表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の待ち人  作者: 周
本編
4/39

魔女と森と街

連投します。

でも、また少し間が開くと思います。


「どうゆう事?!D!!」

鼻息荒くアルバートが帰宅した。

小さな家の中の事だから、玄関の大声は家の隅々まで響く。『魔女の間』で薬を作っていたDは、そんな時期が来たかと溜息を一つ吐いて、部屋から顔をのぞかせた。

「どういう事とは何の事だ?」

「とぼけないで。領主の街が森の隣に移転してきたのって、Dがここに居たからだって今日の授業で習ったんだけど!」

Dの鼻先を通り、自分の部屋に荷物を置き、戻ってくる間も捲くし立てている。

「そのような事があったやも知れぬな」

タイミングを見計らって居間兼食堂に入ると、竈に火を起こしたアルバートが勢い良く振り返った。

「だってこの街が出来たのって150年前だよ?本当にその頃から生きているの?」

「最初の約束を覚えているか?」

切っ先を交わすかのような穏やかな顔に、勢いをそがれながらも思い当った事柄を口にする。

「学校に上がる時にした?街で魔女の話をしない、ってやつ?」

「これから話す事も口外しないと約束できるか?」

「必ず、誓って」

「では……まずは茶を。今日の菓子は何だい?」

いつものペースに戻ったDに苦笑を返しながら、ケトルを火にかけた。


食卓に向い合せに腰かける。

お茶の香りに目を細め、一口すすってからおもむろに話し始めた。

「学び舎でどのように習ったかは知らぬが、それはあくまで領主側の視点でしかない事をまずは言っておく」

アルバートが神妙に頷いたのを確認してから、さらに続けた。

「どこから話すのが的確やら。とは言え、一番の疑問は私の命数というか年齢であろうな」

再びコクリと素直に頷く。

「今までは『女性に年齢を聞いてはいけない』とはぐらかしてきたが」

一旦言葉を切り苦笑を浮かべたDには、拗ねた顔を返した。

「坊やが学び舎に上がる前に250年を数えた。正確に言えば今年で254歳、かの」

ヒュっと短くアルバートが息を呑んだが、それに構うこと無く続ける。

「ある事情で年を取らないのろいをかけられた私は、郷里を追われた。その際に魔力を封じるためにこの額飾りを嵌められ、姿が10歳程の幼子になった。この森に落ち着いたのは230年程前。食料などを得るために近隣の村人に薬を売っていたが、その評判が巡回騎士の耳に入り、この辺り一帯を治める領主の知る所となり、150年前に森の隣に越してきた。これがあらましだ」

冷めかけたお茶を口に運び、温もりが体をじんわりと温めている間、ゆっくりとDの話を反芻するアルバートを湯気越しに観察していた。

ようやく呑み込めた顔をしたのを見届けて、口を開く。

「街でどのように噂をされているか何となくは知っている。が、坊やは良く今まで反論もせず、共に暮らしている事を吹聴せずいてくれた。だから話したのだと理解して欲しい」

Dの言った『噂』を脳裏に浮かべながら、感情を押し殺して返した。

「約束、したからね」

「ありがとう。今言った事も、これから知るであろうことも、頼むな」

神妙な首肯に好ましそうに目を細め、Dも一つ頷いた。

「代わりに質問には答えられる限り答えよう」

「Dが表に出る時はマントを羽織って老婆を装うのって、年齢を誤魔化す為?」

「そうだな。初めにこの村に来た時、使いの子どもの振りをして薬を売っていた。『魔女の妙薬』として」

自嘲の笑みを浮かべる。

「子どもの売る妖しい薬に金を払う人はおらぬ。最初は苦労したが、効能を誇示するためにお試しで配ったりするうちに、ようやく信頼を得られた。しかし、姿の見えぬ『魔女』はよほど胡散臭かったのだろう。やむなく目くらましのマントをまじないを込めて織り上げ、羽織る事にした」

「『薬の受渡箱』を設置したのは面倒になって?」

「まぁ、そうだな。依頼が増えて、移動する時間が惜しくなったのだ。しかし、急患が出ては対応できないので、『火急ベル』も併せて据えた」

「あれ?家にまで呼びに来てもらえばいいのに?」

「私には秘したい事柄が多すぎる。年月をかけて家の周りは結界を張った。許可無き者は立ち入れぬようにな。ついで、森も開拓されてはこの家が誰の目にもさらされるので、手入れの者以外は入れぬようにしてある。だから『薬の受渡箱』も『火急ベル』も森の入り口に据え付けたのだ」

「だからこの森は丸いんだ」

納得のいった声に、笑いを含んで答えた。

「そう、この小屋を中心にしてな。今日はこれぐらいにせぬか?新たな疑問は追々答える故」

「最後に一つだけ。『狭間の魔女』ってどういう意味?」

一瞬、Dの顔から全ての感情が消え失せた。

「……年を取らないのろいのことだ」

「答えてくれてありがとう。ご飯支度するね」

重々しく告げられた内容に真情を込めてお礼を述べ、場を明るくしようと明るい言葉を添える。

「あぁ、頼む。腹が減った」

答えたDは、まだ浮上し切れていない様子だった。


誤字・脱字・意味の読み取りずらい表現など、ございましたらお知らせいただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ