満面の笑みで
「旦那様……愛しています、旦那様……」
「……」
僕は意識を取り戻したけど、目を開けられないままでいた。
僕の右手は、今ソフィーナさんに握られている。
それだけじゃない。
何度も何度も頬に唇押し付けられる感触というか……キス、されてる。
恥ずかしくて僕は眠ったふりをするしかできなかった。
「旦那様……私だけの旦那様……」
僕の手を握ったまま、ソフィーナさんがベッドに上がってくる。
そして薄目を開くと、僕に覆いかぶさるソフィーナさんの艶のある唇が僕の唇に近づい……て!?
ど、どうしよう!?
「危ないですよー、ご主人様」
その時、気の抜けたミレイヌの声がして。
同時に、乾いた音がして。
ソフィーナさんの目が見開かれ、みるみるうちに顔が青白くなっていく。
「ソ……ソフィーナさん? え……ミレイヌ!?」
僕は混乱して、わけがわからなくなった。
ミレイヌが……ソフィーナさんを撃った!?
「ケホッ……まだ、生きていらっしゃったのですね……ミレイヌさん……」
ソフィーナさんは酷くむせながらも僕がいるベッドの前に立ち、ポケットに入っていた……銀色のナイフを取り出した。
よたよたとしているのは、足を撃たれたかららしい。
ミレイヌは感情の読めない笑顔で、こちらに黒い小型な拳銃を向けているままだ。
……って、ぼーっとしている場合じゃない!
「ミレイヌ、なんでソフィーナさんを!?」
「ご主人様、ソフィーナさんは酷い人なんですよ。ご主人様が覚醒める前にもたーくさん、この屋敷にいた人達を自分の欲望の為に殺したんです。そして、次はご主人様がそのナイフの餌食になるところだったんですよう」
「そう……なの?」
僕を、殺す気だった?
あの優しかった、ソフィーナさんが?
「ち、違います旦那様! これは……!」
必死で否定するソフィーナさんがいたけど、僕には信じられなかった。
確かに、ナイフがそこにはある。
「ご主人様が覚醒めてから犠牲になったのは、アリティアちゃんです。ミレイヌは、身代わりのお人形でなんとか難を逃れましたけど……これでも結構危なかったんですよ?」
「ア、アリティアを殺したのは……!」
「だから、ソフィーナさんですよ」
ミレイヌが即答する。
「違うんです!これも、全部旦那様の為に……旦那様の為に私は……」
「ご主人様、ソフィーナさんから離れてミレイヌのところに来た方が安全ですよ」
「お願いです、信じて下さい旦那様!私は、本当に旦那様の為に……」
2人が、僕を呼ぶ。
僕は……当然のようにミレイヌの元へ行った。
「そんな……どうして、旦那様……」
「理由はよく知らないけど……人を平然と沢山殺すなんて、おかしいよ! それに、屋敷の人も全員殺したなんて……最低じゃないか」
「……っ!」
ソフィーナさんが、ナイフを床に落とす。
「ご主人様はミレイヌを選んだ。この意味、わかりますか?」
冷たい声でミレイヌが言い放った。
「そんな……旦那様、が……」
涙声のソフィーナさんが、カタカタと震え出す。
「そんな……そんな……そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなあぁぁぁぁあぁぁいやああああああああああああっ……!」
そして、その絶叫は1発の乾いた音で遮られた。
「あ……あ……」
ソフィーナさんの肩に弾丸が命中し、みるみるうちに赤く染まっていく。
「うーん、上手く当たりませんねぇ」
ぼそっと言うと、ミレイヌは容赦なくソフィーナさんの体を狙って弾丸を撃ち続けた。
腹に1発。
胸に1発。
顔にも1発。
2発は外れて、ベッドに小さな穴を開けた。
ソフィーナさんは床に崩れ、そのまま倒れた。
「これで終わり! ソフィーナさんももう死にましたね! これでもう大丈夫ですよ、ご主人様!」
安心させようとしてか、僕に満面の笑顔を向けミレイヌ。
僕は、この光景を見て何も喋る事ができなかった。
「……安心してください、ご主人様の体はちゃあんと、このミレイヌがお守りします……、今までお疲れ様でした、ソフィーナさん!」
ソフィーナさんは、額から血を、瞳から涙を流して、僕を悲しげに見つめていた。
「だん……な……さ……」
小さな声で、ソフィーナさんが呟いた。
「ああ、あと1発残ってました」
また銃声が響き、ソフィーナさんは最後まで言葉を紡ぐ事は出来なかった。
絨毯には大きな赤い染みができ、やがてそれは黒へと変わっていった。




