三人のメイドさん
この屋敷は、とても立派な建物のようだ。
廊下には金色の額縁に入った絵が飾られていたし、今いるリビングの高い天井にはシャンデリアまでぶら下がっている。
窓には全てブラインドカーテンがかけられ閉まっていて、外の様子は見えなかった。
それに新しい建物というわけでは無いようだけど、埃1つ見つからない。
きっと、掃除が行き渡っているって事なんだろうなぁ……。
そんな事より、僕は一体誰なのだろう。
僕は長身のメイドさんがお茶を淹れる様子を見ながら、ぼんやりと考えていた。
「さぁ、お茶の用意ができました……どうぞ、旦那様」
「あ、うん……ありがとう」
メイドさんは、全員分のお茶を用意して自分も席についた。
テーブルの真ん中には、クッキーの乗った皿も置かれている。
美味しそうだな……なんだかずっと、何も食べてなかった気がする。
僕が手を伸ばそうかと思った時、ちょうど長身のメイドさんが話しだした。
「まず、私達の自己紹介をした方がいいですね……私はソフィーナでございます。この屋敷のメイド長を勤めさせて頂いております」
品行方正なメイドさん、ソフィーナさんはその場で立ち上がると僕に一礼した。
「改めてよろしくお願いします、旦那様。何かお困りでしたら、何でもお申し付け下さい。」
「う、うん。よろしくソフィーナさん」
そう言うと、ソフィーナさんはにっこりと微笑んだ。
「次はあたしね。あたしはアリティア、ここでの料理は基本あたしが作ってるわ」
すごいでしょ、と言わんばかりに自慢げに笑うアリティアさん。
「えっと、アリティアさんもよろしく……」
「アリティアでいいわよ。あたしはあんたのメイドなんだし、ね……」
どこか強気なアリティアは、髪の毛をくるくると弄りながら答える。
しかしその様子を見たソフィーナさんは、はぁと溜息をついた。
「いけませんね、アリティア。旦那様にそのような態度を取っては」
「ご……ごめんなさい、ソフィーナさん」
ソフィーナさんには弱いのか、アリティアは素直に謝っていた。
「あのあの、わたしも自己紹介、してもいい……ですか?」
「あ、うん……君は?」
「ミレイヌです!ミレイヌは、ご主人様のメイドなんですよ~!」
へらっとした笑顔で答えられた。
わかりやすいようで、今の僕にとってはすごくわかりにくい説明だ。
「えっと……ミレイヌさんも、よろしく」
「はい!でもご主人様、ミレイヌもさん付けはいりませんよ!」
「わかったよ、ミレイヌ」
「えへへ♪」
ミレイヌは、満面の笑みを浮かべ僕を眺めている。
……この明るい笑顔の裏に何かを感じてしまったのは、何故だろう?
でも、そんな事よりも大事な事があった。
「それで……僕は一体、誰なんですか?」
単刀直入に聞いてみる。
「先程も言ったように、旦那様は私達のご主人様です」
しかしソフィーナさんに、当たり前のように答えられてしまう。
いや、そうじゃなくて……。
「僕の名前とか、職業とか……」
「あんたの職業はここの主人でしょ」
答えになってない。
「えっと……僕は、記憶喪失なの?」
「そんな感じです~、でも安心してください!ミレイヌ達がご主人様をお世話しますから!」
「は、はぁ……」
お世話って……僕は一体どんな生活を送っていたんだ。
「……とりあえず僕はここの主人で、君達は僕のお手伝いさん……って事なんだね?」
「ご主人様ったら~、お手伝いさんじゃなくて、メイドさんですよう」
「そ、そっか……」
ミレイヌが紅茶に角砂糖をたっぷり沈めながら否定する。
「いいですかぁご主人様、そもそもメイドさんっていうのは……」
いけない、この子メイドの概念から話そうとしてる。
「……ミレイヌ、話をよくわからない方向に持っていくのはお止めなさい」
「わわっ……すみません!」
ソフィーナさんが優雅に紅茶を飲みながらミレイヌを止めてくれた。
助かった……のかな?
「それはともかくあんた、この屋敷の事なーんにも覚えてないんでしょ?」
「うん……」
「だったら、あたしが案内したげるわ!」
「え、いいの?」
「あんたの為だもの、当然よ!お茶が終わったら、早速行きましょ?」
「ありがとう、アリティア」
なんだ、きつめの人かと思ったら結構いい人じゃないか。
人は見た目によらないなぁ……。
「アリティアちゃん、ミレイヌも一緒にいっていいかなぁ?」
「いいけど、今日の掃除は終わった?」
「あー……えへへ……」
笑ってごまかそうとするミレイヌ。
ああ、やってないんだなこれは。
「……いいですよ、ミレイヌ。掃除なら私がやっておきますから、旦那様に屋敷をご案内して差し上げなさい」
「本当ですかぁ?ありがとうございますソフィーナさん!嬉しいなぁ♪」
「ただし、明日からはきちんとこなすのですよ?」
「……はぁーい」
念のためか、釘を刺すソフィーナさん。
なんだか、ソフィーナさんってお母さんみたいな人だなぁ……。
そんな時、僕のお腹がぐぅ、と鳴る。
「あ……」
そうか、僕はお腹が減っていたんだ。
「全く……ほら、このクッキー食べていいのよ」
「あ、ありがとう……いただきます」
アリティアに勧められるまま、僕は皿に手を伸ばす。
とりあえず手にとった、チェッカークッキーを食べてみた。
「あ……美味しい」
「そりゃああたしが作ったんだもの、美味しくないはずないわ!」
「うん……!こんなに美味しいクッキー、初めて食べたよ!」
「そ、そうね。あんたは……初めてなんだものね」
「?」
一瞬、アリティアが暗い顔をする。
しかしすぐに自信ありげな表情に戻って、クッキーの皿を僕の目の前に動かした。
「ほらほら、もっと食べちゃっていいのよ!あとお茶も飲みなさい、ソフィーナさんの淹れる紅茶は絶品なんだから!」
「うん」
僕は美味しい紅茶とクッキーを、ゆっくりと味わった。




