屋上から落ちて異世界で命をかけた大冒険かますはめになったんだぞ!」

 主に脳みそまで筋肉の勇者が剣を振り回している遙か後方で魔法を使っている冒険だ。もちろん万が一にも勇者がやられると俺も一緒にやられること請け合いなわけだから命がけなのは間違いない。


「そうなってしかるべきようなことを君はしていたからね。僕の調査結果を告げた彩ちゃんが早まったことをしたのは、確かに僕の伝え方にも問題はあったのかも知れないけどね」

「ありまくりだろうが! ふざけんな、思い出したぞ、俺が女の子と喫茶店にいる写真とか撮ってたけどな、あれが浮気? ふざけんなよ、じゃあ今の俺とお前はそういう関係か? 違うだろうが! 喫茶店ぐらい誰とでも入るってのバカ!」

 例え、洒落たバーで酒飲んで、そのあとホテルに行って一晩明かしたとしても、中で一緒にゲームしていただけかも知れないんだ。それなのにお茶していただけでそんなことを言われりゃたまったものじゃない。

 言いがかりだ言いがかり。


「でも女の子の髪や、手とか頬とかを良く触っていたよね。好きだとか可愛いとか、そういうことも言っていたのも僕は確認しているけど」

「ちょっとしたスキンシップだろうが。そんなの別に友達ともするし……」

「同姓の?」

「ああ、するよ」

 今俺女だし、するする。

「男性の友人だよ。――君に男性の友人はいないかな」

「し、失礼な! いるわい! 一人いるから!」

 っても、あいつの手を触って可愛いね、なんて言うかと言われればもちろんノーだ。異常に可愛らしい男友達がいて、俺が無人島で一ヶ月ぐらい過ごした後だったら、可能性はなくはない。

 ――いや、ないな。

 俺の魂に刻まれた本能が、女の子とそれ以外を明確に区別している。


「君のポリシーは知ったことじゃないけどね」

 広瀬はピンクの頭で言った。

「君を一ヶ月――それから今もこうやって君と話して、心読んで、君はまるで彩ちゃんにふさわしい男じゃないし、彩ちゃんの心を傷つけている君を僕は許せない。だから君を戻すことに力を貸したくないわけだよ」

「……そ、そうかよ」

 こんなに懇切丁寧に説明して欲しくもなかったんだけど。

 いやほら、俺ってけっこう諦めは良い方だから、断られた女の子にしつこく絡むとかしないしね。

 なんて言うか、別に俺は心とか読めないけど、広瀬はやたらとくっちゃべって長々と説明するのが好きなんだろう、と何となくわかった。

「そんなことはないよ」

 と否定してきたが、例え俺の心を読めたところで、俺の心を変えることはできないのだ。

 広瀬は面倒なやつ。この認識を変えることは未来永劫ないだろう。


「……あのね、僕が長々と説明していたのは、本当はそれくらい嫌だけど、でも彩ちゃんにお願いされたから、ほんっとうに仕方なく、嫌々だけど力を貸そうってことなんだけど? もし最初から断るつもりだったら説明どころか、まず君と二人きりで会うなんて絶対しないよ」

 なるほど、こいつは思ったよりいいやつらしい。

 面倒、というよりは面倒見が良いという感じか。

「本当に君の精神構造は心配になってくるよ。情緒不安定だ。よく落ち着きがないとか言われない?」

「言われねえよ」

「どうでもいいけどね。だから大事なのはもう一つの理由ってわけ」

 そういえば、理由は二つあるって言ってたな。

 俺もどうでも良いと思って忘れていた。


「もう一つは単純な問題だよ。戻す手立てが今のところないってこと」

 広瀬はやれやれ、と面倒そうに言った。一応言って置くと、別に広瀬が面倒、という意味ではない。「そのことはもういいよ。フォローしなくても、君のことはとっくに大嫌いだから」と広瀬。良いやつだ。気遣いができる。

「君の姿を元に戻すってのは、この世界にある技術じゃ少し難しい。だから異世界の力――つまり魔法みたいなものでどうにかする必要があるよね。だけどね、肝心の魔法が問題な。僕が元いた異世界にも魔法めいた力はあったし、僕も多少なりとも使えたんだけど。こっちの世界に来てからは全く使えないんだ」

 俺にも聞き覚えのある話だった。というかつい昨日のことだ。

 さすがに覚えている。俺も昨日、こっちの世界に戻ってきてから魔法がほとんどまともに使えていない。


「これは僕が調べて、推測も込みだけど、おそらくこの世界では魔法の源のようなエネルギーが身体に集まり難いんじゃないかな? 君がいた異世界と僕のいた世界の魔法は少し違うものだと思うけど、でも何かしらのエネルギーみたいなものが必要なんだろうね。超常の力といえど、非常識には非常識なりのルールというものがある」

 魔力のことか。確かに魔法と言っても別に好き勝手使えるわけじゃない。

 例外にも例外のルールがある、みたいな話だな。

 フランス語は発音の例外ばっかで覚えるのが大変って、ベッドの上で聞いたことがある。だけど例外もいくつかのグループがあるからそれを覚えて勉強するとか言う話だった。それと似たような感じだろうか。


「ちなみに僕の世界ではペンタクル――五芒星? って言うのかな、――を地面なりに書いて力を使っていたよ」

「ふぅん、なんか魔法っぽくて良いな」

「君の世界はどうだったのかな?」

「……なんて言うか、もうちょっとあれな感じかな。カッコイイ感じの呪文って言うか」

 日本語をそのままならべるだけ、と魔方陣じゃ偉い違いだ。

 俺も魔方陣のが良かった。いや、でも書くの面倒そうだしな。

「え、日本語のまま? ……それは君に取っては楽だったろうけど、少しあんまりじゃないかな」

「う、うるせえな! つうかお前は日本語話すの上手くねえか? こっちの世界に来て何年位なんだよ」

 恥ずかしいので話題を変えることにする。

「半年ぐらい、かな。日本語は最初苦労したけど、僕は人の心を読めるからね。言葉も何となくだけど覚えていって、今じゃこれくらい話せるようになったんだよ。でも実のところ読みと書きは全然ダメなんだけど」

「なるほどね」

 心が読めても、字はわからないというわけか。


「で、魔法を使うためのエネルギーってのは、俺の方の異世界でもあったよ。魔力とか言ってな。それでそのエネルギーがないのはどうしたらいいわけだよ。異世界だと割と自然に回復してたし、一応回復できる薬とか草とかあったけど、なんか他にこっちの世界でも簡単にできる方法とかねえのか? ほら、女の子のあれをあれするみたいな」

「……やっぱ助けたくないなあ」

 と広瀬がつぶやいたが聞こえないふりをした。

 俺は心とか読めないし、小声なら聞き逃しても仕方がないからな(※5)。

※1 神様じゃなくて、女神様

そうは言っても、そもそも日本生まれの俺が特に神様とやらを信じているわけではない。でも女神ならいてもおかしくないと思うんだ。例えば、胸の大きな美人を見たとき、ああ、もしかして君は女神なんじゃないかって、そう思うわけ。だろ?


※2 ミステリでも最初から警察が探偵役の方がまだ好き

もっと言うとハードボイルドものの方が好きだ。あれも私立探偵とかけっこう出てくるけど、とにかくハードボイルドの方がエッチな展開が圧倒的に多い。金、暴力、それからセックス。それがハードボイルドだ。つまんねえ推理とかそういうのはいらないんだ。あと暴力も興味はない。金は、ちょっとある。


※3 マグロ嬢

恥ずかしい話、俺自身プロとの経験はない。アマチュア専門だったというわけだ。だから実際の所、マグロ嬢というのは案外いるものなのかどうかってのも知らない。いてほしくはないな、という願望があるだけだ。すまんね、まだまだ未熟者なんだ。いや、俺高校生だし、プロとの経験豊富ってそれはそれで問題か。


※4 気持ち悪いおっさんからストーカー

男が気持ち悪いおっさんからストーカーされる可能性はほとんどゼロだと思うが、可愛い女の子は生まれた瞬間から潜在的に気持ち悪いおっさんたちの視線の的になっているわけだ。可哀想だ。可愛い女の子もだし、女の子見つめることもできない気持ち悪いおっさんにも同情してしまう。俺はイケメンで良かったよ。


※5 小声なら聞き逃しても仕方がない

もごもご言った後、「え、何?」って聞き返したら「聞こえなかったなら別に良いからっ!」とか逆ギレしてくるやついるけど、「え、何? 貧乳の君がいったい何の用? 正気?」って意味で聞き返しているわけで、別に聞こえていないわけじゃないからね。でも女の子相手に言うのは躊躇うから「え、何?」までで止めているわけ。俺って紳士だし。あ、顔が良い子にはそんな態度しないよ? だから君は安心して。

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