4:そうして神殿は閉ざされた。
ブログ掲載していたものを加筆修正しています。
「気になるかぇ。アレの事」
と世界の王様はつぶやく。
この一月、王様は一度も訪れる事は無かった。
それ故に、この世界で起きている事、起きた事を私は知らない。
この太陽の神殿にも私の見方はおらず、何も変わらない時を過ごしていた。
「あの方は、今もあの場所に居て多くの人たちに愛されているのでしょうね」
そして私は世界の王様を見上げる。
私は小柄で、私より小さい者は少ない。
美しい方も、王様もいつも私は見上げていた。
「王様、王様は美しい方をもうその名で呼ばれないのですね」
すると王様は悲しげに笑う。
「美しい方の神殿は閉ざされたのじゃ」
世界は何も変わらず、いつもその均衡が保たれていた。
そのはずだった。
でも、小さな綻びはそれを大きくしていた。
醜い者を太陽の神殿に幽閉し、時はまた同じ様に流れていたのに
一人だけ、その時を停めてしまった。
王様はそう呟く。
だから、ここへは来れなかった、とも言った。
「ずっと、我はアレを監視していたのじゃ。
我が其方を奪ったから。
そうしていたら、アレは其方を失い壊れてしまった。
今のアレは美しい者ではなく、アレは動かないアレはしゃべらない。
アレはただ美しい笑みを浮かべているだけ、大きな鏡の前で今も壊れたままよ」
アレの神殿の中にひときは美しく大きな鏡が一枚運び込まれた。
それは月の真澄鏡、見たいモノを見せる、それはそれは繊細な美しい鏡。
それを聞いたのは何時だったか、その頃から不吉な噂を耳にする様になった。
曰く、美しい方は鏡に向かって微笑み
曰く、美しい方は鏡に手を伸ばし
曰く、美しい方は鏡に手を触れる
曰く、そのあまりにも耽美な様子に、神殿の者たちも、民も酔いしれている。
そう、不吉な話をこの世界の王様は教えてくれた。
「鏡の前で美しい者は何をされているのです?」
そう尋ねた私に王様はいった。
「其方の姿を見ているのよ」
其方がアレに微笑む
其方がアレに手を伸ばし
其方がアレに触れようとする
「神殿の者が見れば自分の姿もアレの美しい姿も映る。
普通の鏡としか思わないだろうがの」
逢いたいか、と王様は問う。
私は答えられずにそっと顔を伏せた。