つぎはぎの●●の末路
夜。
僕は、ミレイヌの目を見計らって、僕の隣の部屋のドアノブにそっと手をかけた。
僕の部屋と同じで窓が無い部屋の中は、真っ暗だった。
明かりをつけると、そこは……僕の部屋と、よく似た部屋だった。
1つだけ違うのは……
「……鏡?」
全身鏡が、奥にぽつりと置いてあった。
そういえば、僕は不思議な程今日まで鏡を見ていない。
「エルはなんでこんな所に呼んだんだろう」
僕はとりあえず、鏡を覗いてみる。
写っていたのは、普通の青年……いや、少年かな?
「……こんな顔だったんだなぁ」
よく自分の名前どころか顔もわからないままよく過ごせたなぁと、僕は自嘲気味に笑う。
すると、僕の頭に語りかけるようにエルの声がした。
『馬鹿だなぁ名無し君。君は普通の人間なんかじゃないんだよ』
「え?」
『……脱いで』
「……は?」
『着ている上着、全部脱いで。その手袋も外して。そして、鏡をよく見てみなよ』
「わ、わかったよエル」
なんだか、ちょっと恥ずかしいような……。
そう思いながらも、僕は服を一枚一枚脱いでいき、手袋も外した。
そして、鏡をじっと見る。
「……?」
何もおかしいところはない。
僕は普通の人間……人間……ニンゲン……?
あれ?
「球体、関節?」
普通の人間に、球体関節なんてあるのか?
無い。
ありえない。
僕は……人形?
「ご主人様ったら、やっと気づいたのですね♪」
「ヒッ!?」
鏡にもう僕以外の人物か写り、急激に焦る。
「もう、そんなに怯えないでくださいよ~、ミレイヌはご主人様のお母さんなんだから」
「な、何を……」
お母さん?
どういうことだ?
「ミレイヌは元々、このお屋敷の本来のご主人様から雇われた人形師だったんですよ」
「本来のご主人様?」
「はい。それで、そのご主人様の娘……リーゼロッテ様って言うんですけどね、その子にはお友達がいなかったんです」
聞き覚えがある。
リーゼロッテ……Lieselotte……L?
まさか、エルは……。
『正解だよ、名無し君。わたしは、リーゼロッテ』
「……」
淡々と、頭の中に直接話しかけられる。
こんなのって。
「それでお嬢様の為にミレイヌが人形を作ったんですけど、それが、貴方……ご主人様なんですよ」
「で、でも……僕はこうやって生きてる!喋ってる!これでも、人形なの!?」
本当は、こんな事言わなくてもわかってた。
僕は……リーゼロッテの人形……だった……。
「ミレイヌの人形は人間そっくりなんですよー、中身だって人間そのもの。強いて言えば魂が必要なんですけど……沢山集めましたから、今のご主人様がいらっしゃるんです。だから、あとは2人で幸せに……」
『2人で幸せに? 私の為に人形を作った? はっ、前から思ってたけど、お前は昔からとんだ大嘘付きだね……ミレイヌ』
「あらら、まだ成仏されてなかったんですか? 亡霊お嬢様」
リーゼロッテの姿が、ぼんやりとだか実体化する。
それを見たミレイヌは、珍しいものでもみるような目をした。
『黙れ。わたしの父様も母様も使用人も全て殺したのは、お前だろう?』
「殺したんじゃなくて、ご主人様の為に生贄になってもらったんですよう……それに、大半はソフィーナさんが殺ったんですよ?」
『わたしの父様の若い頃にそっくりにして、いいように利用してただけだろうに』
「そうとも言います。恋心程、利用しやすしモノはありませんから」
もしかしてソフィーナさんが僕を旦那様って呼んでいたのは……そういう意味もあったの……?
「あーあ、なんか亡霊お嬢様のせいで色々バレちゃいましたし……諦めて堂々と、ご主人様の永遠の生命をいただきますかぁ。つぎはぎの魂も、そろそろ熟れた頃でしょうし♪」
つぎはぎの、魂……。
永遠の……生命?
「ちょ、ちょっと待ってよ! どういうことなの!? 永遠の生命って……」
「ご主人様、人形は綺麗なんです。肉体は滅びる事が無いから、永遠の若さを持っています。魂が存在し無いのが難点でしたけどぉ……この何年かで十分集まりました。正確には永遠じゃないですけど、もし足りなくなったら、また補充するのみですしねぇ!」
「……」
狂っている。
ミレイヌは、おかしい。
「これからご主人様の意識を、ミレイヌが乗っ取ります。そうして、ミレイヌは老いない体で、ずっと綺麗なまま幸せに暮らすのです。まさにHAPPYEND!」
「何を言っているんだか全然意味がわからないよ!」
「わからなくて結構ですよ、ご主人様……これからご主人様は、ミレイヌと一緒になるのですから」
「ひっ……」
ミレイヌが僕に抱きついて来る。
頭が酷く痛む。今までの中で、一番……割れて、粉々になりそうな位……。
そして僕の中の魂達が暴れて……胸が……全身が……張り裂けそうな程、苦しい……。
「そういえば何日か前、ご主人様はどうして記憶がないのか教えてって言ってましたよね。今ミレイヌが答えて差し上げます!記憶が無いのは当然のこと、元は、ただの人形だもの」
「でも、僕、ピアノは覚えてた……あの子と、リーゼロッテと……」
「それはそれは不可解ですねぇ。亡霊お嬢様との事は覚えてたみたいで。人形に魂なんて無いのに」
『名無し君に、魂はあるよ……貴女達が無理矢理色々詰め込む前から、ちゃんとある』
リーゼロッテがミレイヌに異論する。
「モノに魂はあるっていうんですか、亡霊お嬢様?」
『ええ』
「くっだらなーい! そんなこと、ミレイヌすごくどうでもいいですねー!」
「ミレイヌ……」
「亡霊お嬢様も、ご主人様の魂にちゃんと融合してくれたら良かったのに。運悪く抜けだしちゃうんですもん、大人しく混ざりあえって奴ですようー」
『……性悪女が』
「はいはーい聞こえない聞こえない。ふふ、それじゃあおやすみなさい、名無しのご主人様……」
「あ……あ……あ……」
『名無し君……わたしには何もできないよ』
「リーゼロッテ……僕、は……あ……」
ミレイヌの冷たい口づけと共に。
僕の意識が、消えそうになる。
ああ……これで、僕の生命は終わってしまうのか……。
『……名無し君、わたしの手を取って!』
「……!」
そして、僕はリーゼロッテの手を掴んで。
僕の人形の体は……僕のモノでは無くなった。
「ふふふ。これで、ミレイヌが永遠の生命を……」
僕の声で、ミレイヌが喋ってる。
「うっ……なんで……頭がこんなに……!」
『……そんなに沢山の魂を、生命を、たった1人の人間が抱え込めるわけ、ないじゃない』
「あ……そんな……くる、し……い……いや……いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そしてミレイヌは、ぷつんと糸が切れたようにその場に倒れた。
起き上がる事は、それからなかった。




