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当選発表

 「我色(わがいろ)」の企画に応募してから二週間が過ぎた。

相変わらず世間ではこの話題で持ち切り状態で、応募締め切り日二週間後を目安に、全ての応募者へ当選結果が郵便で送られてくるとパレット社から発表があった。

どのチャンネルも「我色」に応募した人をスタジオに呼び寄せ、心境をインタビューしている。


「四百万件の応募か……」


 スマホで「応募者四百万、少ない枠を勝ち取るのは⁉」と書かれた見出しのネット記事を読み、ぼんやりとテレビを眺める。

 テレビは「我色」に応募したと話す奇抜な髪色に縦ロール。あふれ出るお嬢様感を漂わせた高校生が映っている。


「わたくしは一番ですの。ですから、当選発表を見るのも一番、当選者一番目になるのもこのわたくし! 薫 牡丹(かおる ぼたん)が頂きますわー!」


 派手髪の女の子は一人高笑いをし、近くにいる芸能人たちは苦笑いを浮かべている。

どうせ、こういった金持ちや知名度のある人ばかりが当たるんだろう。

私のような普通の人には縁のない話だと、ため息を溢す。


 ピンポーン。

インターホンが鳴る。


「郵便です」

「はーい」


 母がインターホンのカメラ越しに返事をすると、玄関の扉を出て郵便物を受け取る姿が窓越しに見える。

母がリビングへ戻ってくると、ソファーでぐうたらしていた流の後ろに立ち、郵便物を差し出した。


「なにこれ?」

「よく見て見なさい」


 母はにやけた顔で差出人の所に指をさす。

差出人は「パレット社特別企画課」と書かれていた。

(ながれ)はすぐに郵便物を受け取り封を開ける。


「……見るよ」


 後ろに立っている母へ視線を送る。

母はコクリと頷いた。

恐る恐る、封筒の中に入っている紙を引っ張り出す。


「…………「企画参加者へのご案内」…………!」


 信じられない、まさか、本当に当たるなんて。

紙を握る手に力が入る。


「良かったわね……当選して」

「でも、どうして? 私、これと言ってーー」

「チャンスは皆平等に与えられるのよ。そのチャンスを手にするかどうかは運次第、流は運がいいから、当たったのかもしれないね」


 母は嬉しそうに笑った。


「さて、それはそうと……これから寮生活になるけど大丈夫なの?」

「あ……」


 忘れていた。

この企画の参加者は皆、寮で生活しなければならないということを。

正直、家を出たくはない。居心地の良い家を離れ、何か月家に戻れないか分からない、願いが叶うかどうかもわからない、わからない所だらけの環境に飛び込む勇気を流は持っていなかった。


「お母さん……やっぱり私……」

「行きなさい」

「え?」


 母の顔からいつもの笑顔が消え、低い声できっぱりと言った。


「流、あなたは昔から運がいい。でも、その運を掴まず逃げてばかりだったでしょ?」


 母の言葉に胸が痛む。

小学生の頃、お遊戯会の出し物として、流がいたクラスは「シンデレラ」を上演することになった。

主役のシンデレラは人気でじゃんけんをして、役を決める事となり、手を挙げていた流もじゃんけんに参加した。流は運よくじゃんけんに勝ち、シンデレラ役を勝ち取ることができた。

 しかし、突然怖くなってしまい、シンデレラ役をクラスで一番やりたがっていた友達に譲ってしまい、流はシンデレラが乗るかぼちゃの馬車役を選んだ。

 そのことを母は担任の先生から連絡帳伝手で知り家で、なぜせっかく掴んだ役を降りたのか問いただされたことがあった。


なぜ、やりたかった役を降りたのか。


理由は分かっている。


皆がやりたがっていた役を自分が演じるということは、手を挙げた人たちの分の気持ちを抱えることになる。つまり、責任を待つ。そう、思い込んでしまい、流は怖気づいてしまったのだ。


 また、あの時の様に欲しかったものを自ら手放すのか。

流は開けた口を縛り、手に持っている紙に視線を落とす。


「……私、行くよ」

「もう、あの時みたいに逃げない……!」


 母の目を見て話すと、母は肩の力を抜き、頭をわしゃわしゃと撫でまわす。


「よく言った! さすがはうちの子! えらい、えらい!」

「ちょ、やめてよ、お母さん!」

「なーに恥ずかしがってるのよ。家の中なんだから別にいいでしょ」

「でも」


 母に撫でまわされ顔を赤くする流を無視し、母は数分間娘を撫で続けたが、少しだけ寂しそうな眼をしていることに気がつき、抵抗するのを辞めた。


「少しの期間会えなくなるのは寂しいけど、流がしたいことはお母さん、止めたくないから」

「お母さん……」

「「我色」の企画がスタートするのは一週間後ね。流、頑張って来なさい」

「うん……!」


 温かい母の手を取り、満面の笑みを見せると、母は安心した表情で微笑んだ。

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