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5:狂気の嵐

ブログ掲載したモノを加筆修正しています。

また、一部暴力的な表現があります。ご了承ください。


この世界の王様の元で

罪人である私は、けれども

穏やかで平穏な毎日を過ごしていた。


美しい方の大切な大切な


『鏡』


が壊れるまでは。



それは本当にちょっとした事であった

と王様は教えてくれました。


***************************************


美しい方の神殿は

いつの間にか、誰も気が付かないうちに

何かが変わり、歪みが生まれてた。しかし、美しい方を盲目に愛するあまり

それに気が付く者はおらず、また世界の王も静かにあるだけであった。

そいやって少しずつ美しい方が狂い始めてから

世界は鮮やかな色を、華やかさを失った。

そうして、最後にあるのは

静謐さと硬質さ、凍る様な美しさだけだ。

しかし、それでもなお、神殿の者たちは美しい者に対して狂愛を深めていた。


狂った愛は、狂った愛を呼ぶ。


美しさに歪められる世界に

神殿に近寄る者はもうほとんど居なくなった。

民衆は美しすぎるものを恐れた。そして神殿の者たちは汚れ穢れを許さなかった。


だから

誰も触れなかった、誰も触れてはいなかった。


『鏡』(月の真澄鏡)


それに、触れた。

だって、鏡が曇り、歪んでいたから。

そうして神殿の者たちが鏡に触れると、それは汚く、醜く崩れ落ちた。


ドンッ

と激しい音が世界の中に鳴り響かせた。

美しい方は聞いた事もない絶叫が神殿から溢れ出て行く。

それは世界を揺るがす絶叫ですぐに王様が知る所となった。


「王様っ」


世界の中心であるこの王様の神殿は常に平穏と平安に保たれている。

それが、世界の中心である証であり王様の役目だからだ。

しかし

いつもの平穏が側近の声で破られた。

「……」


その時の王様はひどく怖い顔をしていたらしい


「美しい方の神殿がっ」

「ふん。とうとう壊れたかぇ」


壊れたのは 


美しい方

ねぇそれはどっち?



***************************************


美しい方の神殿では

恐ろしい程に大量の薔薇の花が渦を巻く風のなかをぐるぐる回っていた。

色とりどりの花々が回る様子は、ゾクリと鳥肌が立つ程に艶かしく美しく

狂気的だった。


「王様、これ以上近づいてはなりません!!!」


王様の神殿の衛兵が遠くの方から声をかける。

本来なら不敬にあたる行為だが衛兵は全力で叫んだ。叫ぶ衛兵は血まみれだった。

小さな切り傷を体中、顔中につくり、血が流れていない所はない程に傷だらけだった。

薔薇は風の中をうごめきながら、鋭いとげをもち美しい方の神殿に近づく者を傷つけてゆく。

それは美しい方の神殿の者たちも同様であった。

狂愛する王に皆が近づき、息も出来に程に血まみれになる。

薔薇が、あらゆる所、モノを切り裂いていく。すでに事切れた者もいるだろう。

薔薇の渦に死角はなく全ての者を、狂気の中に突き落とす。

誰もが息をのみ、状況を眺めるしかない中で王様は美しい者の神殿へ足を進めた。

薔薇の渦は、王様に傷を付ける事はできない。とばかりに薔薇と風が王様をよけて行く。その後ろでは薔薇と風が王様に傷を付けられなかった事を恥じる様に狂気をはらんで荒れ狂う。

美しき者の神殿の内部は薔薇の花びらが飛び散った血の様に、散乱していた。


「美しい者の業とは、狂い方も美しいのだな」


この世界の王様は花びらを踏み潰しながら呟いた。


狂気をはらんだ美しい方は神殿の一番奥の醜い者がいた部屋で

小さく、小さくうずくまり鳴いていた。

もう言葉にすらならず、ただ鳴いていた。

王様は問う


「返して欲しいか」


返答は無く、美しい方はそれはそれは綺麗な涙を流すだけ

「…」

「言わねば分からぬ。言葉で話さねば我は帰る」

「……、わ」


この世界の王様は言葉を待っていた。


「か、かがみ。」


美しい方は欠片となった言葉をひたすら零してゆく。


「こわれた…。いない」


「あのこ」

「あのこ」


「だいすきな」

「いちばんだいすき」


「あのこ」

「あのこ」


「壊れた」

「あの子」


「いない」


美しい者から涙が零れた

それは

小さな真珠となって


ころん

ころん


と地面に落ちて行く


ころん

ころん


「返して下さい」


この世界の王様は冷めた目で泣く者を見つめる


「お願いです。僕が一番大好きで大切なあの子を返して下さい」


それはただの、可哀想な者の懇願だった。



皆が、あの子は醜いというあの子の姿。

そんな物に惑わされたことなんて一度もない。

ただの一度もなく

ただ、自分の気持ちと周りの様子に追いつめられて行った。

そして逃げた、一番大切なものをこの世界に残して。


「あの子は僕のものです」


確かに一度、長い時間の中でたった一度

心が寄り添い、何よりも満たされていた時間があった。


「あの子は今どこに…?」


「ふん。狂ったお前はあの者に殺されようとした。しかしその前で狂ったお前は断念した。狂ったお前は耐えられなかった。あの者が他の物になること、自由にすることを。だから神殿のさらに奥へ閉じ込めようとして失敗した。あの物はもう此処にはおらぬわ」


「貴方が連れて行ってしまった」


「そうだ。ふんっようやく頭がすっきりしてきた見たいではないか」


「あの子は貴方のもとに?」


「あの者は二度と破れぬ誓約のなかで生きている。逢う事はできぬ」


「嘘だ…」


美しい者は知っている

だって王様は言ったのだから


あの子から逢う事は出来ない。と


だから

「僕があの子のもとへ行きます」


いつの間にか狂気の花嵐は収まり、あたりには強い薔薇の香りだけになった


そして、この薔薇の香りは『わたし』のもとへと届いていた。


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