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006 魔法という存在の大きさからくる決意


 族長宅へと戻ると、そろそろ村の皆は活動を始めるべく起床しているものが多かった。

「ただいま戻りました」

 そう声をかけた先は台所。そこではせわしなくフェイルが動いていた。

「あら。お部屋にいないからどこへ行ったのかと思ったわ」

「すいません。ちょっと昨日話題に上った湖というのが見たくて」

「どうでした?」

「すごく水も透き通って綺麗でした。それでその……」

 温泉を勝手に作った、などと言っていいものか凛が迷っていると、美冬が、

「温泉作っちゃいました!」

 なんて茶目っ気ある声で暴露した。

 美冬は先に部屋へ戻しておくべきだ、と凛はいまさら公開した。

「オンセン……とは?」

 そういうフェイルは器用に料理をこなしながらこちらに顔を向けて会話をする。その顔は怪訝。

 聞いたことがないような反応を見せることから、温泉という風習がこの世界、もしくはこの民族にはないものだと判断できる。

「なんていうんでしょうかね。外で入るお風呂、湯あみ場みたいなものですかね」

 言いにくいので遠まわしに言おうと考えていたのだが、見事に美冬が暴露したせいで、オブラートに包むことなくいう羽目となった。正直諦観の念が強い。

 しかし、フェイルの反応は思ったよりも良かった。

「まあ! そのようなものを?」

 凛はてっきり勝手に作ったことを怒られるとばかり思っていたのだが、フェイルの反応は怒りというより驚きだ。

「ええ、やっぱり勝手に作っちゃまずかったですかね?」

「そうですね……特に問題はありませんよ? さすがに浸かった水をまた湖に戻されると困るのですが」

 問題ない発言に、今度は凛が驚く番だった。

 まさかそこであっさりよしとされるとは思わなかった。怒らなかなったにしろ、今後は使わないようにとか、埋めておくようにとか言われるかとばかり思っていた。

 浸かった水は一度熱をかけてきれいにしているため、ある程度は問題ないかとは思うが、やはり生活用水である以上は今後もし使うのであれば、完全に蒸発させて湖には戻さないほうがいいかもしれない。

 水位が湖の淵ギリギリまであったことを考えると、一応水底から湧き上がっているのかもしれない。

 凛達はフェイルの寛容さに感謝して礼を言いつつ、一度部屋へと戻った。

 十二畳ほどと広い部屋で一つ思うことがあった。

 ――着替えどうしようか。

 地球では普通に毎日着替えをしていた以上、ここでも着替えをしたいのだが、ここはフェイルとスフィの女二人。服に関しては小さかろうが着ることはできるが、特に下着は困る。ノーパンというのはたとえ男であっても抵抗感は否めない。

 それにこれに関しては美冬も困っているのではないのだろうかとも思う。身だしなみに特に気を使う女性であればなおのことだ。

 せめて一着でも替えがあればと凛が悩んでいると、扉をノックする音が聞こえた。どうぞ、と許可をして、入ってきたのはスフィ。何かを抱きかかえており、その何かが凛からは布に見える。

「あのリンさんに着替えを……」

「えッ! ほんと?」

 思わず素で声が出てくる。こういったことを目から鱗というのだろうか、と凛は思った。

「ええ」

 しかし気になることが一つ。

「聞くのは野暮かもしれませんが、どうして男物が?」

 女所帯であれば、男物があるのはおかしい。

 森のような閉鎖された空間であれば来客も少ないだろうし、特に客用というわけでもない。

「昨日お話になった男性の方のものです」

 スフィは懐かしそうに言う。

 男性の方というのは魔法と剣術ともに優れたとフェイルの言っていた人だろう。

「その方がここで暮らしていたものですから」

「その人ってそんなすごいんですか?」

 凛は聞いてみたくなった。本当はこれこそ野暮なのだろうが、好奇心が勝る。

「すごかったですよ。とっても強くて、優しくて……」

 少しうつむいて話すスフィからは、懐かしさの間にさびしさが見え隠れしているように見える。それを見て凛はまたしまったと思う。その男性というのはもうここにはおらず、なのにそんな人を無理に思い出させてしまった。本当にデリカシーにかける。

「すいません。なんか無理に思い出させてしまったみたいで」

「いえ。こちらこそ憂鬱に話してしまって……それじゃあ着替えここに置いておきますね」

 言ってスフィはテーブルに着替えを置いて、そそくさと出ていた。

「ほんと俺はデリカシーにかける……」

 むなしくつぶやく声は虚空へと消えていった。

 凛は気持ちを切り替えるべく着替えることにし、着替えを持ち上げてみれば、それは麻でできた白いワイシャツと青く染められた簡素なズボン、そしてしろいトランクス型のようなパンツだった。

 服に関してはさほど地球と変わらないため、特に違和感は感じなかったが、下着に関しては違和感を感じずにはいられない。確かに見た目は白いトランクスなのだが、それはあくまで形の話であって、実感とは大きくかけ離れている。はいてみればごわごわとしていて、今までのペラペラとした薄い感じと違うところから違和感を感じ、そしてゴムではなくひもで縛る体をなしているところもまた違和感を感じた。

 ただ、今の現状からして着替えがもらえたことそのものがラッキーなものだ。

 慣れるのには時間がかかりそうだが、文句は言えまいと凛は割り切った。


 下着を持って歩くのは気が引けたため、凛は部屋へと置いてスフィかフェイルを探した。しかし思ったよりここは広く、人一人を探すだけで思ったより時間を食う。

 面倒なので探知をかけて探せば、三人の人間の反応。一人は凛の部屋の隣の部屋であることから、美冬だとすぐに検討が付く。もう二人は台所にいたようで、すぐにスフィとフェイルだということはわかった。そこへ足を進めた。

「お二方、洗濯場の位置を教えてほしいのですが」

「それなら家の裏にありますわ」

 言えば料理中の二人は一緒に振り返り、答えたのはフェイルだった。

 それに礼を言って凛はそこへと向かおうとして、

「お似合いですよ」

 笑顔でスフィに言われてまた礼を言う。下のほうがいまいちマッチしてないことはもちろん見えないので黙っておく。

 玄関から裏庭へとまわり、雑草の生えた場所へと出た。そこのちょうど草が生えていない一角にあったのは井戸で、その横にはその水を汲みとるための木製桶が二つ付いた滑車の原理を利用する装置と、さらに横には水をあける平たい木製のタライ。井戸を使用したことのある凛にとってはこの程度お手の物で、すぐに井戸の縄を引っ張って桶を取り上げ、反対につるされた桶を下していく。上がってくる桶をあける用の桶に汲んだ水を入れてそこで、

「あ、パンツ忘れた」

 慌てて取りに行き、部屋へと向かえばもじもじと凛の借りている部屋の扉の前で立っている美冬の姿。服装は制服ではなく、白い麻でできたワンピースのような衣類を身にまとっている。

 おそらく凛に着替えを渡す前に、スフィが渡したのだろう。

 白の衣類が美冬の黒い髪を一層引き立たせ、素材が良いのか非常に似合っていた。

 それに美冬であればおそらくどんな服装でも似合う気が凛にはした。

「どうしたの?」

「ひゃッ、み、ミヤヒハフン」

 何の気なしに声をかけたのだが、美冬は驚いて声を上げ、そして見事に噛んだ。

「ど、どうかなぁ?」

 顔を真っ赤に染め上げて、美冬はワンピースのスカート裾を軽くつまんで持ち上げた。よほど恥ずかしいのだろうかと凛は考えた。

 どうとは似合っているかどうかなのだろうが、口下手なうえにヘタレな凛はどうしたものかと迷い、 

「似合ってるよ」

 結局、困ったときの常套句でごまかした。

「あはは……ありがと」

「いえいえ。で、風木さんは……なんでもないや。ちょっとどいてくれる?」

 着替えに違和感ない? ときこうとしたのだが、これもまたデリカシーにかける発言だとぎりぎりで気が付いた凛はすぐさま話をずらす。

 了承を得てどいてもらい、中へと入って下着とワイシャツ、赤い文字がでかでかとプリントされたTシャツを手に取って、洗い場へと戻った。

 戻って水を張ったタライに洗うものをすべて入れ、それから……なんとなくあたりを見回して、ちょうど目に入ったバケツを手に取った。中には透明な液体が入っており、それを指先で触ってこすってみると、何やら泡が立ってきた。においは少しミントの香りがする。

 凛はこれを洗剤だと判断し、それを少しタライに入れて軽くこすって洗った。

 洗い終わったものはすべて宙に浮かせて、強風を起こしてある程度乾かし、あとは部屋へ持って帰って自分で乾かすことにした。物干しざおもあったがあまり大きくないものであり、フェイルとスフィも使うだろうからと思ってそこは遠慮をした。

 家の中へと戻ると、朝食ができたようで、エントランスの位置からでも香ばしい良い香りがした。

 香りにつられて台所へ行けば、もうすでに盛り付けが終わり、これからワゴンに乗せて持っていこうというところ。

「もう持っていきますので」

 スフィの一言を聞いて、一つうなずくといったん部屋へと戻り、洗濯物を乾かすことに。

 物干しざおが欲しい。どうしたものかと迷って部屋を歩き回っていると、ミシリ、と床がきしむ音がした。それを聞いて、必要悪と割り切って床に手を置く。手をゆっくり引き上げれば、そこからは長さ二メートルほどの棒が手のひらに引っ付いて床から延び出てきた。たくさんある家の木材をいろいろな場所から少しだけ、本当に少しずつもらって棒を作り上げたのだ。

「すいません」

 誰もいない部屋で一言謝ると、それを壁の角の出っ張りにひっかけて、そこへ洗濯物をかけた。

 そして目的の場所へ。

 そこは十畳ほどの空間で、相変わらず飾り気は感じられないが、その真ん中にはテーブルクロスの駆けられた大きなテーブルが一つと、その横に五つのイスがあった。昨日の夕食にも使った場所である。

 その五つのうちの一つにすでに美冬は座っていた。若干顔がまだ赤みを帯びているのは気のせいだと凛は勝手に思った。

 スフィとフェイルはテーブルへと盛りつけられた皿をワゴンから移している。 

「手伝いましょうか」

「いえ、お客人に手をかけさせるわけには」

 善意の気持ちで言ってみれば、そう返された。何を言っても手伝わせてくれそうにないことは明白だったので、凛は仕方なくイスへと腰かけた。

 凛がしばらく待っている間に支度は終わり、全員が席について料理を頂くことに。

「いただきます」

「いただいまーすッ」

「あの……」

 いつも通りのあいさつに、何か疑問点があったのかスフィが声をかけてきた。

「そのイタダキマスという言葉はなんなのでしょうか? 昨日も言っておられましたけど」

「なにって……俺たちの生まれの国での習慣なんですけど、食べ物を頂くときに、食べ物とそれを作ってくれた人に感謝の意を込めてというものです」

 凛は説明に困ったが何とか正しい意味で言えた。

「へえ~、初めて聞きました。私もやってみていいですか?」

「え? 構いませんけど」

 それをやるなという権利など凛にはない。

「い、イタダキマス」

 少しテレが抜けない様子でスフィは口に出すと、自分のスープを飲み始めた。


 食後、凛は美冬の部屋へと訪れて、雑談を始めた。

 凛は備え付けのイスに腰掛け、美冬はベッドの淵に腰掛けて、向かい合うように座る。

「それにしても魔法……ねえ。雅柴君を見た後だから信じられるけど」

 その単語は昨日フェイルと話した時に出たものだ。その時夕飯を食べた時のことなのだが、明かりを作るときにフェイルが手から光球を作り出したのだ。その時の美冬の反応は驚きをもろに見せかけたため、ぎりぎりで凛が小突いて止めたが。

「確かに俺も驚いたけど、言われて納得した部分もあった」

「そんな場所あった?」

「うん。ここミリフィ族ってさ、なんか男も女も体つきが細く見えなかった?」

「う~ん……言われてみればそうだけど、気になるほどでもなかったかな」

 考えるそぶりを見せて美冬はそう返す。

「魔法による生活補助は多くのものにできるってことは、生活の時、力を使う仕事をある程度魔法に頼ることもできるって考えられるでしょ? 魔法については俺みたいなものなのか、それとも漫画やゲームに出てくるものなのかまではわからないけど、少なくとも力を使うときに楽しているのであれば、少しずつ使わない力が出てきて、地球人より弱体化している可能性もあるし」

 確かにここにいる人間は若干地球人に比べて体つきが細かった。

 魔法に関しての知識がまったくない凛たちには推測でしかものが言えないが、可能性の一つとして考えられる。力を使わない分太るという考え方もできるが、少なくとも農業などで必要な分は歩いたりしなければいけない以上、目に見えて肥えることもない。

 ほとんど凛の洞察力によって偶然わかったことなので、実際はそれこそ誤差の範囲で収まるようなものだが、

 それに、魔法というものはこの世界に広がっているものだろうし、これはミリフィ族に言えたことではない。

「ほ~なるほど。でも魔法ってどんなものなんだろ?」

 今度は魔法そのものの話に移った。

「魔法って聞くと、魔力によって魔法を発動するものを連想するんだけど」

「まあそれであってると思うよ。フェイルさんの口ぶりからすると、魔法は攻撃の手段にもなるみたいだし、そういった点は俺たち知ってる魔法の定義から大幅にはずれたりはしてないと思う。気とは違うけどどフェイルさんが光球作った時に変な力感じたし」

 凛はそこまで言って止める。 

「それって奇術とは違うのかな?」

「どうだろう。奇術はもともと気を使う術だし、それに本来は自然を利用する術だったみたいだし」

「と、言いますと?」

「たとえば木を操って進路を妨害したり、体の熱を何倍にも増幅させて具現化して炎を作って火壁で妨害したり、土をいじって相手を拘束しているうちに逃げたり」

「なんか逃げる術ばっかだね」

「そりゃね。忍びの遁術は逃げるための術だから、おのずとこういった形になるんだよ」

 なるほどといった様子でうなずくと、うしろに倒れてベッドにあおむけになった。

「ほんとに異世界なんだねェ」

 わかりきったことを美冬は言った。

「そうだろうね。昨日の夜ちょろっとこの家にあった本を見せてもらったけどさ、文字がわけわかんない。まるで古代文字」

 昨日、魔法について知りたくて、凛は魔法について知りたい旨を伏せて、フェイルに頼んで何冊か本を見せてもらった。しかし、まったくと言っていいほど文字の形から文体までが違っている。せめてアルファベットでも使われていれば覚えられないこともなかったかもしれないが、まったく違う惑星で生まれた以上、そんな偶然はありえないし、この星に人間が生まれていただけでも奇跡なものだ。

 結局魔法については1つも情報を得られなかった。

「なんか不思議~。言葉は通じるのに文字が読めないなんて」

 美冬の意見には凛も同意だ。

 これではまるで、相手の話している英語はわかる上に、その言葉を自分もしゃべれるにもかかわらず、それを文にしたら読めないようなものだ。

「まあ、言葉が通じるだけでマシだよ」

「そうだね~」

「あ、そうだ。これからこの村についていろいろ聞いてこない?」

 凛は思いついて言った。

 今後この村で生活していく以上、この村のルールなどは知っておいて損はないだろう。

「そうだね。紹介してもらったほうが居心地もいいし」

 これから村を回ることが決まり、二人はスフィのもとへと訪れた。


「村の案内ですか?」

「ええ」

 ところ変わって裏庭。どうやら洗濯をしていたようで、せこせこ服を洗っていた。

「構いませんよ。私もそうしたほうがこの村で生活しやすいと思いますから」

 凛達はスフィの洗濯が終わるのを待って、終わり次第案内をしてもらった。

 ゆっくりとしたペースで歩き始めて最初に向かったのは、村の中心。

 中心は縦と横の大きな道が交差しているちょうどその交差点で、そこから道に沿って見ていくと族長宅、森、森、畑が道の先に見えた。

 つまり、この村は大きな空間をおおきな十字道で区切って、その分割された四つに村人は生活しているということだ。上空から見て、上へとつながる道が族長宅、右が畑、下と左が森へとつながっており、下の道をたどって森の中にある道を行けばこの森から出られ、左へと行くと、凛の今日見た湖がある。

 そして、その区切った左上と右上には家々が立ち並び、左下と右下にはそれぞれ工場と畜産場があった。工場は塩を生成したり、服を作ったりするための場所であって、誰かがそれでも受けているわけではない。代わりに、そういったものを一手に引き受けて、あとで物々交換をするという、お金の概念ができる以前の地球のような生活をしていた。

 おそらく農業は誰が、畜産業は誰が、工業は誰が、と分担をしているのだろう。こういったことは今も昔も別の場所でも変わらないらしい。

 凛たちは一通りの説明を受け、それぞれの住民にあいさつに回った。昨日は奇異の視線を向けていた人々も、服装の違った凛たちを比較的すんなり受けれてくれた。昨日のアレはどうやら服装が原因だったのか。

 余談だが、森で閉鎖されている以上外部とのつながりは数えるほどしかなく、そういった閉鎖された暮らしをしてきた所為のか、ここにクラスひとびとからは奥ゆかしさ感じられた。まるで日本人のような。

 日本も昔は比較的閉鎖した国であったし、それ以前も中国という大国の腰ぎんちゃくのような存在だったせいだろうか、あまり堂々とせずに表だってづけづけとしない。

 そしてミリフィ族も百弱という数であるが故に、大きな獣への対抗力も弱く、もしどこかの軍に責められたならばすぐにつぶれてしまう。

 そんな閉鎖的、弱者という点で日本人とミリフィ族には共通点があり、奥ゆかしい感じが、日本人である凛はシンパシーを感じた。

「みんないい人達ですよ」

 一通りのあいさつの終わった後、家へ戻ったスフィからそんな言葉を笑顔でもらった。

「最初は変な目で見られていたから大丈夫かなと思っていたけど、意外とすんなり受け入れてくれて助かりました」

 たぶんこういった小さな集落で、閉鎖された空間ある以上、お互いがお互いを助け合っていかなければ生きていけないのだろう。それは仕事を分担していることからも理解していた。 

「今日はありがとうございます。おかげてこれから暮らしやすくなりそうです」

「いえいえ。命の恩人にこれくらいはして当然です。それにこちらも楽しかったので」

 では、といってスフィは昼の支度をしに台所へと向かった。

「俺たちももどろっか」

「そだね」


 凛は昼食を食べ終えると気分転換がてら散歩をし、夕食を食べて自分の部屋へと戻った。

「魔法……か」

 思わず口からこぼれ出た。

 実際のところ凛は村案内をしてもらった時、別の目的があった。村案内を頼んだのはその目的のためだ。そしてそれが魔法について。

 歩いている最中に魔法を行使しているところが見られれば、と思って歩いていた。結果二、三度そのシーンを見ることができた。偶然挨拶に行った家で魔法がつかわれており、そのシーンはと言えば、焚き木に火をつけるというもの。

 これは凛でもできる。が、目的はそこではなく、そこから感じられる感覚だ。

 凛の使う奇術とは違い、内部というより外部からの力を使っているような感覚を受けた。その力が体内へと流れ込み、そして具現化した力へと変わって目に見える。

 仕組みは違うが確かにこれは戦闘にも応用できるものだ。炎を出す出力を上げれば火球にもなるし、何もない場所で水を作り上げることもできるかもしれない。

 空気中の水素と酸素を反応させてならば凛は水を作れるが、しょせん空気から得られる量はたかが知れている。それに対して魔法であれば、その(すべ)さえ知っていれば、誰でもあとは取り込む外部からの力によって大量の水が作れるかもしれない。

 誰でも使える。

 それは奇術にも言える。人間にはすべて気があり、それを使いこなせるようになれば誰でも使える。

 だが奇術と魔法を比べれば、不利なのは奇術だと凛は思った。

 奇術で言うところの気を、魔法は何を使っているのかわからない。が、外部から取り込んだということは、その力はそこらじゅうにあるものであり、底をつくことを知らない。つまり下手をしたら限度がないということになる。

 その点奇術、人間の体内に内包された気には限度があり、それが底を尽きればまったく力をつかえない。

 そう思うと凛はなんとなく自信がなくなるのだった。

 これからもし魔法使いとかち合うことになったら勝てるのかどうか。

 そんな敵と戦うことになって、本当に美冬を守れるのか。

 特に二番目に関しては人命がかかわっている。その分だけ怖い。もし自分の力不足で美冬が死ぬようなことがあったらと思うと、怖くてたまらない。

 地球では奇術なんてものは門外不出の力であったがゆえに、力比べで負けることはないという自覚があったし、一般人から命の危険にさらされることもないと思っていた。

 だけど今、こうして地球とは違う世界に来てみてどうか。

 魔法という漫画やゲームのような力が普通にまかり通っている世界。自分と同じ、もしくはそれ以上の力を持った人間がいるかもしれない。

 もしかしたら自分の力にうぬぼれていたのかもしれない。嫌々だったけど手に入れた力は普通とは違うし、どこかでそのことを理由に心因的にまわりより優位に立っていたのかもしれない。

 そんな自分に凛は嫌気がさす。

 いざ自分より強い力があるという現実にぶつかった途端に力というアイデンティティが瓦解して、ぼろぼろに崩れ去って。

 本当に自分は美冬を守れるのか。本当に自分は美冬に命を懸けれるのか。

 そう思うと自信がどんどんなくなっていく。

「ハア」

 思わずため息がこぼれ出た。そのため息にまたイラつく。

 自分の力にうぬぼれて、未知の力にぶつかって、それが不安で……。

 その不安が消したければどうにかするしかない。その自信を取り戻すのならどうにかするしかない。

 ――どうにかってどうやる?

 そこまでかんがえて一つ思い出す。

 ――また修行を始めようか。 

 凛は中学まで続けていた毎日の修行を高校に入ったと同時にやめた。それは単純に面倒くさいというもので、それまで毎日通っていた仁蔵宅にもいかなくなった。それから仁蔵からの連絡で「せめて週一回ぐらいは顔出せ」というほとんど命令に近い言葉を理由にしかたなく週に一度だけ通い始めて。

 それでも一応毎日無心になることだけは続けていたが、それ以外は週一の手合せのみ。

 これから始めるとなれば、自分でできる範囲として基礎体力の向上と術の効力拡大。

 ――明日からは早起きだな。

 朝の苦手な凛からすれば、あまりうれしくない事態だが、それでも不安と自身のためには避けては通れない道。

 

 その不安と自信という壁を壊す日はいつになるのか。


 ◇◆美冬の未練◆◇


 自室にて。

(そういえば学校ってどうなってるのかなぁ。マンガみたいにこっちでの一日が地球での一分みたいだったら問題ない……ってあるじゃん! 私がもしここで十年過ごす羽目になったら戻った時何歳だよってなるじゃん! うわ~どうしようできるだけ早く帰りたくなってきた。

 う~ん。いっそのことこっちに永住しちゃおうかなぁ。でもお母さんとか心配するだろうし。

 しょうがないで割り切れることでもないし、行方不明とかになってたらマジやばい……。

 でも雅柴君のお爺さんがこの世界に認められることが元の世界に帰る唯一の方法だって言ってたしし、それができれば……ってそれ無理じゃーん!

 だって全然意味わかんないもん!

 あ~、もう本格的にこっちに永住しようかな? お母さんたちには悪いけど。

 でもこのパディントンバッグももったいないなー。友達にも見せるって約束してたのに結局約束守れなかった。まあ私の自慢みたいなものだからそれはまあいいけどさ。

 でも友達には会いたいかも……。

 雅柴君だけっていうのも……。まあやさしいし、それなりに勇敢だし、退屈はしないけど。

 とにかくふたりじゃ恥ずかしすぎる! 今日もこのワンピ『似合ってるよ』って!

 キャーーーーーーーーーー!

 なんなんだーこの気持ち。恥ずかしいどうにかならないかな。

 あー二人でいるときとか間が持たないっていうか妙に緊張してさ、あー今まではただのクラスメイトだったのにィ……。

 それにこの世界に永住しか選択肢がなくなったら……け、け、けけ結婚とかって。

 み、雅柴君とになるのかな。いや待て待て待て待て!!!! 焦るな。話が体操選手並みに飛躍してる。落ち着け。

 それはこっちに永住したらの話だし、雅柴君の気持ちもあるし、なにより私だってこれからこっちに好きな人ができるかもしれないし。

 そうだ! まだわからないんだ!

 ……でも、ちょっと雅柴君がほかの女の人に取られたらいやって思ったかも。

 あー! 情けない! 嫉妬なんてどんだけ醜いんだー私ィ!

 もういい! どうせそんなことすぐには決まることでもないし、成行きに任せる!)


 話があまり進んでませんね。

 すいません。

 次あたりに話が進む……かもしれません。


 あと一応書いておくと、この話での奇術とは自然もしくは自分の体に気の力を作用させることによって効果を得るものということにしています。中二(笑)

 またいつか本文にこの説明乗せるかもしれません。


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