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ウォーアクス戦記  作者: 秋月
二章 王国首都パートマデット
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二十五話 戦端開き、知恵の神目を瞑る

 また、戦だった。


 フランシスは戦場となった橋を、馬で駆けながら思った。今乗っているのは予備の馬で、名前は付けていない。だが、軍馬ではあるので、信頼するには十分だった。


 (あぶみ)だけを頼りに右へ左へと旋回し、両手で持った長柄斧を振り回す。鬼ではなく、一兵士として戦うフランシスだが、その猛威は劣らない。


 長い斧が振るわれる度に血が舞い、肉が飛ぶ。彼の後ろに続く部隊も、十分な成果を上げ、戦始めは好調と言ったところか。挟撃は、成功を収めたと言ってよかった。


 だが、それで終わりではない。さすがに、敵も屈強だ。兵士の数がまず違う上、内何十名かは戦場を生き延びた(つわもの)である。フランシスも、勇猛果敢なそれらの相手には手間取る。とはいっても、装備も、潜ってきた修羅場の数も違う。多かれ少なかれ、フランシスに有利な条件ではあった。


 後続から、ケンドリックが顔を出し、フランシスの横で戦いだす。馬に乗っている時は、利き腕ではない方で手綱を握る物だ。要するに、殆どの場合左が死角となるものだ。その時、左を守ってくれる人間が騎兵には必要だ。


 無論、何度も突撃を繰り返すだけの通常の騎兵に、左を守ってくれる人間は必要ない。なぜなら、一撃離脱、できなければ死あるのみ。そんな兵職であるからだ。


 だが、突撃後、遊撃及び、長時間その場に留まらなければならない重騎兵はその限りではない。重い装備から、どうしても一撃即離脱は難しい。だからこそ、重騎兵という仕事を行う者はその優位性に半比例した様に少なくなっていた。


 フランシスは右利きで、重騎兵だ。だが、それだけではない。フランシスは重騎兵で、戦鬼で、そして――


「左側は任せた、ケンドリック」

「分かりました。精一杯やります……ウォルスさんの、弔いですから」


 鉄鬼傭兵団の、団長であった。




「ふん。警戒はしていた様だが……」


 それも、二つに隊を分けて別行動を行い、全力で偵察兵から隠れ続ければ問題ない。と、アルラは心中で続けた。数が少ない分隠蔽はしやすい物であり、一度作られ、見過ごされた隠蔽はより気付かれにくい。


 先に橋に到着していたこちら側が有利に運ぶのは当たり前だ、と少女は呟く。とはいっても、どう言う動きでどう言う隊列を組むのか、ある程度理解していたアルラだからこその挟撃作戦だった。


 アルラの推測が見事に的中したからこその、この戦況だ。


 伸びきった隊列に向かってまずは古兵ノールが指揮する弓兵部隊が集中砲火。矢を警戒して左右へ防御が張られた時に、前後から騎兵と歩兵で攻撃。逃げ場をなくし、多方面から攻撃を加えることによって防御の判断を混乱させた。


 ここまではいい。後は傭兵連合の総力を持って叩くだけだ。混乱が収まらないうちに、どれだけの優位性(アドバンテージ)を得る事ができるか。後はその勝負だけだ。


「伝令、ノールに通達。矢の命中を確認、撃ち方続けよ。復唱」

「はっ! アルラ殿よりノール殿へ、矢の命中を確認、撃ち方続けよ!」


 よし、行け。呟いたアルラに敬礼一つ、早馬に飛び乗ると伝令は走り去った。


 さあ、後は時間の勝負だ。アルラは橋を油断無く見据えながら、頬を叩いて気合を入れなおした。自分の力では及ばないかもしれない。しかし、やるべき事はやる。それが戦術家の務めだ。




 疲労した前線が後ろの兵士と交代する戦線交代(スイッチ)戦法により、ゆっくりと疲弊していくロベリット領主軍。まともに遣り合っては勝てないと判断した戦術家達の総意で決まったこの作戦は、意外な程ぴったりとはまっていた。


 無論、ロベリット領主軍とてただ負けている訳ではない。盾を並べ、その間から槍を突き出す歩兵密集戦法(ファランクス)を使うことで、一方的な体力の浪費は抑える事に成功している。だが、出口である両端を抑えられている以上、どうしても指揮が下がるのが難点ではあった。


「くそ。後少しだというのに……!」


 戦術家ヴァジルは頭を掻き毟る。彼も望んで戦端を開こうとしている訳ではない。だが、彼には、どうしても教国、王国間に戦を起さねばならなかった。それは何よりも、自らの敬愛し尊敬する師、ロベリット領主ファル・エヴァンタインの為であった。


 平民どころか、下層街(スラム)で暮らすしかなかった貧民であったヴァジルを拾ったのは、他でもないロベリット領主だった。


 下層街を無くす第一歩として様々な教育をなされた下層街の子ども達の中で、最も知力的に優秀であったのがヴァジルだった。その彼を参謀とし、ロベリット領主軍は強くなったと言っても過言ではなく、それが怪しげな計画の巻き込まれる原因ともなった。


 なぜ自分がこんな目に。そんな言葉は、一切おくびに出さない。自分のせいだ。自分のせいでこうなったのだ。だからこそ、自分が解決しなければ――そんな悲壮な決意が彼の心には灯っていた。負ける訳にはいかないのは、ロベリット領主軍も同じであった。


「ああ、神よ。天より見据えし知恵の神よ……」


 必死に指揮をとり、汗だくの頭を振り乱す彼は、不意に呟いた。それが戦場――戦神の支配する領域でなければ、神も慈悲を与えたのだろうか。その呟きは、戦場の雄たけびに吸い込まれた。




神様の説明は世界地図と一緒に載せると思います。

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