大国様が本気で義父を攻略するようです・十五
注意:このお話は、男性同士の恋愛描写が含まれております。苦手な方はブラウザバックをお願い致します。
宿屋で一晩寝た俺たちは、少し遅めの朝に起きた。
普段ならしっかり早起きして、顔洗って朝飯までの時間を訓練して過ごすけど、旅先の今だけなら寝坊したってかまやしない。
訓練もない、早起きもない、日差しの眩しさに目を開いて、布団のぬくさに負けてまた寝ようとする。
隣の大国もまだぐーすかと眠っていた。美男子というのは寝ていても無防備でも絵になるから何かむかつく。
しかたねーなとぼやきながら、大国の肩を揺する。
「大国、朝だぞ。そろそろ起きよう」
「……う、ん」
長いまつ毛を揺らして、大国が目を覚ます。うっすら開いた瞳が俺をまっすぐ見つめていた。……女神だったら卒倒するほどの展開だよなこれ。あいにく俺は男なので揺らいだりときめいたりはちょっとしかしない。
「ああ、お義父さん……。もう朝でしたか……」
丸くなりながら目をこする大国はどうも子供に見えて可愛らしい。こいつが子供だったら素直に微笑ましいって思えたんだけどなあ。
「そろそろ起きるぞ。布団片して水飲んだら、温泉入って来る。大国は?」
「ご一緒させてください。すぐに起きますから」
大国はいそいそと布団から出た。
布団を片付けて衣服を整える。水を一杯飲んで浴場へと向かった。
朝いちばんの温泉は俺と大国以外だれもいなかった。だだっ広い風呂は、俺たち二人だけではあまりに広い。広いからこそ何だかうれしくなるわけだ。
「お義父さん、お背中流しますよ」
「ありがとな。次は俺が流してやる」
「はい、お言葉に甘えますね」
朝につかる温泉ってのもいいものだ。朝風呂なんて出雲じゃ滅多にやらないから、なおさらかもしれない。
背中を流し合って湯船につかる。朝のひんやりした空気を頭と肩に受けて、全身は熱い湯にひたる。朝風呂ってなんて贅沢なんだろう。
ぜいたくに朝風呂した後は冷たいジュースを飲んでさっぱりする。
休憩所でふたりしてだらーんと体を休め、部屋に戻るといつの間にか朝食が用意されていた。ほかほかのごはんと熱い味噌汁に、焼き魚と卵とお浸しと。大国と向かい合って朝食を食べるのは初めてじゃないし、むしろいつもやってることだ。
でも今だけはこの時間にそわそわした。いつもと違う場所で、初めての地でのできごとだから、緊張でもしてるんだろうか。
腹減ってないけど、朝飯はすんなりと喉を通る。胃に来るような重たい飯じゃなかったからなんだろうか。
大国はいつも通り優雅に飯を食っている。自分だけどきどきしてるなんてどうも不公平だと思いながら、でもそれを口に出したり態度に出したりすると何が負けた気分になるから、黙って飯に集中することにした。
飯を食べて少し休んで、俺たちは荷物をまとめた。大きな荷物は駅のコインロッカーに預けて、最後の旅をする。
力が自慢の俺は、ここぞとばかりに大国の荷物を負ってやる。「そんな、悪いですよ」とあたふたする大国を見てると、ざまーみろと勝った気分になる。今だけは俺が優位だから。大国の役に立ってるのが、何だかうれしい。
宿を出て一度駅に向かう。改札前のロッカーに荷物を突っ込んだ。
軽装になった俺と大国は、再び知らぬ地の探索を開始した。
人通りを少し離れた道を歩いていくと、商い中なのか閉店中なのかわからないような店がちらほら受け取れた。
外から中を、じっと目を凝らしてうかがってみる。背中のまるまったじいさんばあさんが座ってて、隣には小さな神々が戯れている。こっちに気づいて手を振っていた。手を振り返すと、嬉しそうに笑ってくれた。
こんな店がいくつも並んで、時々気になった店に入ってお土産を買う。姉や兄に、嫁や子供たちに、出雲のガキ共、母に……まあ、あんなでも親父は親父だ、父にもきちんと買う。
実はさっきこっそり、大国の分のお土産も買ってやった。ガラス細工の置物だ。もっといいものを買えたんだろうけど、青く透き通ったその置物こそ、彼奴にぴったりだと思ったのだ。
渡すタイミングはいつがいいかとアレコレ考えながら、俺は大国と一緒に街をあるく。
温泉旅行の醍醐味は温泉なのはもちろん、夜が明けて朝を迎える時間とか大量なのにほとんど胃におさまっちゃう朝食もだと思います。