夕食
夕食前。
「それでですね、小鳥さん達に餌をあげていたらいつの間にか数が増えて……」
僕はミレイヌの話ぼんやり聞き流しながら、椅子に掛けていた。
そしてアリティアの作った夕食はソフィーナさんに運ばれ、次々とテーブルの上に並べられていく。
「……ご主人様~?」
「ん?」
ミレイヌが座ったまま僕に顔を近づけ、じっと見つめてくる。
「……ミレイヌのお話、つまんなかったですか?」
「あ、ごめん……ぼーっとしてて、聞いてなかったよ」
「もう、ご主人様ったらぁ」
残念そうにしながら、自分の席に座り直すミレイヌ。
ちょっと可哀想だったかな。気をつけなきゃ。
そんな事を考えている間に、アリティアとソフィーナさんが席に着いた。
「さあ、これで夕食が揃ったわよ!今日はハンバーグにしてみたの!」
「ご主人様、アリティアちゃんの料理は本当に美味しいんですよっ!」
「うん……美味しそうだね」
テーブルいっぱいに並べられた料理は、どれもいい匂いがする。
「さあ、神に感謝を……」
「はい」
ソフィーナさんの一声で、2人は手を合わせて祈りを始める。
僕はよくわからなかったが、これもマナーなのだと思い、同じように合掌した。
目を瞑った。
あれ、頭が……。
「ご主人様、ご主人様?」
……
「ご主人様、起きて下さい!」
起きる?あれ?
「もうご主人様ってば、お祈りの途中で眠っちゃ駄目ですよう」
「僕……寝てたの?」
「椅子に座ったまま寝るなんて器用ね……早く食べなきゃ、冷めちゃうわよ?」
「あ、ごめんアリティア……」
なんということだ。
眠るつもりは無かったんだけど……意識が飛んでしまったらしい。
「仕方ありませんよ。旦那様は今日目醒めたばかりなのですから。さあ、夕食にしましょう旦那様」
「は、はい」
ソフィーナさんが優しく微笑みかける。
僕はナイフとフォークを手にとって、目の前にあるハンバーグを食べようとする。
が。
「……?」
持ち方がわからない。
そもそも、どちらの手でナイフを持ってどちらの手でフォークを持つのかもわからない。
仕方ないのでナイフを使うのは諦め、フォークで適当に刺し、口へ運んだ。
アリティアがちょっと難しい顔をした気がしたけど、気にしない。
「……あ」
「ね、どう?美味しい?」
「うん……すごく美味しいよアリティア。こっちのシチューも、食べていいの?」
「勿論、好きなモノを食べていいのよ」
「じゃあ、遠慮なく……」
今度はスプーンを手に取り、シチューをたっぷりと掬う。
口へ運ぼうとする。
溢れて、膝に掛かる。
諦めずもう一度掬う。
口へ運ぼうとする。
また溢れて、胸元も汚れる。
繰り返す。
「……」
僕は今まで使った事がないんじゃないかと言う位、食器の扱いが下手だった。
自分自身にぽかんと呆れていると、横からミレイヌがやってくる。
「ご主人様、お洋服にシチューがついてます!ミレイヌが拭いて差し上げますねっ!」
「あ、うん、ありがとうミレイヌ」
クロスを手に取ると、乱雑にシチューがついた部分をミレイヌは擦る。
するとソフィーナさんが僕の横に来て、スプーンを僕から優しく取る。
「旦那様、シチューは私が食べさせて差し上げます」
「え?いや、いいですよソフィーナさん」
「はい、あーん」
「……え」
「あーん、です」
僕はこどもですか。
突っ込みたくなったけど、このまま断るのも悪いので、このまま食べる事にする。
「……美味しい」
「ふふ、もう一度。あーん」
「あ、あーん……」
僕はソフィーナさんに、そのまま食べさせてもらう事にした。
「うう、なんだかソフィーナさんが羨ましいですぅ……」
「まるで赤ちゃんね」
僕とソフィーナさんを見ながらミレイヌとアリティアがニコニコ笑っていた。
そうか、これが恥ずかしいという感情なのか……。




