表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォーアクス戦記  作者: 秋月
一章 始まりの風
6/87

五話 対早風団会議

地図の挿絵ありです

「……これは、予想外だった」


 それも、嬉しい予想外だ。フランシスはやや俯きながら呟いた。彼の前にはまず、自らが集めてきた十二人の傭兵見習い。若者半分、大人半分。後の残りは歴戦の臭い漂う老人が二人だ。


 そも、戦闘経験者が来てくれるのを期待して居なかったフランシスには、これだけで既に奇跡に等しい。最後の村で六人集まったのは上々の結果であった。


 さしものフランシスも、たった六人のでは何ともならない。彼が周った村は三つ。集まったのは十二名。足りなければもっと走る羽目になったのだろうが、嬉しい事に、充分な数が集まっていた。


 しかし、フランシスの嬉しい誤算はまだある。錬度が低いとはいえ、バラトカが衛兵隊の一部を引っ張ってきていたのだ。二十人弱――二個小隊といったところか。フランシスの有り合わせ傭兵団と合わせて三十人程度。五十人と相対するなら、正直に心もとないと言える数だ。だが、フランシスにはあった。


 そう、「行ける」という確信が。




「よし。数も出揃ったし、作戦会議と行こうか」


 五人の戦士が集まったのは、商人から借り受けた天幕である。日が高いとは言えないが、黄昏が空を支配するには早い。フランシスとバラトカを含め、五人の男たちが胡座をかいて顔を見合わせた。


「まず、奴等と真正面から殴りあっても勝てないことは分かっていると思うが」


 グルリ、とフランシスは四人を睨むようにして順に見据え、ピンッと指を立てた。自然、全員の目がそちらへと向かう。


「早風団をこの地より撤収させるか、壊滅させる。これが最低条件だ」


 そう言いながら、彼はバッ、と丸めてあった羊皮紙――簡易な地図を広げた。盗賊団のアジトを示す印と、その周囲の地形が記されている。五人の男が、広げられたそれへと体を傾けて注視する。フランシスはその上を指でなぞって作戦を練り始めた。


挿絵(By みてみん)


 書かれた文字は収容施設、アジト代わりの天幕、櫓、そして乱雑に書き足された様な"獣道"と言う文字。比較的上等なそれは、商人から借り受けたものだった。


「奴らは、奪った村の一つを拠点にしている。正確には、収容所代わりにしている。俺たちは其処を叩く事になる」


 そういって収容施設と書かれた絵を、トン、と指差す。村の様に書かれたそれは、しかし今は監禁場所に他ならない。その場の全員が気にしたのは、天幕の絵と、そして其処に描かれた文字……拠点(アジト)。木製の建物ではなく、天幕をアジトにしている点であった。


 無論、それだけ注目が集まっていれば自然と口は開く。それは衛兵バラトカからであった。


「何故天幕がアジトなんだ? 普通、逆ではないのか?」


 収容施設がしっかりした建物で、自分たちの寝泊りする所が天幕。この場合の"普通、逆ではないのか"は、それを指している。残りの男三人が頷いて、自分も同じ疑問を持っていた事を示した。


「推測だが、いいな? 恐らくは、すぐさま逃げれる様に、だ」


 いくら常軌を逸した早風団とはいえ、自ら命を投げ捨てたいとは思ってはいない。練度の低い義勇兵達や衛兵隊達に対しては無敵の力を誇る早風団も、さしもの王国騎士団――一応、ポート・パティマスにも駐屯してはいる――を相手に、五十人で立ち向かえる程の強さは持っていない。


 もっと被害が大きくなって度外視できなくなり、王国騎士団が討伐にこれば、腕自慢の木っ端盗賊団など根こそぎ引っこ抜かれてしまうのは当たり前。ならば、すぐさま回収、もしくは放棄できる天幕をアジトにすれば、問題はない。逃げるには充分過ぎる時間の余裕がある。


 引き際を弁える。その為の天幕であろう。フランシスはそう睨んだ。


「ふむ。つまり、取り逃しやすい……そういう事ですな?」


 一人、老人が声を上げた。左腕全体の筋肉だけが、右腕よりも格段に多い。まず真っ先に、左半身だけ大きいような不自然さを感じる見た目だ。右目も異様な程大きく見開かれ、逆に左目が切れ長に見える。髪はバッサリと短くなっており、その目を遮る者は何もない。


 名を、ノールという老人である。昔、大きな戦で弓兵として名を上げた事があるらしく、「この腕を今回の徴兵で使い切るのも惜しくない」、と言って討伐隊に参加した奇異な男だ。


 フランシスは、ノールの言葉にコクリと頷いた。


「だから、今回の作戦は、おびき出して叩く事。これを主眼に置きたい」


 幾らなんでも、稼いだ物すべて置いて逃げたくはない筈。なら、一度おびき出してさえしまえば、一度でも天幕に戻る為に戦わざるを得ない。問題は、それをどうやってフランシス達の討伐隊で対応できる数まで減らすか、であった。


 フランシスやここにいる四人はともかく、他の者たちが一対一で早風団員に勝てるかと言うと、首を横に振るしかないであろう。一度も戦った事のない素人と、命のやり取りをして来た盗賊である。勝ち目はほとほと見えない。


 となれば、理想形はフォローを入れつつ二人一組(ツーマンセル)で、つまり二対一で戦わせるのが丁度いい。それがフランシスの認識であった。


「俺は陳腐な案しか思い浮かばなかった。そこで、意見を借りたい」


 一度も目を合わせず、しかし男たちは頷いた。五人の屈強な男達の悪巧みは、粛々と進んで行くことになる。

 はい。挿絵として登場した地図は、

海外の方が作られた"Inkarnate"というソフトで作りました。

ファンタジーな地図を作るのに適していて、大助かりです。


 ところでこれ、規則等に違反してませんよね……?(戦々恐々


2017/04/29 脱字修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ