王子
8月になった。
夜の7時を過ぎたのにまだ明るい。
昼間は暑いから寝ていて、夕方から出かけることが多かった。
プルルルッー
携帯がなる。
「もしもしー」
友人のヒカリからだった。
夜の小学校のプールに忍びこんでみんなで泳ごうっていう誘いだった。
この前、ヒカリから夜のプールに忍びこんだ話を聞いてめちゃくちゃ羨ましがったから、それで誘ってくれたんだろう。
すごく嬉しい。楽しみだ。
車のある男のコが私を迎えに来てくれるそうだ。
急いで支度をはじめた。
タオルと水着を用意した。
服は着替えやすいようにマキシワンピを着た。化粧はしなかった。夜だし、どうせ泳いだらとれてしまうと思ったからだ。
プルルルッ
今度は知らない番号だ。
「はい、もしもし」
電話に出た。
「優心ちゃん?ヒカリちゃんに言われて迎えに来たよ。」
少し緊張してるような声がした。
「ありがとうございます。すぐ行きます。」
家を出る時、庭に山本さんがいた。小さな声で「いってきます」と言った。
玄関の門を出るとかわいい車が停まっていた。ミニクーパーを普通車のサイズにしたような初めて見る車だった。車の近くに長身で黒髪の見覚えのある男のコが立っていた。
あっ王子だ。
心の中で呟いた。
初めて近くで顔をみた。
やっぱりキレイに整っていて、瞳の色素が薄くてキレイな目をしていた。
ニコって笑うと八重歯があってドラキュラみたいだった。でも、私は見惚れてたりしない。
今日の私は化粧もしてなくて、着替えやすさ重視のワンピース。足元はビーチサンダル。
ヒールがないせいで彼の身長がさらに高く感じた。
今日の私
属性 すっぴん
攻撃力 0
防衛力 0
アイテム タオル
武器 水着
特殊スキル 発動なし
王子からみたらザコキャラだ。
こんな私でゴメンなさい。
普段はもうちょっとましなんだけどなんて思いながらおどおどしてた。やっぱり、化粧や服やヒールで武装しないと男の人は苦手だ。
そんな私に気を遣い、王子はいろんな話を振ってくれた。
ナンパしてくる人と違ってギラギラとかガツガツとかテンションが高すぎるとかがなくて
ゆったりした空気の人だと思った。
すぐに悪い人じゃないのはわかった。
王子の名前は椎名真広
家の近くに住んでいて、年は19才で私たちの高校の卒業生だった。
控えめでおおらかで人見知り。
そんな感じの人だった。
私は初めて見かけた日、「遊んでそぅ…」なんて言ってゴメンナサイと心の中で謝った。
王子はヒカリにバイト先のカフェで仲良くなったらしい。
逆ナンだなw
ヒカリ、やるな!!なんて思ってた。
私の家からヒカリの家に迎えに行って小学校のプールについた。そこには、すでに2人男のコが来ていた。