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2:美しい神様と残酷な喜劇

ブログに掲載していたモノを加筆修正しています。

ボーイズラブと表記がございます、苦手な方はご遠慮ください。

これはもう残酷な喜劇としか言いようの無い噺だった。


彼は美だった。

この世界の全ての美しい物を集めたような彼

この世界の民たちは、彼を美しい神として敬愛し、崇拝している。


彼の神殿に居る者たちは、彼に愛されることを望み

彼が健やかであることを望み

彼に汚れ一つ、醜いもの一つ、近づくことを許さない。


そんな美しい者が心から望み

狂愛したのは『わたし』だった。

この世界の美しい物を何一つ持たず、母からも父からも

疎まれ、蔑まれ、醜い者として存在していた『わたし』


神のごとく美しい人は神となり、『わたし』は神殿に攫われる様に捕らえられ幽閉された。

民という身分から、神の一族へと位を変えさせられしまい、私は死ぬ事も出来なくなり

醜い容姿をさらし続けていた。

私は神殿に住む者たちから、疎まれ蔑まれ憎まれていた。

何故なら、美しい神に愛されてしまったから。

美しい彼は私に薔薇の様な微笑みを見せる、しかし彼を愛する彼の信者たちには

月の様に冷たい美貌を見せつけ、それが崩れる事は無かった。

私が憎まれれば憎まれる程、彼の狂愛は深さを増すばかりとなった。

何故これほどに『わたし』が美しい者に求められたのか、私には分からない。

分からなかった。

そんな日々の中で、私は大罪とも言える罪を犯す。

『僕を殺して欲しい』

美しい者はそう呟いた。

『そうして、僕は君にとっての永遠になりたい…』

狂気を宿す瞳に、民が、神殿の者たちが愛する彼の輝きはなかった。

『何を…言っているのです』

『そうしないと、君がいなくなってしまう』

『お止めください…』

彼は逃げようとする私の体を後ろから抱きかかえ、手をつかみ両手の間に鋭く、神をも殺すという短剣を

挟み込ませた。

そしてその上から私の両手を包む様に握ると、後ろから自分の喉を刺そうとした。

私は頭上へ無理矢理引っ張られる形となりうめき声を上げた。

そのとき、私の後ろにいた美しい者が私を突き飛ばし

『だれかっ!!』

そう神殿中に響き渡る様に叫んだのだ。

飛び込んで来た者たちが見たのは、美しい神が青ざめた顔をして震えている。

そして私は床に倒れ込み、その傍らには神をも殺すと言われる短剣が落ちていた。

そうして飛び込んできた者たちに私は捕らえられたのだった。


神殿の主を殺そうとした者、そう呼ばれた。


そして、本当なら殺されるはずだった。


それは神殿の者たちにとって喜びであった。

ようやく美しい神の側から醜い者が消えるのだから。

しかし、美しい神はそれを認めなかった。

神殿の奥深く、誰も近づけない所に私を幽閉し二度と、それこそ美しい者が死なぬかぎり

表には出さない、自由を与えない、そう言った。

しかしそれを神殿の者たちは認めなかった。

美しい神を奉り、愛する民が認めなかった。

そうしているうちに騒ぎは大きくなり、ついにこの世界の王様が私の前に現れたのだった。


『其方が、美しい者を殺そうとしたのか』

冷たい月の様な顔。

『私は…』

なんと言っていいのか分からなかった

『醜い容貌を持つ其方の美しい者への嫉妬か?』

月の様な王様は問う。

『私は…』

私は王様を見上げることしか出来なかった。

『嫉妬ではないのか』

初めてだった、どんな感情も伝えてこない眼を見たのは。

世界の王は、この世界の理であり秩序であり正義だった。

王様が間違う事はこの世界に無いのだ、そしてそれが私の唯一の救いになった。

『私は、私を殺して欲しいと存じます』

私は王様の前で跪き深く頭を下げた。

『この様な身、いりませぬ。この世界に混乱を呼び込み美しい者の神殿にて騒ぎを起こしました。

私の様に醜い者はこの世界にいりませぬ』

此処へ連れてこられて初めて涙が零れた。

『誰にも必要とされていない身です。

だからこそ私はこの醜い身が生きている事を自分に許してきました。

誰も必要としないならこの世界の片隅で、少しばかし醜い者が生きているの

も誰に迷惑がかかろうか、と。

しかしこの様な騒動となり、私はもういいのです。

世界の王様が私を否定して下さるならば、それは世界が私に生きるなと、要らないと

言って下さる事にございます。

私は、私の存在が美しい者の穢れになるとその様に思い上がった事はございませんでした。

ですが、結果そうなりました。私にはこの世界に生きる資格はございません』


私は初めて自分の想いを知った。

私は誰でもいいから言って欲しかった。

私が必要なのか、私は不必要なのか。

それを与えてくれたのは、多分美しい者だけだった。

だから、ずっと側にいた。居てもいいだろうかと少し本当に少し望んだのだ。

多分それが私の最大の罪。

ずっと美しい者の側にいるなど、望んではいけなかったのに。

『いいだろう』

この世界の王様はそれだけ言った。

そうして私は、美しい者の神殿から連れ出され

王様預かりの身となった。

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