羽化する想い
11/4プロローグを差し込みました。
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夕食前に聞いた話の壮大さに頭の整理が追いつかず、うつらうつらしていたアルバートの耳にか細い悲鳴が聞こえた。
この家には二人しか住人は居ない。
即座にベットから抜け出し、もう一人の寝室へ。
「D?どうしたの?」
戸を叩き入ろうとしたが、鍵がかかっているのか開けられない。
「何でもない。入って来るな」
返された言葉が弱々しい。
不安に駆られて扉を蹴破ると、月光を背にベッドに腰掛けたまま体を抱きしめ震えているDの姿が目に入る。
良く見れば頬には涙の痕が見て取れた。
「泣いていたの?」
「……坊やには関係ない。もう遅い、寝ろ」
押し殺した命令口調も、まだどこか頼りない。
その姿にアルバートは、自分の根幹が揺さぶられたような気がした。
ここに居るのは250年生きた魔女ではなく、養い親でもない、不安と恐怖に震える一人の少女。
アルバートは彼女の隣に滑り上がり、そっと横から抱き寄せる。微かに抵抗されたが、腕に力を込めると体を預けてきた。長い銀髪を梳り、流れで背中をさする。腕の中の体はようやく強張りを解いた。
ぽつりとDの口から、聞き逃しそうな小さなつぶやきがこぼれる。
「そんなに大きな声だったかの?」
「え?」
「坊やを起こしてしまったのだろう?」
「あ~別に。眠りが浅かったから」
「そうか。重い話だったからの」
「まぁ、ね」
当たり障りのない会話が少し途切れても、アルバートは背を撫で続けた。
「いかんなぁ」
「何が?」
「う~む。眠くなってきた……」
「寝て良いよ?」
「まずいだろう」
「何故?」
「人の温もりに……慣れる……わけには…………」
何かを言いかけたDの元に睡魔が訪れ、言い切る前に体は力を失う。支え切れなかったアルバートは、四苦八苦しつつも彼女を布団に横たえた。迂闊にも自分の腕が彼女の下から抜けない事に後で気付く。仕方が無いので、安らかな寝顔を眺めつつ頭を撫でているうちに彼もまた睡魔にさらわれて、そのまま眠りについてしまった。
考えるべき事、気になる事、聞きたい事、訊ねるべき事など山のようにあるけれど、取りあえずは先送りして。
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