いつだってあなたのそばに
血迷った。
「――いい加減にしろよ!」
思わず殴り飛ばした相手は避けもせずに拳を受けてよろめいた。なんだ、その程度かよ、と涙を浮かべながら笑う顔に、苛立ちが増す。もう一発殴ってやる、とそいつの胸倉を左手で掴んで右手を振りかぶれば、誰かがぎゅっと腕に縋りついてきた。じわっと熱いその体温が必死さをわからせる。
「お願い! もうやめて! もう、もういいでしょ!?」
お願い、と懇願する声に一度拳を下ろした。肩越しに振り返れば首を振り、もう一度お願い、と言われた。
「もういいわけないだろ! こいつが何をしたかわかってるんだろ!」
「でも! もう、仕方ないじゃない!」
「仕方ないで済んだら咳止めは要らないんだよ!」
ゲホッ、ゴホッ、と肺から息が押し出されて思わず背を丸めた。胸倉を掴んでいた手を離して胸を押さえる。背中を撫でてくる手のひらが熱い。
「なんだよ、もう終わりか? 俺はもう少し遊んでやっていいんだぞ」
乱された襟元を正しながら、先ほど殴った頬すら痛くなさそうにそいつが見下してきた。悔しい、こいつがいるから、俺は。
「ねぇ、お願い、もうやめて……!」
背中を撫でていた手が体にぎゅっと抱き着いて、その熱に体が重くなっていく。
「やめてたまるか……! あいつは、あいつのせいで今、俺は苦しいんだ! 何度殴ったって、痛めつけたって、収まるもんか! 殺すんだ!」
「わかってる、わかってるよ! 大丈夫だから……」
ね、とまるで幼子をあやすように言われ、体から力が抜けていく。膝をつき、そっとベッドに横になり、布団を掛けられた。口に入れられたのは解熱剤か。流し込むための水が入ってくるのが遅くて少し苦かった。呑み込みのを確認してから優しい微笑を浮かべていたそいつはゆっくりと立ち上がった。こちらをニヤニヤと見下ろしているままのあいつに向かって迷いなく進んでいく。
「おい、何するつもりだ……!」
「後は任せて、大丈夫。解熱鎮痛剤が効いてくる頃にはよく眠れるよ」
「まて……! 体温……!」
「今は38度だよ」
にこ、と笑ったその顔が戦場に赴く戦士の顔に変わったことを俺は見逃さなかった。体の熱さ、倦怠感、くそ、と思いながら微睡みに沈んでいく。
遠くの方でいけ好かない顔をしたあの野郎をフルボッコする音を聞きながら、熱に身を任せて眠ることにした。
ありがとう、自己免疫。だとしても平熱が低い人間には38度は地獄です。
むしゃくしゃして書いた。




