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Neoネくら魔's  作者: Reサクラ
勇者編
14/21

第13話 チョコレートより甘い何か

 男は船で女は港と言うらしい。

 俺はさしずめメアリー・セレスト号ってとこだろうな。で彩は何かって? ……田んぼ、かな。


 ところで気になっているかは知らないが、異世界にも田んぼというものがある。タイだってイラクだってできるんだ、そりゃ異世界でも米くらい作るわっての。

 しかしまあ、ジャパンと比べるとねえ、そりゃ幾分も落ちるわけですよ。思うに水の質と、精米技術の差が大きいんだろうね。なんつうか味がこう大ざっぱだし、白くもなければ黒くもないわけよ(※1)。いや黒かったら大事だけどな。


 もちろん異世界っつてもさ、国はたくさんあるわけ。世界だからね。

 こっちと違って、まだ未開の地とかもあるんだけろうけど――ん? こっちの世界だって未開の地はあるか? ――でまあ何十から百ちかい国があって、その内の十数カ国が米を作っててさ、それでもどの国の米も俺の舌を満足させることはなかったわけさ。


 大和魂って言うやつですかねえ。こっちにいた頃はさあ、別に米についてそんなすげえ思い入れなんてなかったし。

 ほらパスタとか? 洒落た食い物のがさ、俺に似合っているかなって、そういう気持ちも少なからずあったよね。だって俺よ? イケメンじゃん。米とかほおばってもさあ、絵にならんでしょ。ま、それでもいい絵になっちゃうのが俺なんだけどね。でもまあ、選ぶならパスタでしょ。ペンネとか、カペリーニとかさあ。名前からして徳が高いっしょ。


 あー、うん、米の話よ。あれ、田んぼだっけ? どっちも一緒か? そうなんだよ、俺の話は結局田んぼの米のことなんだけど。


 どこ見てもろくな米がないなか、お、って思える田んぼがあったわけよ。詳しくねえけどさ、段々畑? みたいなやつでさ。すげえ綺麗に田植えされてて、水は澄んでるし、穂の緑も濃くてさ、こりゃ秋にはきっと美味い米がとれんだろうなって一目でわかるわけよ。


 それがよ、ゴブリンの集落なの。


 わかる? ゴブリンの田んぼだったわけよ。まじかよ、って思うだろ。俺も疑ったぜ? どっかの農家の人たちをゴブリン共が襲撃して、この綺麗な田んぼを奪ったんじゃねえのって。でも俺も異世界をけっこう見てきたけど、向こうの人間にこの田んぼは無理だってわかるんだよね。


 正直見直したよね。それと同時に、なんかすげえショックだったけどさ。

 俺も危うくレイプされかけてなかったら、けっこうゴブリンのこと好きになってたかも知れないよね。でも恨みは忘れられなかったし、集落は焼き払ったけど(※2)。



「――ということでわかってもらえたか? 俺は異世界に転生してたんだよ」

「……いや、全然わかんなかったけど。あたし、タイ米とか好きだし」

「そんな話じゃねえって! 異世界の米の話だろ、タイのことは良いんだよ!」

「まず米の話じゃなくて、異世界の話がしたいんじゃないの?」


 至極全うなことを言う彩。

 本当だ、何で俺は米の話なんかに熱くなっていたんだろう。


「ね、さっきの話で記憶に残ったのが、暗真がゴブリンにレイプされたってとこなんだけど、本当なの?」

「未遂! 未遂だっての、未遂だから! つうかお前最初と最後しか聞いてねえだろ」

 まあ俺の話もずれていたとは思うけどさ。

「で、信じてもらえたわけか?」

 と俺は訊ねる。

 結局のところ、俺の言いたいことはそこなんだけど。異世界に転生したって言っても信じない彩に、俺は色々と思い出せることを話していたわけだ。


「あたし、ちょっとそういう子供のファンタジーなのは無理かも。だいたい異世界って何だし……」

 必死の話の甲斐もなく、彩は呆れたように言う。

「何ってそりゃ俺にも説明できねえよ」

 だって気づいたらあれだったし。あれだし。

 俺だってね、異世界って何ですか。転生っておかしいでしょう。言いたいですよ。けど実際起きているわけですからね。


「あたしって実際に見たもの以外信じられないタイプだからなあ」

 はいはい出ましたよ。オバケ否定理論の典型的なやつ。何その目に見えないやつはないですって。お前それ空気とか透明人間は存在しないって言うのか? 空気も透明人間も目には見えないけど存在するだろうがアホっ!

「だいたいもうこっちに戻って来られたわけだし、もう異世界とかのことはどうでも良くない?」

「そ、そりゃ……まあ、そうだけど」

 くそ、また正論か。

 確かに異世界のことは正直割とどうでも良い。いや、もちろん異世界に残してきたたくさんの胸が大きい女の子たちや、向こうの両親については心残りもあるけれど、だからと言って俺に何ができるというのか。


 もうこっちの世界に戻ってきてしまったわけで。また異世界に行く方法も今のところなさそうだし、女の子大好きだけど俺は一人しかいないわけで相手ができるのも無限というわけじゃないからな。せいぜい、うん、百人ぐらいはなんとかなるか?

 うーん、やってみないとわからんな。とりあえず五十人くらい俺に抱かれたいって女の子が集まってくれればどんなもんか調べることができるんだけど。


「五十人なら仮に一日十人の相手をするとして、五日で一回りか。いや待て待て、局所的に十人と楽しむ日があるのは歓迎だけど、それが毎日って流石にキツくないか? となると三日に一回は休憩を挟むようにして――」


「暗真? ねえ、聞いてるわけ?」

「え? 何? 少子化? 任せろって、そんなもん俺一人いればどうにか――」

 彩の表情を見て、俺は言葉を止めた。


 ダメダメ、今は真面目な話の最中だぞ、俺!

「一回くたばってもそのすっからかんにピンク物質詰め込んだだけの脳みそは変わってないわけ?」

 くたばる原因のくせに、酷い言いようだった。でも俺は彩が怖いので苦笑いで済ます。これが他の女だったもう、尻とかなで回しているところなんだけど。


「だいたい今の暗真は女じゃん。孕むつもり?」

「は、孕むっ!? お前、そんなわけねえだろうがっ!」

 俺が驚いて素っ頓狂な声を出したので、彩は鼻で笑った。

「そう、じゃあどうするつもりなの?」

「どうって、そりゃ……って、そうだよ。その話がしたかったんだよ! 異世界の話はさて置いてもだ! 俺がまだ美少女のまんまだってのが問題なわけよ! でしかも、何か周りのやつらが男――いや、イケメン男子高校生だった頃の赤須暗真を忘れていっていることが大問題なわけだ!」


「……今の言い直す必要あった?」

「あっただろうが!」

 ま、良いけど、と彩は屋上から見える、反対側の校舎にかけられた大きな時計で時刻を確認した。もう五時間目の授業はとっくに始まっていて、そろそろ終わる頃だ。


「そうだった、まず確認したい。彩は俺のことが俺だってわかるんだよな?」

「日本語しゃべってほしいんだけど」

「あーえっと、彩は男だった頃の俺がちゃんと記憶にあるんだよな?」

「ある。あたしの知っている赤須暗真(※3)は男――いいえ、バカで節操のない人間のくずを煮詰めてビンに入れた最低の中の最低な男ね」

「……今の言い直す必要あった?」

「ある」

「それにしても言い過ぎじゃ――あーもう、今はそれはいい。でも、彩は今の俺も、赤須暗真だってわかっているよな?」

「そう、ね」

 彩は、少し戸惑うように、肯いた。


「つまり、彩の中には男だった頃の前の俺と美少女の今の俺の存在が両方あるってことだよな……?」

「そう、みたい。でも、それがどうしたって言いたいの?」

「だ、だからそれはつまり……!」

「つまり?」

「……つ、つまり」


 特に何も思いつかなかった。


   ◆


 ただもやもやとした心の中には、ちょっとずつだけど答えが見つかりかけているような気がした。

 まるで御津久瀬ちゃん(※4)の描いた気味の悪いモンスターみたいに、ぐちゃぐちゃな何かは確かに何かなのだ。ただ俺のような真人間には、それが何なのかってのはわからない。

 こんなんわかったら名探偵だろうて。

 たまに思うんだけど、世間で言う名探偵ってのは、普通の人間とは違う思考を持った非人間めいた部分があるからこその名探偵なのだろう。

 いやまあ、名探偵ってそもそも実在するのかって話だけど。


 それこそ異世界転生みたいなもんだろうよ、小説とかアニメコミックスの世界にしか存在しない架空のものってわけだ。


「さて、ここにいつまで居たってしょうがないしな。教室戻ろうぜ、寒いしさ」

 俺はそれだけ言って、さっさと屋上を去ろうとしたが、首根っこをがっつりと捕まれる。

「そんなこと、許されると思う?」

「……許す許さないを決めるのは、彩だろ。だから俺が決めることじゃない」

 命をかけられた時ほど、男とはかっこうを付けるべきなのだ。異世界で命がけの冒険をしてきた俺が言うのだから間違いはないだろうな。


「じゃあ、許さない。許さないから」

「そ、即答すんなって! なあなあ、こっちは異世界に転生して女の子にまでなってんだぞ! ちょっとくらいたくさんの女の子と仲良くしたことくらい許せっての! 何だよ、それとも何か? お前は俺が誰かと仲良くすることに反対なのか? 一人一人の人間が手をつなぎ合って、仲良くして、それこそが世界平和じゃねえのかっ!? なあ!」

「世界平和と暗真の女癖の悪さは何にも関係ない」

「……お、おう」

 つらい、よね。

 正論はいつだって人を傷つける。カッターナイフよりよっぽど鋭いんだぜ、正論ってのは。

「もう一回ここから落ちたらさ、戻れるかもよ」


 彩がすっと胸ポケットから、例の刃物を――。


 はいはい、訂正します。正論が何よ。言葉なんてね、俺みたいな日本男児には全然だから。精神力っていうやつがもう異次元ですからね。その代わり外面っていうか、身体はほら、美少女だから柔らかいのよ。

 だからね、刃物はダメだよ。


「待てって、争いは何も生まないだろ! な、なあ、ほら、今は同じ女の子? だし? 一緒に話し合おうぜ、ほらよ、ガールズトーク的な?」

「……何がガールズトークなの」

 彩は、俺の胸を思い切り叩いた。

 幸い、その手は素手だった。力強く握られた拳が、俺の胸を叩いた。両手で何度も、何度も。刃物はないが、普通に痛い。

「何がっ、何が……っ!」

「ちょ、ちょっと、痛いって。や、やめてってば」

「全然……全然反省してないっ! こっちは、こっちはどれだけ……どれだけ……」


 俺は、彩の両手を押さえようとするのに必死で、全然気づかなかった。

 彩は泣いていた。

 ぼろぼろと大きな涙をこぼしている。


「暗真が、屋上からすって消えて……よくわかんないけど……どこにもいなくなっちゃうし……あたし……あたし……」


 なんていうか、あれだな。今度こそ、俺はこっちの世界に帰ってきたんだなって思ったわけだ。

 俺のことを待っていてくれた人がいたわけだ。彩にとっては、多分半日ぐらいなんだろうけど。


「なるほど、俺を探して午前中は街を探し回ってたわけか」

「……うん、暗真は教室で女の子はべらしてたけど」

「す、すまん」

 さすがにさっきの今で、もう彩が怒っていないようで俺は安心するが、返って罪悪感は増した。俺ってほら、怒られると逆に反省しないタイプなんだよね。

「でも、広瀬が暗真は教室にいるって知らせてくれて」

「広瀬? ……そんなやつお前の友達にいたっけ?」

 学校にいる女子の名前は全部覚えているはずの俺が知らないってことは、まさか男? 俺がいない間にこいつ、俺以外の男と仲良くなっていたのか? いやいや待て待て、だから俺が居なかったのは彩にとっては半日程度だろ。そんな間に男と知り合えるわけないし――となると、実はずっと前から?


「お、おい、そいつを紹介しろ! 何だよその広瀬ってのは! 誰だよ、どこのどいつだってんだ!」

 俺が彩につめよると、彩は不思議そうに首をかしげて、不思議なことを言った。


「広瀬は探偵だよ。あたしの知り合いの探偵。えっと……名探偵?」


 まああれだな。勇者とか魔王がいるわけだし、別に名探偵ぐらいいてもおかしくないわな(※5)。

※1 白くもなければ黒くもない

じゃあ灰色かって? 胚芽米ってのがあるけどそういうわけじゃないんだよ。あれよ、茶色だよ、茶色。おっさんが食べる弁当みたいな感じ。栄養豊富なのかも知れないけどね、俺は白米が好きだね。


※2 集落は焼き払った

気分はアナキン・スカイウォーカーだった。女子供も関係なく焼き払った。いやだってゴブリンって雄も雌も見てわからんから仕方ないだろ! まあでもあいつらは服を着ていないわけで、俺が確認した限りゴブリンには雄しかいなかった気がする。けど、これだけの数がいるってことは? 子供は生まれるわけだよな。となるとどうやって子供をつくっているわけだ? ……良し、考えるのはやめよう。ここまでだ、はいはい、終わりだよ。


※3 赤須暗真(アカス・クラマ)

今世紀最大の男前と名高い。例えば二月十四日といえばバレンタインデーとして知られているだろうが、俺ほどにもなると教室の外まで、チョコを渡しに来た女の子たちで行列ができる。遊園地とか超人気ラーメン店とか花見の女子トイレとかそれくらいのすごい列ができるわけだ。俺もつくづく罪な男だな。


※4 御津久瀬(ミツクゼ)

俺のクラスの担任で生物の先生。生物って、実を言えば保健体育の次にエロい授業だよな。つまり上から数えて三番目のドスケベ授業なわけだ。で、一番目は何かって? 日本史、だろ。こんなのは常識だよな。


※5 勇者とか魔王がいるわけだし、別に名探偵ぐらい

勇者と魔王と名探偵。闘ったらどれが強いか。その答えはこれからわかるかも知れないが、俺の予想だと名探偵が圧倒的に有利だ。だってあいつら二人ともすげえアホなんだもん。

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