魔王を倒したら帰れなくなったので、魔王城に住むことにした
魔王を倒した。
剣を振り下ろし、魔王の首を刎ね——
世界に平和が訪れた。
——と、思った。
「勇者様、おめでとうございます」
「これで世界は救われました」
魔王軍の残党たち——いや、元残党たちが、俺に頭を下げている。
みんな、美少女だ。
魔族というのは、そういうものらしい。
「で、俺はどうやって帰ればいい?」
俺は、異世界から召喚された勇者だ。
魔王を倒したら、元の世界に帰れるはずだった。
「帰る……?」
「そう。元の世界に」
元残党たちが、顔を見合わせた。
「申し訳ありません……帰還の方法は、存在しないのです」
「……は?」
——聞いてない。
召喚した神官は「魔王を倒せば帰れる」と言っていた。
嘘だったのか?
「勇者様を召喚したのは、人間の神官ですよね?」
「ああ」
「彼らは……帰還の術を持っていません。召喚する術だけです」
「……マジか」
俺は、天を仰いだ。
——詰んだ。
元の世界には、もう帰れない。
この異世界で、一生を終えることになるのか。
「勇者様」
元残党の一人——銀髪の美少女が、俺に近づいてきた。
「もしよろしければ……この魔王城に、お住みになりませんか?」
「魔王城に?」
「はい。前の魔王様も——」
銀髪の美少女が、言葉を途切らせた。
「前の魔王も?」
「いえ……なんでもありません」
何か言いかけて、やめた。
気になるが——今は、それどころではない。
「住む場所がないのは事実だな……」
「魔王城は広いですし、設備も整っています。勇者様のお世話は、私たちがさせていただきます」
「お世話……」
元残党たちが、にこにこと笑っている。
全員、美少女だ。
——悪くない。
「……分かった。厄介になる」
「ありがとうございます! 勇者様!」
こうして——
俺は、魔王城に住むことになった。
---
魔王城での生活は、快適だった。
朝——
「勇者様、お目覚めですか」
銀髪の美少女——リリスが、朝食を運んでくる。
腰まで届く銀色の長い髪。紫色の瞳。
艶やかな白い肌と、大きく張り出した胸。
メイド服のスカートから伸びる、細くて長い足。
——美人だ。
こんな美少女が毎朝起こしに来るなんて、元の世界では考えられなかった。
「今日は、特製のオムレツです」
リリスが、ベッドの横にかがみ込んでトレイを置いた。
その拍子に——メイド服の胸元が、ふわりと揺れる。
谷間が——見えそうだ。
「っ……!」
思わず、目をそらした。
「どういたしました?」
「な、なんでもない」
リリスが、小首を傾げた。
——無防備すぎる。
「ありがとう」
ふわふわのオムレツ。
魔族の料理は、人間界よりも美味い。
昼——
「勇者様、訓練のお時間です」
黒髪の美少女——ベルが、俺を訓練場に連れていく。
ベルは、ボディラインがすごい。
くびれたウエスト。豊かな胸。そして——大きなお尻。
黒いドレスが、その曲線を強調している。
「訓練? もう魔王は倒したけど」
「体を鈍らせてはいけませんわ。それに——お体を動かす姿、素敵ですの」
「……そうか」
訓練中、ベルはずっと見学していた。
扇で顔を扇ぎながら、熱っぽい目で俺を見つめている。
「勇者様の筋肉……素敵ですわ」
「お、おう……」
見学されながら訓練するのは、照れる。
訓練後、タオルを渡された。
「お汗、お拭きいたしますわ」
「いや、自分で——」
「遠慮なさらないで」
ベルが、俺の顔にタオルを当てた。
近い。
いい匂いがする。
ベルの豊かな胸が、目の前に——
「ベ、ベルさん——!」
「あら? 顔が赤いですわ、勇者様」
ベルが、意地悪く笑った。
——絶対、わざとだ。
夕方——
「勇者様、お風呂の準備ができました」
赤髪の美少女——フレアが、俺を浴場に案内する。
フレアは、燐のような赤い髪。金色の瞳。
小柄で、華奢で、妖精のように可愛らしい。
でも——胸だけは、しっかりと大きい。
「お背中、お流しします」
「いや、それは自分でやるから——」
「遠慮なさらないでください。私たちの仕事ですから」
「いや、でも——」
強引に押し込まれた。
浴場で、フレアが俺の背中を洗い始めた。
柔らかい手が、背中を撫でる。
「勇者様の背中、広いですね」
「そ、そうか……?」
背中に、柔らかいものが押し付けられた。
——待て。
これ、胸じゃないか?
「フ、フレアさん!?」
「はい?」
「背中に——何か当たって——!」
「あら? 気のせいですよ」
フレアが、無邪気に笑った。
——絶対、気のせいじゃない。
柔らかい感触が、背中に押し付けられている。
心臓が、バクバクと高鳴る。
結局、背中を流された。
その間ずっと、柔らかいものが押し付けられていた。
夜——
「勇者様、おやすみなさいませ」
三人が、俺のベッドの周りに立っている。
「……なんで三人とも俺の部屋にいるんだ?」
「夜警です」
「夜警?」
「勇者様をお守りするのが、私たちの使命ですから」
三人が、寄り添ってきた。
リリスが、俺の右腕を抱きしめる。
ベルが、俺の左腕を抱きしめる。
フレアが、俺の胸にもたれかかる。
——待て待て待て。
柔らかい。
三人分の柔らかさが、俺の体に押し付けられている。
「ちょ、ちょっと待って——!」
「どういたしました?」
「近い! 近すぎる!」
「夜警ですから。当然です」
リリスが、当然のように言った。
「私たち、勇者様の働になりたいんです」
ベルが、耳元で囁いた。
背筋が、ゾクゾクと震える。
「勇者様……温かいです」
フレアが、俺の胸に顔を埋めた。
——無理。
眠れるわけがない。
「……」
なんか、過保護すぎないか?
でも——
悪くない。
むしろ——
——これ、魔王より幸せじゃない?
---
数日が経った。
俺は、魔王城での生活にすっかり馴染んでいた。
「勇者様、今日のおやつは、特製のシュークリームです」
「勇者様、肩がお凝りではありませんか? マッサージいたしますわ」
「勇者様、今夜は一緒に星を見ませんか?」
至れり尽くせりだ。
元の世界では、一人暮らしだった。
仕事に追われて、恋人もいなかった。
それが——
今は、美少女三人に囲まれて、毎日チヤホヤされている。
——帰れなくて、よかったかもしれない。
そんなことを思い始めていた。
---
ある日——
俺は、魔王城の奥にある、古い部屋を見つけた。
「この部屋は……?」
「前の魔王様の……私室です」
リリスが、少し暗い顔で答えた。
「入っても?」
「……どうぞ」
部屋の中は、埃をかぶっていた。
本棚には、古い本が並んでいる。
机の上には——
日記帳があった。
なんとなく、手に取って開いてみる。
『百年目——この城にも慣れてきた』
『二百年目——もう、元の世界のことは忘れた』
『三百年目——そろそろ、終わりにしたい』
——終わりにしたい?
俺は、ページをめくった。
『誰か——俺を倒してくれ』
『この城から、解放してくれ』
『次の勇者が来たら——俺は、喜んで首を差し出そう』
——待て。
この日記——
書いたのは、魔王だ。
魔王が——「終わりにしたい」と——
「リリス」
「はい」
「前の魔王は——何者だった?」
リリスが、俺を見つめた。
その目には——哀しみが浮かんでいる。
「……勇者様と、同じです」
「同じ?」
「異世界から召喚された——勇者でした」
——は?
「前の魔王を倒して、帰れなくなって——この城に住み着いて——そして、いつの間にか、魔王と呼ばれるようになったのです」
俺は——
言葉を失った。
「三百年間——この城で、一人で——」
「私たちは、お仕えしていました。でも——最後の百年は、魔王様はもう……疲れ切っていました」
リリスの目から、涙が溢れた。
「だから——勇者様が来た時、魔王様は……嬉しそうでした」
——嬉しそう?
俺に殺されることが?
「解放されたのです。三百年の孤独から」
俺は——
魔王の日記を、握りしめた。
『次の勇者よ——俺と同じ道を歩むな』
『この城から、出ろ』
『人間の世界で、人間として生きろ』
——前の魔王からの、遺言だった。
---
その夜——
俺は、考えていた。
前の魔王も——元は勇者だった。
帰れなくなって、この城に住み着いて——
三百年かけて、魔王になった。
俺も——同じ道を歩むのか?
百年、二百年——
やがて「魔王」と呼ばれるようになって——
そして——
次の勇者に、殺されるのを待つのか?
「……考えすぎだな」
俺は、窓の外を見た。
満天の星空。
元の世界では、こんな綺麗な星は見えなかった。
「勇者様」
リリスが、部屋に入ってきた。
「眠れませんか?」
「ああ……少し」
「何か、お悩みですか?」
「……」
俺は、少し迷って——
正直に言った。
「俺も——魔王になるのかな」
リリスが、俺の隣に座った。
「なりたいですか?」
「いや……なりたくはない」
「では、ならなければいいのです」
リリスが、微笑んだ。
「前の魔王様は——孤独でした。三百年間、誰にも心を開かなかった」
「……」
「でも、勇者様は違います。私たちを——仲間として、見てくださっている」
リリスの手が、俺の手に触れた。
小さくて、柔らかい手。
「だから——大丈夫です。私たちが、傍にいますから」
リリスが、俺の肩にもたれかかった。
銀髪が、ふわりと俺の顔に触れる。
いい匂いがする。
リリスの紫の瞳が、至近距離で俺を見つめている。
「リリス……」
「勇者様……」
唇が——近い。
心臓が、ドクドクと速鳴りする。
「……私は、勇者様のことが——」
リリスが、何か言いかけた。
でも——
「……いえ、今は、やめておきます」
リリスが、少し離れた。
——今は?
俺は——
少しだけ、救われた気がした。
---
翌朝——
俺は、決意した。
この城に住み続ける。
でも——魔王にはならない。
前の魔王のように、孤独にはならない。
リリスたちと一緒に——
人間として、生きていく。
「勇者様! 大変です!」
朝食を食べていると——
ベルが、慌てて駆け込んできた。
「どうした?」
「人間の国から——報告が——!」
ベルが、息を切らせながら言った。
「新しい勇者が——召喚されたそうです!」
「……は?」
「『新魔王を討伐する』と——各地で冒険者を集めているとか——!」
俺は——
フォークを落とした。
「新魔王……?」
「はい! なんでも——『魔王城に居座っている悪の存在を倒す』と——!」
——待て。
新魔王って——
俺のことか?
「勇者様……」
リリスが、哀しそうに俺を見つめている。
「——始まりましたね」
俺は——
ようやく理解した。
前の魔王も——こうやって「魔王」になったのだ。
勇者が——魔王になる。
そして——次の勇者に倒される。
その繰り返し。
三百年前も——今も——
何も変わらない。
「……冗談じゃねえ」
俺は、立ち上がった。
「俺は魔王じゃない。勇者だ」
「でも、人間たちは——」
「関係ない。俺が魔王じゃないって、証明してやる」
俺は、剣を手に取った。
「——新しい勇者とやらに、直接会いに行く」
リリスたちが、驚いた顔をした。
「勇者様……」
「心配するな。話し合えば分かる——と、思いたい」
俺は、苦笑した。
前の魔王は——諦めた。
三百年間、城に閉じこもって——
最後は、殺されることを望んだ。
でも——
俺は、諦めない。
俺は——勇者だから。
「リリス、ベル、フレア」
「はい」
「俺が帰ってくるまで——城を頼む」
三人が、涙ぐみながら頷いた。
「必ず——帰ってきてください」
「ああ」
俺は——魔王城を出た。
新しい勇者に、会いに行くために。
俺は魔王じゃない——そう、証明するために。
---
後日談——
「で、その新しい勇者はどうだった?」
リリスが、俺に聞いてきた。
俺は——溜息をついた。
「……十四歳の女の子だった」
「女の子?」
「ああ。中学二年生——俺と同じ、異世界から召喚されたらしい」
俺は、あの時のことを思い出した。
---
新勇者を探して、人間の国にたどり着いた。
広場で「打倒魔王!」と叫んでいる集団を見つけた。
その中心に——小さな女の子がいた。
銀色のロングヘア。青い瞳。
まだあどけなさの残る顔立ち。
白いローブに、身の丈に合わない大きな杖。
——子供じゃないか。
俺は、近づいていった。
「お前が、新しい勇者か?」
女の子が、俺を見上げた。
「え——あなたは——」
周囲の冒険者たちが、ざわめいた。
「魔王だ! 魔王が来たぞ!」
「勇者様、お下がりを!」
女の子が、杖を構えた。
——震えている。
手も、足も、声も。
「ま、魔王! わ、私が——倒してやるんだから——!」
涙目だった。
——怖いのに、無理をしている。
「……」
俺は、溜息をついた。
「俺は魔王じゃない」
「え……?」
「前の魔王を倒した勇者だ。——お前と同じ」
女の子の目が、大きく見開かれた。
「ど、同じ……?」
「ああ。異世界から召喚されて、帰れなくなった」
「帰れない——」
女の子の唇が、震えた。
「わ、私も——帰れないの……?」
俺は——
何も言えなかった。
女の子の目から、涙が溢れた。
「いやだ……帰りたい……お母さんに会いたい……」
泣き出してしまった。
周囲の冒険者たちが、困惑している。
「ちょ、ちょっと——泣くなよ——」
俺は、女の子の頭を撫でた。
「……っ」
女の子が、俺を見上げた。
「大丈夫だ。俺がいる」
「……」
「一人じゃない。——俺と一緒に、来るか?」
女の子が、しばらく俺を見つめていた。
そして——
「……魔王さんって——優しいんですね」
「だから、魔王じゃないって」
「でも——怖くない魔王さん」
女の子が、少しだけ笑った。
「……一緒に、行っていいですか?」
「ああ」
俺は、女の子の手を取った。
「名前は?」
「……ミオです。佐藤ミオ」
「俺は——まあ、勇者だ。先輩勇者、とでも呼んでくれ」
「先輩勇者さん……」
ミオが、俺の手をぎゅっと握った。
「——よろしくお願いします」
---
「——というわけで、連れてきた」
俺は、リリスに説明を終えた。
「なるほど」
リリスが、頷いた。
「それで——」
ドアが開いて——
銀髪の少女が、おずおずと入ってきた。
「あ、あの……お邪魔します……」
ミオだ。
魔王城に来てから、緊張しっぱなしだ。
リリスが、目を輝かせた。
「まあ! 可愛らしい!」
「ひゃっ——!?」
リリスが、ミオに飛びついた。
「ふわふわの髪——! 綺麗な瞳——! 小さくて可愛い——!」
「あ、あの——! 苦しいです——!」
ミオが、リリスの胸に埋もれていた。
——羨ましい。
「リリス、離してやれ」
「あら、ごめんなさい。つい」
リリスが、ミオを解放した。
ミオが、顔を真っ赤にしている。
「お、おっきい……」
「何がですか?」
「な、なんでもないです……!」
ミオが、慌てて首を振った。
ベルとフレアも、興味津々でミオを見ている。
「可愛い子ですわね」
「妹みたいで、いいですね」
ミオが、きょろきょろと周りを見回した。
「あの……ここ、本当に魔王城ですか……?」
「ああ」
「みんな——優しい……」
ミオの目が、また潤んだ。
「私——怖い魔物がいっぱいいると思ってた……でも——」
ミオが、涙を拭った。
「お姉さんたち、みんな優しい……」
リリスたちが、顔を見合わせた。
そして——笑った。
「ここは、あなたの家ですよ——ミオちゃん」
「私の——家……」
ミオの顔が、ぱあっと明るくなった。
「はい! よろしくお願いします! 先輩勇者さん! お姉さんたち!」
俺は、ミオの頭を撫でた。
「よろしく——ミオ」
ミオが、嬉しそうに笑った。
——先輩勇者。
悪くない呼び方だ。
こうして——
魔王城の住人は、一人増えた。
もしかしたら——これからも、増え続けるのかもしれない。
帰れなくなった勇者たちが——
この城に、集まってくる。
前の魔王は——一人で、三百年を過ごした。
でも、俺は——
仲間と一緒に、生きていく。
ミオを守りながら——
リリスたちと一緒に——
それが——
俺なりの、勇者の生き方だ。
(完)
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