忠告
どこまで行っても、真っ暗な夢。
もう、既にわかっている。
「……いるんだよね、エル?」
『いるよ、名無し君も慣れたものだね』
「そりゃあね」
小さな光が集まって、見慣れた少女の形となる。
エルは青い目を細めて。僕ににこりと微笑む。
『ねぇ、名無し君……名無し君は、自分が何なのかを知りたい?』
自分が何なのか?
それは僕が一体何者かという事なのか?
「……知りたいに決まってるじゃないか、エル」
『知ったら、不幸になるとしても?』
不幸?
記憶がなくて不安な日々より、余程いいじゃないか。
「僕は、記憶を取り戻したいんだ。例えどんな過去が待っていようと、知りたいよ」
『そっか……だったら夜、1人でわたしの部屋に来てよ』
「エルの部屋は、どこなんだい?」
『名無し君の隣の部屋……鍵がかかってると思うけど、わたしが内側からなんとか開けておくよ』
「わかった。そこで、教えてくれるんだね?」
『うん。きっと自分のことも、わたしのことも、思い出すと思うよ』
エルは、どこか悲しげに笑う。
何故だろう?
『それより名無し君、気をつけてね』
突然真剣な顔で忠告され、僕は困る。
「えっと……何が?」
『せっかく貰った生命なんだよ、大事にしてね』
「だからエル、一体何のこと……」
『じゃあ、また夜に会おうね……ばいばい』
「あ……」
「……」
僕は、自然と目が覚める。
朝から元気なミレイヌの声は無い。
もういないのだから、当たり前だ。
「起きよう、かな……」
そう思って体を起こすと、僕の部屋の扉が開いた。
「おはようございます旦那様。もう、起きていらっしゃったのですね」
「……今起きたばかりですよ、ソフィーナさん」
僕は、少しソフィーナさんを睨むように見た。
もしかしたら僕も、2人のように殺されてしまう可能性だってあるのだ。
ソフィーナさんによって。
なのに、ソフィーナさんは僕の考えている事などお構いなしに微笑んでいる。
「今、紅茶と朝食が用意できましたので……お早めに降りてくださいね」
「……うん、わかったよ」
「それでは、失礼します」
ソフィーナは一礼すると、僕の部屋を出ていった。
「……着替えよう、かな」
僕はため息をつき、クローゼットの所へ向かう。
クローゼットを開く。
「……」
「……」
僕は本来クローゼットに入れるべきでは無いモノを目にする。
「……しー、ですよ、ご主人様♪」
「……」
何事も無かったかのように、僕は扉を閉めた。
……なんでミレイヌが僕のクローゼットに?
昨日ミレイヌの鼓動は無くて、もう死んでいると思ったのに。
でも隠れているのを大声でバラす事もない。
何か理由があるのだろう、この事はソフィーナさんに秘密にしよう。
それに……てっきりもう死んでしまったと思ったから、僕にはミレイヌの存在がとても嬉しく思えた。
少しだけ幸せな気分で、僕は1階へと降りていった。
2人きりの朝食は、少し寂しかった。
朝食の後。
また頭が割れるような感覚が僕を襲ってきた。
胸が裂けるような感じがして、それから僕は、また意識を失った。




