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『ありがとう』は俺の言葉

作者:
掲載日:2016/01/24

『今更抗うのも面倒なので流されることにしました。』の主人公の語られなかった恋物語?

こちらの作品の主人公(視線)はその相手の生徒会長様。

一応読まなくてもわかるようになっているはずです。

御都合主義作品なので苦手な方は回れ右をしてください。

高校1年の秋、信号待ちをしていた時に、信号無視をした車にはねられた俺。

『俺、死ぬのかな~』と思ったが、右足骨折だけで済んだ。


いや、将来有望と言われていたプロサッカー選手への道は閉ざされた。


医者から説明された時、俺はこの世の終わりだと絶望した。

親は生きているだけで十分だと言っていたが、俺はそう思えなかった。

俺にとってサッカーは生きがいだった。

物心がつく前から与えられていたサッカーボール。

あのサッカー漫画の主人公のように常にそばにいた遊び相手。

サッカーを通じて知り合った多くの友人・ライバル。

一つのボールを追いかけている時が一番楽しかった。

それを全て奪われたと思った。


学校の体育の授業程度ならば問題ない。

だけど、プロとしては無理だと……フルタイム戦うことはできないと。


俺は生きる希望を失った。

そんな時、彼女と出会った。


病院の中庭で茫然としていた時に声を掛けられた。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

小学校低学年くらいの女の子。

髪は短く、一見すると男の子に見えなくもない。

「なんでもない」

ぶっきらぼうに答える俺に彼女は俺の隣に座ると

「私はね、やっと外出の許可が下りたの。今日は中庭までだけど」

「は?」

「ずーっとベッドの上で退屈だった。お父さんが本やゲームを買ってきてくれるけど一人だとつまんないの。だからお兄ちゃんが暇だったらお話し相手になってほしいな」

上目遣いで俺を見つめてくる彼女に俺は首を縦に振っていた。

彼女は嬉しそうにいろいろと話しかけてきた。

俺は自然と彼女の問いに答えていた。

俺がここにいる理由から絶望を抱いていることまで……

気づいたら年下の女の子に弱音を漏らしていた。



「私の夢はね、普通の生活を送ること!」

「普通の生活?」

「うん、普通の生活。学校に通って、友達とおしゃべりしたり買い物に出かけたり……いろいろやってみたいの」

表情は楽しそうなのに声は悲しみに彩られている彼女。

「やっと学校に通えるようになったのに、また長期入院。お友達を作る時間すらなかった」

俯く彼女の頭をポンポンと撫でていた。

どれくらいそうしていたのだろうか、不意に腿にかかる重みに視線を向けると彼女は俺の太腿を枕に眠っていた。


「あら、月ちゃん寝ちゃったのね」

声の方を振り向くと看護師が微笑ましそうに俺と彼女を見ていた。

「月ちゃん?」

「ええ、貴方を枕にしている子よ。名前……知らなかった?」

そういわれて俺は彼女の名前を知らないことに気づいた。

「大宮月代(つきよ)ちゃん。みんなからは月ちゃんと呼ばれているわ」

「みんな?」

「ええ、医師に看護師に……月ちゃんは入院生活が長いから病院内での知り合い多いのよね」

くすりと笑う看護師は彼女を抱きかかえると

「そろそろ日が暮れるわ。あなたも病室に戻りなさい。一条昴流君」

そう言い残して病棟内に入っていった。


その後、俺は退院するまで彼女の話し相手になることにした。

彼女との会話はある意味新鮮だった。

彼女の世界はとても狭かった。

その狭い世界を広げてやりたいと思った。

俺にとって当たり前のことが彼女にとってはとてつもない難しい事だということを教えられた。


「お兄ちゃんは明日退院なんだよね」

精一杯の笑顔を浮かべながらも瞳がうるんでいる月代。

「ああ、だが時間を見つけて見舞いに来る」

「え?」

「といってもそう頻繁には来られないだろうけどな。部活にも復帰するし」

事故以来ずっと悩んでいた事。

出席日数の関係で留年することは決まっていた。

留年するか自主退学するかは自分で決めろと親に言われ保留にしていた答え。

俺は留年してでも高校を卒業することに決めた。

部活も辞めないことを決めた。

周りが思いっきり走っている中で思うように動けないことがつらいかもしれない。

だけど、全く走れないわけじゃない。

もしかしたら、ほんの数分でもプレーができるかもしれない。

そこは監督たちと相談しなければいけないけど、わずかな希望も捨てたくないと思うようになった。


最初の三か月くらいはリハビリを兼ねて週一で月代の見舞いに病室に通っていた。

だが、4か月目あたりから月代に会えることはなかった。

病室を覗くと月代が使っていたベッドにはほかの患者がおり、退院したのだと勝手に思っていた。


それ以来、病院で月代と会うことはなかった。

いつしか、俺の記憶から月代の記憶も薄れていった。

もう、二度と彼女には会えないのかもしれないと思ったこともなくはない。


俺が通う高校に新入生として彼女が現れるまでは……


というか、俺の3つ下だったのか!?

てっきり出会った時7~8歳だと思っていたんだけど……


***


彼女が高校に入学して半年。

その間、俺は彼女に一度も接触していない。

もし、声を掛けて『知らない』と言われるのが怖いから。

女々しいと言われようと怖いもんは怖いんだ!


彼女にとって俺はただの入院仲間の一人でしかないという自覚はある。

しかし、俺にとっての彼女は『希望の光』をくれたかけがえのない大切な人である。

……忘れかけていたじゃんと言われればそれまでだが、奥底にはちゃんと残っているんだからいいんだよ!


周囲にばれないようにこっそりと月代の情報を必死に集めていたりする。

我ながら何をやっているんだと思う。

幸運なことに、妹の詩織が月代と同じクラスで仲がいいときた。

自然と月代の情報が入ってくる。

誕生日、血液型、好きな食べ物、嫌いな食べ物、得意な教科、苦手な教科など詩織経由で知ることが出来た。

なによりも驚いたのは、今学校中の話題を浚っている『逆ハーレム女』の双子の片割れだと知った時は何度も確認したほどだ。

『逆ハーレム女』こと大宮陽子は入学早々教師たちから一目置かれていた優秀な生徒たちを短期間で籠絡して、使い物にならなくしていった。

『容姿が整っている男を籠絡し、侍らせることが趣味の電波女』というのが大半の女生徒たちの認識だ。

また、男子生徒たちの意見は擁護派と嫌悪派に分かれている。

俺はもちろん嫌悪派だ。

男と女で態度を変え、さらに男も顔で選ぶような女、こっちから願い下げだ。



文化祭を翌日に控え、準備で学校中が浮きだっていた放課後、月代が倒れたと詩織が血相抱えて俺のクラスに飛び込んできた。

詩織には俺が月代に関する情報を集めていたことがゴールデンウィークあたりでばれた。

それ以来、月代のことで何かあれば真っ先に知らせてくれるようになった。

どうやら俺が月代に興味を抱いたことでなにやら画策しているらしいが不気味な笑みを浮かべるだけで詳細は不明だ。


月代は養護教諭が付き添って主治医のいる大学病院に搬送されたという。

その後、大事を取ってしばらく入院するが、命に別状はない旨が伝えられると詩織たちはほっと胸をなでおろしていた。

詩織たちのクラスには月代自身が病気持ちであることを告白していたらしい。

だが、特別扱いはしてほしくない、普通の学生生活を送ってみたいという月代の願いをクラス一丸となって叶えているという。

もちろん、反発した者もいるらしいがある日を境に積極的に協力的になったとか……一体何があったんだ、詩織のクラスで!?


詩織から状況を聞いた俺はなぜか嫌な予感がよぎった。


月代は高校に入学してから一度も入院したことがない。

通院はしていたみたいだが、入院はなかったはずだ。

夏休みの間も詩織たちとあちこちに出かけているのを知っている。

それに、短時間とはいえファミレスでアルバイトをしていることも知っている。

俺の家族がその店の常連だったりする。

仕事がない日のたまり場としている生徒会のメンバー(ただし『逆ハーレム』メンバーである副会長は除く)から、かわいらしいウェイトレス(月代のことだ)がいるという話が流れると彼女のバイト先の売り上げが上がったとか……偶然だよな?



文化祭が終わった翌日、振り替え休日を利用して俺は月代が入院している病院を詩織と共に訪れた。

詩織と共に病室を訪ねたが彼女の姿はなく、看護師に確認すると散歩に出ているのだろうと答えが返って来た。

俺と詩織は二手に分かれて彼女を探した。

俺はまっすく中庭を目指した。

俺と彼女が出会った場所。


確信はなかった。

でも、なんとなくそこにいる気がした。


中庭を見渡し、木陰のベンチを見ると月代が座っていた。

声を掛けようとしたとき、彼女のつぶやきが聞こえた。

「あ~あ、やっぱり発病しちゃったか……高校卒業まで大丈夫だと思ったんだけどな~」

やっぱり?

発病?

何のことだ?

「まあ、発病しちゃったなら仕方がない。残された時間を有効に生きよう」

俺は声を掛けることが出来なかった。

彼女の声が……震えていたから。

次に聞こえてきた嗚咽になんて声を掛ければいいのかわからなかった。

ただ、彼女に残された時間が短いだろうという事だけは察した。


俺は中庭を後にして、詩織を中庭に向かわせた。

適当な理由をつけて俺は病院を後にした。


その日の夜、詩織は泣きながら俺にしがみついてきた。

滅多に俺に弱みを見せない詩織が両親も心配するほどボロボロと涙を流している。

月代は詩織に病気のことを軽い貧血だと誤魔化そうとしたらしいが、詩織はナースステーションで医師と看護師の会話を聞いてしまったらしい。

彼女に残された時間は半年から長くて3年。

発生率・生存率が低い病で特効薬がないという。

新薬の研究は行われているが、間に合わないだろうというのが医師たちの見解だという。

「ねえ、私はどうしたらいい?どうやって月ちゃんと向き合えばいい?」

詩織にとって月代は初めてできた友人……親友だという。


詩織は小学校高学年あたりから同級生からいじめを受けていた。

理由はよくわからないが、最初は幼馴染から無視をされたことだった。

その幼馴染はクラスの中心的な子だったため、あっというまに詩織はクラスの女子から無視されるようになった。

次第にそれは男子にも感染していき、小学校卒業まで詩織は常に一人でいた。

中学は引っ越しの都合で同じ小学校出身の子がいない学校に通うことになったため、問題なく過ごしていた。

しかし、幼馴染のウラギリ(?)から広く浅い交流だったようだ。

高校でもそうするだろうと思っていたが、月代と出会いなにやら趣味(漫画やゲーム)のことで意気投合したとかで今では互いに『心の(しんゆう)』と呼び合っているという。


「今まで通りでいいんじゃないか?」

「え?」

「彼女は貧血で倒れただけだ。医師たちが話していたのは違う患者のことだよ。今まで通り接することが彼女の為にもなるんじゃないか?」

「……でも」

「大丈夫だ。彼女はきっと良くなる。親友のお前が信じなくてどうする」

頭をなでると詩織は小さく頷いた。

「……そうだよね!私がたまたま通りかかった時に聞こえた話が月ちゃんの事とは限らないもんね!」

「そうそう」

うんうんと頷いて見せると詩織はやっと涙を止めた。

「しばらく検査だって言っていたからみんなで授業のノート取って月ちゃんに渡さなきゃ!」

「お前達にしかできない事だからな」

「うん、ありがとう。お兄ちゃん」

詩織に言い聞かせながら俺自身に言い聞かせていたに過ぎない。

俺は月代自身がつぶやいているのを聞いている。

彼女のつぶやきがウソであってほしいという俺の願望でもある。



詩織はその後、クラスメートたちと日を開けずに見舞いに行っているらしい。

あまりにも頻度が高いと迷惑になるぞと窘めるが

「自分が行きたくてもいけないからって僻まないでよ」

と意味わからないことを言われた。


ある日『大宮陽子の逆ハーレム要員』が彼女の病室で暴れたと聞いた時は驚きよりも呆れた。

なんでもあの脳内花畑女(月代の双子の妹)が新たなハーレム要員の捕獲に奔走して自分たちを蔑ろにしているから何とかしろと頭ごなしに言っていたようだ。

新聞部の子がその時の様子を録音していたらしく、コピーしたモノを聞かせてもらったが……

教師共々頭を抱えたのは言うまでもない。

詩織が言うには彼らのせいで月代の見舞いが出来なくなったらしい。

その騒動の後、家族・親族(しかも父方限定)以外面会謝絶になったという。

月代の伯父・伯母から月代自身は元気が有り余っているという報告を受けているが、実際に会えないので詩織たちはかなり鬱憤が溜まっているらしい。

日々過激になっていくあいつらに対する罵詈雑言の数々。

よくもまあ、毎日出てくると逆に感心するほどだ。


「ふむ、ならば彼らにちょっとお灸を据えようか」

「え?お兄ちゃんが動くって……ヤバクない?」

「あー、実は先生方の許可は取ってあるから大丈夫だ。それに実際に動くのは俺じゃないし……」

俺が提案したのは新聞部の子が拾った音声を全生徒に聞かせること。

ただ、事前知られるとあいつらが妨害するだろうから、ちょっとした小芝居をすることになるけどな。


新聞部には事のあらましを事細かく、面白おかしく書いても良いという許可はすでに出してある。

数日中にでもかなりの力作が全生徒の目に触れるだろう。

だが、それだけではインパクトが弱いし、あいつらは自分の信者たち(不思議なことにいまだにいるんだよな。あいつらを盲目的に信じている奴らが)を使ってなかったことにするだろうから放送部を巻き込んだ。

放送部が彼らの被害にあっていることは報告書という名の被害届が出ているので巻き込むことには問題なし。

むしろ話を持ち掛けたら嬉々として「ぜひやらせてください!」と瞳を輝かせていた。


朝、新聞部が例の事件を大々的に扱った新聞を発行。

放送部は昼休みにいつも流している曲と間違えて例の音声を流す。

全て流し切った後、放送事故であったことを謝罪。

それまで放送室の前には教師数名に見張りに立ってもらうことになっている。

あいつらが放送室に殴り込むようなら放送終了まで取り押さえてもらうように話はついている。


あいつらは昼休みに流す曲(毎週テーマを決めて放送部員が厳選していた)を脳内花畑女のお気に入りの曲だけを流すように放送部に圧力をかけていたらしい。

放送部員の親の中にあいつらの親の会社に勤めているとかで脅迫されていたことは隠しカメラと隠しマイク(度重なる要望=脅迫に部長がブチ切れて教師の許可の元設置した)で証拠をばっちりと押さえてある。

ついでに弁護士にも話をつけてあり、いつでも訴えることが出来る準備はできていたりする。



例の放送が流れると学校内は騒然としたが、あいつらは大人しかった。

なぜか……それはあいつらが無断で欠席していたからだ。

なんでも、脳内花畑女が『平日のアミューズメントパークに行ってみたい♪』などとほざいてそれを実行したらしい。


例の放送後、今までは盲信していた彼らの信者たちも手のひらを返したように彼らに冷たい視線を送るようになった。


しかし、あいつらは脳内花畑女さえよければ他はどうでもいいらしい。

全然お灸になっていなかったのだ。

それは脳内花畑女も同じだった。



ある朝、昇降口で呼び止められたと思ったらいきなり告白してきやがった。

昇降口は騒然となったのは言うまでもない。

つまりなんだ?

あいつらの暴走の原因は脳内花畑女が俺をハーレムの一員にしようと躍起になっていたことが原因だというのか?


ふざけんじゃねえー!


「あんた、だれ?」

俺の言葉に脳内花畑女は驚いた表情を浮かべている。

どうやら自分のことは知らない人はいないと思っているらしい。

つくづく脳内花畑だと思うわ。

「よ、陽子は……」

「あんた、自分の自己紹介もまともにできないのか?」

呆れるように言うと涙を浮かべ始めたが俺も、周りの連中も冷たい視線を送るだけ。

だれも脳内花畑女のフォローをしない。

あの逆ハーレム要員すら間に入ってこない。

いや、野次馬連中に阻まれてここまで来られないのだろう。

後方からなにやら騒がしい声が聞えているからな。

なかなか名前を名乗らない相手を俺は無視をして教室に向かおうとしたら、制服の袖を掴まれた。

「1年D組の大宮陽子です。にゅ、入学式の時から先輩のことが……」

一生懸命頑張ってアピールしていますといった演技をしている目の前の女に俺はため息しか出ない。

遠巻きにクラスメートたちがニヤニヤしながら眺めているのを視界に捉える。

口々に『がんばれ』と言っているが後できっちりと話そうな?

俺がにらみつけると肩をすくめるだけのクラスメートに余計イライラする。

「……で?なに?」

つらつらと話している目の前の女に俺はもう限界だった。

「す、好きです。付き合ってください」

「断る」

「え?」

断られると思っていなかったらしい脳内花畑女は掴んでいた俺の裾を離した。

くそ、皺になったじゃないか。

毎日アイロンをかけてくれている詩織に文句言われるかな~

と明後日の方向に思考を向ける。

「ど、どうして!?」

「どうして?あんた、何人の男を侍らせれば気が済むんだ?」

「彼らは……と、友達だもん。陽子が一番好きなのは一条先輩だもん」

だもんって……可愛くいってもかわいくねえっていうんだ。

月代だったら可愛いかもしれないけどな。


俺はわざとらしくため息を吐いた。

「実の姉が病に倒れて苦しんでいるのに見舞いにもいかずに男漁りかよ。あいつとアンタが双子だなんて信じられねえ。…………俺、尻軽女は嫌いなんだよね。悪いけど半径3m以内近づかないでくれる?」

それだけを言い残して俺は教室に向かった。

教室に入ると野次馬をしていた連中から「よくやった」と言われた。

昼休みになる間にこのことは全校生徒の知ることとなった。

まあ、昇降口で繰り広げていたらあっという間に広がるわな。

廊下ですれ違うたびにいろいろな人たちにそれこそ学年問わず嬉しそうに「ありがとう!」と言われるのはなんかおかしくないか!?


ちなみにこの出来事は月代にまで伝わったらしい。

新聞部の部員がたまたま(・・・・)持っていたビデオカメラに一部始終を納めていたらしい。

それを見た月代は昔俺と会っていたことを思い出したらしい。

詩織経由でそのことを知った俺は周りから「一条の奴どうした!?あの女の毒に当たったのか!?」と騒ぐほどにおかしかったらしい。


「お兄ちゃん、月ちゃんのお見舞いに付き合って」

ある日の休日、医師から通学は不可能だという判断をされ自主退学した月代の見舞いに連れていかれた俺。

ベッドの上で嬉しそうに笑っている月代を間近で見ることが出来た。

俺と月代は昔話に花が咲いた。

詩織は家に帰ってから散々「仲間はずれにされた~」とふてくされていたけど。


その日を境に俺はちょくちょく月代の見舞いに行くようになった。


3年前、月代は容体が急変して集中治療室に入っていた為、俺と会うことが出来なかったと謝ってきた。

看護師から俺がたびたび月代の見舞いに来ていたことを聞いていたらしい。

そのうち、俺もリハビリが終わり病院にいくことはなく、月代は退院したものだと勝手に思い込んでいたことを正直に話した。

月代は「仕方ないですよ。家族以外教えるわけにはいかないもの」と笑った。



「なあ、月代は何をしたい?」

「え?」

「今、月代がしたいことは何?」

「いま、したいこと?」

「そう、前は普通の生活を送ること。学校に通う事、友達と遊ぶこと、友達とショッピングに行く事だったよな」

「よく覚えていますね」

クスリと笑う月代は俺から視線を離し、外を眺めた。

「……恋がしたい」

ぽつりとつぶやかれた言葉はするっと俺の耳に届いた。

「…って私には無理ですけどね」

俺に視線を戻した月代。

無理に笑おうとしているのか歪な笑顔を浮かべていた。

俺は月代の頬を両手で挟んで顔を覗き込んでいた。

「なんで、無理なんだ?」

「え……だって……」

「だって、なに?」

「私、死んじゃうんだよ?」

「俺だっていつかは死ぬ。というか一度死んでる」

あの事故で俺は一度死に、月代によって生き返ったようなものだ。

「病気でボロボロな私を好きになってくれる人はいない」

瞳に涙がうっすらと浮かんでくる月代。

「それは違う」

「え?」

「俺は月代の恋の相手になれないか?」

「え?え?」

「俺は好きだよ。月代の事」

この時になってやっと自分の気持ちに気づいた。

俺は初めて会ったあの日からずっと月代が好きだったんだと。

月代を失う前に気づけて良かったと思う反面、もっと早くに気づけばよかったと思う自分がいる。

「俺のことを恋愛対象として見てくれないか?」

「でも、でも……」

「病気のことは関係なく、ただ月代の気持ちが知りたい」

「……すぐには答えられないよ」

じっと俺を見つめる月代に俺は笑みを浮かべる。

「じゃあ、俺のがんばり次第ってことだな」

「え?」

「俺が月代に好きになってもらえるように努力すればいいだけだよな」

「え、ちょっと……まって!?」

慌てる月代に俺は少し意地の悪い笑みを浮かべる。

「待たないよ?限りある時間を有効に使わないとね。……ということで来週退院だろ?デートしようか」

「え?え?えええええ!?」



俺と月代の攻防は詩織を経由してなぜか学校の奴らに知れ渡っていた。

まあ、俺は隠すつもりはないから別に気にしない。

俺の大学受験を理由に距離を取ろうとする月代だったが、そこは詩織を使ってガッチリ捕まえておいた。

同じ趣味の親友との約束を無下にできない月代の性格を意地悪だと言われようが使わせてもらった。



無事に大学に進学し、何度目かのデートに月代を連れ出したある日。

家まで送り届けた俺を月代の父親は夕食に誘った。

いきなりのことで驚いたが、表面上は冷静に見えるように装った。

内心バクバクもんだった……

だって、好きな女の子の父親からの誘いだよ?


月代の父親である星夜さんはどうやら俺のことを調べたらしい。

そしてなぜか、気に入られた。

父親からも交際の了解を得た俺は月代へのアプローチを加速させたのは言うまでもない。


病院で再会してから気づいたんだが、どうも月代は周りに流される傾向にあるらしい。

よくよく話を聞けば、小さい頃から入退院を繰り返していたから自分は長く生きられないとほぼ諦めの人生を送っていて、運命という川の流れに逆らうのは面倒だと思っていたようだ。

俺との付き合いだけは流されてくれなかったけどな。

なぜ俺との付き合いを渋るのか?と聞いたら

「……だってつらくなるだけだもん。私がいなくなった後のことを考えたら……」

とそっぽを向いて呟いた月代が可愛くて仕方がないんだけどどうしたらいいだろうか。

これって自惚れてもいいってことだよな?

月代も俺のことを想ってくれていると思ってもいいんだよな?

確かな言葉が欲しくて、執拗に聞いて怒られたが最後には頷いてくれた。

告白の返事を数年越しでもらえた瞬間だった。


この数年(告白の返事が貰えるまで)の間に、余生宣告を受けていた月代は、新薬投与のお蔭なのか、完治とまではいかないが普通の生活が送れるまで回復していた。

俺は俺で希望の企業に就職し、忙しい日々を送っていた。

いくら忙しくとも月代との時間はしっかりとっている。


「昴流さんといると欲が出ちゃうから嫌だったんだよ」

月代のつぶやき。

もちろん、俺は聞き逃すなんてことはしない。

「やりたいことがどんどん増えていく」

検査の為に入院した月代の見舞いに行った時に父親に漏らしていた言葉だ。

俺は部屋に入れず盗み聞きをしていた。(詩織も一緒に)

「いいんじゃないか?」

「お父さん?」

「昴流君なら、月代のワガママに付き合ってくれるよ。彼は月代を甘やかしたくてしょうがないって時々私に漏らしているくらいだからね」

え?ちょっと星夜さん……何ばらしているの?

「父さんの夢は、月代と一緒にヴァージンロードを歩く事だっていつも言っているだろ?」

は?星夜さん、そんな夢持っていたんですか!?

今度ゆっくり話させてください。

「なんなら、この検査入院が終わったら昴流君と籍を入れるか?」

ちょっとまって……

星夜さん、俺にプロポーズする機会をください。

勝手に進めないで……

廊下の壁に手をついて項垂れていると詩織がにやりと笑っていた。

「月ちゃんのパパさん、よっぽど月ちゃんの花嫁姿が早く見たいみたいね~」

ニヤニヤしながら言わないでくれ。


俺だって月代の花嫁姿は見たい。

それどころから、月代との子供だって欲しい。

だけどその前にすることがあるでしょ!?


俺に……俺にプロポーズする時間をください。


俺は頭を冷やすためにその場を離れたが……

星夜さんのあのセリフは俺があの場にいることを知ってのことだとは知ることはなかった。




検査入院後のデートの終わりにプロポーズをして、OKがもらえた時。

思わずガッツポーズをするところだった。

心の中では、ガッツポーズしたけどな。


月代の左の薬指の指輪に気づいた星夜さんの行動は早かった。

主役である月代が慌ててストップをかけるほどに暴走してくださいました。


うちの両親は詩織からも月代の話が出ていたのですんなりと結婚の許可は出た。

むしろ『遅い!あんたが20歳の誕生日を迎えたらすぐに月ちゃんがお嫁に来てくれると思っていたのに!!』と母親に怒られた。

月代が病気持ちであることは両親にとってはどうでもいいことらしい。

俺の嫁になってくれるのなら大歓迎だと、すでに娘として可愛がっている。

どうやら詩織があれこれと年月をかけて両親に吹き込んでいたらしい。

本来なら俺がやらなきゃいけない事だったのだが詩織は満面の笑みを浮かべて

「月ちゃんが私のお義姉さんになるのよ!?手伝わないわけないじゃない!」

とぐっと親指を立てた。

なかなか俺がプロポーズしないことにしびれを切らした詩織が星夜さんとタッグを組んでいたと知ったのはずっと後の事だった。







***


俺と結婚し、子供が出来た時、医者から出産をやめるように言われた。

いつ病気が再発するかわからないからと。

しかし、月代はせっかく授かった命を失いたくないと泣きながら訴えた。

星夜さんも俺も医者に頭を下げて月代の願いを聞き届けてもらった。

幸いにも病が再発することもなく、月代は無事に双子(男女)を出産した。

月代が心配していた先天性の病気もなく、二人はすくすくと元気に育った。

まあ、ちょっとした反抗期もあったが可愛いものだった。


月代の病が再発したのは双子が成人式を迎えた直後だった。



「私ね、幸せだったよ」

病院のベッドで月代は最期まで笑っていた。

「やりたいこと全部できた。昴流さんのお蔭だね」

力が入っていない手を両手で握りしめる。


「本当なら18歳まで生きられなかった私がここまで生きられたのは昴流さんのおかげ。ありがとう」


それが月代の最期の言葉だった。


俺の方こそ、月代と出会わなければ幸せにはなれなかった。

あの時のまま、ずっとサッカー選手としての夢を絶たれた絶望を引きずっていたはずだ。



『ありがとうは俺の方だ』という言葉はちゃんと月代に届いただろうか。



その答えを知るのはもう少し先になるだろう。


月代はやりたいことは全部出来たと言っていたがひとつだけできていないことがある。

俺はそれを成し遂げてからじゃないと月代のもとに逝けない。



「……ということで、結婚の予定があるのならさっさと進めてくれ」

「はぁ!?いきなり何言っているの?父さん」

「そうよ、私たちに結婚どころから恋人がいないことも知ってるじゃない」

「なら、さっさと見つけて俺に孫を抱かせろ」

「「…………」」

「なんだ?」

ジト目で俺を見つめてくる子供達。

「そんなに母さんのところに早くいきたいの?」

息子の淋しげな瞳に言葉が出なかった。

「僕も(おと)も母さんと約束しているんだ」

「約束?」

「そうよ、私と(ひこ)とお母さんの約束」

俺の知らない月代と子供たちの約束。

「母さんが亡くなって一年たったし、もう時効だろうから話してもいいよね。乙」

「そうね」

二人は顔を見合わせると真剣な表情で俺に向き合った。

「僕と乙姫(おとき)は母さんから『もし、私が死んだらお父さんを見張っていてね。あの人は外では平気そうなふりをするだろうけど、一人になったら何もしなくなっちゃうから』って忠告されていた」

「お母さんすっごく心配していたんだよ。自分がいなくなったあとお父さんがどういう行動をするか予想していたみたい。この一年でその予想がすべて実現していて驚いているのよ。私も彦星も」

月代の予想?

しかも俺に関することで?

「母さんは僕と乙に約束というか……難題を残していったんだよ」

「そうね、私と彦にとっては難題よね」

顔を見合わせてため息をつく二人に首を傾げる俺。


「母さんは『あなたたちの子供……私たちにとっては孫ね。が生まれて、少なくとも小学校に入学するまでお父さんを私のもとに来させないでね。あの人はきっとあなたたちの子供をその腕に抱くまでは私のもとに来ないから』って笑顔で言うんだよ!?母さんだって僕たちが恋人よりも趣味に力を注いでいること知っているのに!!」

ムスっとすると息子・彦星。

その隣で娘・乙姫もうんうん頷いている。


あはははは

月代には見抜かされていたのか。

周りにはやりたいことはすべてやった。心残りはないといっていたけど。

月代が唯一心残りにしていたこと。

それは子供たちの子供……つまり孫をその腕に抱くこと。

孫たちの成長を見守ること。


俺は月代の代わりにそれを見届けて月代のもとに行くつもりだった。

だけど、それは当分先になりそうだ。




おかしいな……

主人公(昴流)はもっとかっこいい子になるはずだったのになに、この残念感が漂う子になってしまったんだろう(笑)



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