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ウォーアクス戦記  作者: 秋月
一章 始まりの風
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七話 双嵐相討つ

 一体、どう言う状況なのか。わかりやすく説明しておこう。


 四十人の早風団と戦う事になった十人の義勇団に偽装した兵は、無論釣り餌だった。残り十名を両脇の森に隠すための、そして有効に利用するための作戦であったのだ。


 餌になりそうな物さえ出せば、油断している早風団は動いてくる。そうフランシスはみていた。だから、伏兵として弓を用意しておいたのである。


 古来より、弓とは強力な兵器である。個人差がつよいが、要するに刺されば死ぬ。戦場において、これ以上に便利な物もあるまい。腕力が必要な投石や投槍と違い、技術で飛ばす弓は多数・少数戦のどちらでも重要視されていた。


 そして、早風団が釣り餌に引っ掛かっている内に、後ろに待機した十人の兵士を静かに仕留めた。フランシス一人ならともかく、同じような力量の者が後二人、追加に一般とはいえ、兵が七人もいれば話は別だ。鎮圧はあっという間に終わり、フランシス率いる強襲隊は、そのままクルリと本隊と争わんとしている早風団へ向き直った。


 要するに、釣り餌でひっぱり、弓による強襲をかけた上での包囲作戦だ。見れば、早風団側はすでに弓矢による十数名の被害を出していた。。


「急ごう!」


 そういって真っ先に走り出したのは、年少組の中では最も力量が高く、強襲隊に立候補した槍使いの青年、ケンドリックだ。赤毛の長い髪が走りに合わせて揺れる。全体的に筋肉が張り巡らされた体であるのに、重量を感じさせない走りだった。


 指示を出さないうちに走り出したケンドリックに、老兵ノールが一瞬厳しい目を向けたが、隣の老兵がその肩を叩いた。昔なじみの老兵は、しかし一言も発す事はなかった。


 彼の名はウォルス。喉の大きな古傷が目立つ老兵である。手に持ったサーベルをクルリと回転させ、切っ先でフランシスを示した。敵意を持たないそれは、無論切っ先の先へ注目を促している。


 フランシスはケンドリックを止めようともせず、老兵二人と、残り七人に「俺たちも行くぞ」とだけいい、駆け出した。ウォルスは肩を竦めて見せ、ノールは溜め息一つ吐いてから、フランシスに追従していった。




 矢は合計で二十七本、ボルトが三本。弓隊に渡されたのはそれだけだ。だが、それだけでも十分脅威的である。


 皮鎧を易々と貫きうる矢弾が計三十本もあれば、答えはわかりやすい。たとえそれを放ったのが短弓(ショートボウ)で、禄に狙いを定められない素人の放った物だとしても、その致命性が失われる事はない。だからこそ、早風団を十余名仕留めるに至ったのだから。


「くそっ! 全員、一点突破だ! 正面をやれェーッ!!」


 メルディゴは場を、そして勝機を乱された事を知り、即座に指示を出す。メルディゴの耳には後ろから来るもう十人の足音――それも、味方の物ではない――を察していた。左右から五人ずつ、前に十人。本来、早風団を下回る戦力だったはずの物が、包囲戦が仕掛けられていた。


 これが、フランシス、バラトカ、ノール、ウォルス、ケンドリックの五人が会議で叩き出した戦術であった。そもそも、この五人は戦術家でも何でもない、唯の兵隊達に過ぎない。となれば、「三人寄れば」が通用しない戦術という概念にとって、それは究極の愚作だ。


 だが、そこには戦場慣れした三人がいて、普通の人間であったバラトカとケンドリックがいる。"普通の視点"から、見逃しそうな失敗点を洗い出し、ざっくりとした戦術さえ編めれば、それすらも編めない早風団など目ではない。


 そして、メルディゴが思うよりも、仮称フランシス強襲隊は早かった。正面突破と息巻いた早風団は、しかし背後からの攻撃によって無理矢理な乱戦に持ち込まれる事になる。


 前からはバラトカ率いる本隊が。後ろからは、早風すらも切りくずさんと迫るフランシス強襲隊が。どちらもが咆哮をあげて襲い掛かってくる。しかし、メルディゴはそれに、真っ向から叫び返した。


「おおおおおおお――――ッ!」

「らああああああ――――ッ!」


 真正面からぶつかり合う咆哮と武具。火花が散る。血飛沫が舞う。誰とも知れぬ指が宙を飛んだ。何処か弛緩していた早風団は、一気に戦場に引きずり込まれて、目に見えて動揺していた。だからこそ、包囲陣が狭まったときに被害が大きかったのは早風団の方であった。


「てめぇら、怯えんな! 後ろは無視して、真正面を切り崩せ!」


 腑抜けたような情けない配下達へ渇を飛ばしながら、メルディゴが衛兵隊であった男の一人の首を切り飛ばし、返す刀で成り立て傭兵の頭を飛ばす。乱戦であっても、経験の差は悲劇を生む。メルディゴを止められる者はいない――かに、思えた。


「させんぞ? ――傭兵団長、フランシス。参るッ!」


 悪鬼の如く乱舞していたメルディゴの前へ、乱戦の雑踏の中からフランシスが躍り出た。円盾と斧を構えたフランシスの気迫は、メルディゴに勝るとも劣らない。


「チィッ! ならまずは、お前を刈って手始めにしてやらァ! "首刈り"メルディゴォ、いざァ!」


 曲刀と斧が、同じ軌道で弾きあう。混沌の極みと化した五十人余りの小戦場の中で、二つの嵐がぶつかり合った。




 戦況のわからなかった人の為に、ざっくりとした説明。

一,早風団アジトより、バラトカ率いる十人の釣り餌で人を釣る。


二,アジトに残った者達を手早くフランシス達がしとめる。


三,正面の釣り餌に掛かった四十人を、両脇の森から弓で攻撃。その後、弓矢隊も包囲攻撃に参加。


四,フランシス強襲隊が乱戦になりかかった早風団背後より襲い掛かる。


五,乱戦はフランシス側有利で展開。悪鬼の如きメルディゴに二名が刈られる。


六,被害を増やさない為、フランシスがメルディゴと相対した。


 こんな感じです。

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