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魔王を倒したら帰れなくなったので、魔王城に住むことにした

掲載日:2025/12/27

 魔王を倒した。


 剣を振り下ろし、魔王の首を刎ね——


 世界に平和が訪れた。


 ——と、思った。


「勇者様、おめでとうございます」


「これで世界は救われました」


 魔王軍の残党たち——いや、元残党たちが、俺に頭を下げている。


 みんな、美少女だ。


 魔族というのは、そういうものらしい。


「で、俺はどうやって帰ればいい?」


 俺は、異世界から召喚された勇者だ。


 魔王を倒したら、元の世界に帰れるはずだった。


「帰る……?」


「そう。元の世界に」


 元残党たちが、顔を見合わせた。


「申し訳ありません……帰還の方法は、存在しないのです」


「……は?」


 ——聞いてない。


 召喚した神官は「魔王を倒せば帰れる」と言っていた。


 嘘だったのか?


「勇者様を召喚したのは、人間の神官ですよね?」


「ああ」


「彼らは……帰還の術を持っていません。召喚する術だけです」


「……マジか」


 俺は、天を仰いだ。


 ——詰んだ。


 元の世界には、もう帰れない。


 この異世界で、一生を終えることになるのか。


「勇者様」


 元残党の一人——銀髪の美少女が、俺に近づいてきた。


「もしよろしければ……この魔王城に、お住みになりませんか?」


「魔王城に?」


「はい。前の魔王様も——」


 銀髪の美少女が、言葉を途切らせた。


「前の魔王も?」


「いえ……なんでもありません」


 何か言いかけて、やめた。


 気になるが——今は、それどころではない。


「住む場所がないのは事実だな……」


「魔王城は広いですし、設備も整っています。勇者様のお世話は、私たちがさせていただきます」


「お世話……」


 元残党たちが、にこにこと笑っている。


 全員、美少女だ。


 ——悪くない。


「……分かった。厄介になる」


「ありがとうございます! 勇者様!」


 こうして——


 俺は、魔王城に住むことになった。


---


 魔王城での生活は、快適だった。


 朝——


「勇者様、お目覚めですか」


 銀髪の美少女——リリスが、朝食を運んでくる。


 腰まで届く銀色の長い髪。紫色の瞳。

 艶やかな白い肌と、大きく張り出した胸。

 メイド服のスカートから伸びる、細くて長い足。


 ——美人だ。


 こんな美少女が毎朝起こしに来るなんて、元の世界では考えられなかった。


「今日は、特製のオムレツです」


 リリスが、ベッドの横にかがみ込んでトレイを置いた。


 その拍子に——メイド服の胸元が、ふわりと揺れる。


 谷間が——見えそうだ。


「っ……!」


 思わず、目をそらした。


「どういたしました?」

「な、なんでもない」


 リリスが、小首を傾げた。


 ——無防備すぎる。


「ありがとう」


 ふわふわのオムレツ。


 魔族の料理は、人間界よりも美味い。


 昼——


「勇者様、訓練のお時間です」


 黒髪の美少女——ベルが、俺を訓練場に連れていく。


 ベルは、ボディラインがすごい。

 くびれたウエスト。豊かな胸。そして——大きなお尻。

 黒いドレスが、その曲線を強調している。


「訓練? もう魔王は倒したけど」


「体を鈍らせてはいけませんわ。それに——お体を動かす姿、素敵ですの」


「……そうか」


 訓練中、ベルはずっと見学していた。


 扇で顔を扇ぎながら、熱っぽい目で俺を見つめている。


「勇者様の筋肉……素敵ですわ」

「お、おう……」


 見学されながら訓練するのは、照れる。


 訓練後、タオルを渡された。


「お汗、お拭きいたしますわ」

「いや、自分で——」

「遠慮なさらないで」


 ベルが、俺の顔にタオルを当てた。


 近い。

 いい匂いがする。

 ベルの豊かな胸が、目の前に——


「ベ、ベルさん——!」

「あら? 顔が赤いですわ、勇者様」


 ベルが、意地悪く笑った。


 ——絶対、わざとだ。


 夕方——


「勇者様、お風呂の準備ができました」


 赤髪の美少女——フレアが、俺を浴場に案内する。


 フレアは、燐のような赤い髪。金色の瞳。

 小柄で、華奢で、妖精のように可愛らしい。

 でも——胸だけは、しっかりと大きい。


「お背中、お流しします」


「いや、それは自分でやるから——」


「遠慮なさらないでください。私たちの仕事ですから」


「いや、でも——」


 強引に押し込まれた。


 浴場で、フレアが俺の背中を洗い始めた。


 柔らかい手が、背中を撫でる。


「勇者様の背中、広いですね」

「そ、そうか……?」


 背中に、柔らかいものが押し付けられた。


 ——待て。

 これ、胸じゃないか?


「フ、フレアさん!?」

「はい?」

「背中に——何か当たって——!」

「あら? 気のせいですよ」


 フレアが、無邪気に笑った。


 ——絶対、気のせいじゃない。


 柔らかい感触が、背中に押し付けられている。

 心臓が、バクバクと高鳴る。


 結局、背中を流された。


 その間ずっと、柔らかいものが押し付けられていた。


 夜——


「勇者様、おやすみなさいませ」


 三人が、俺のベッドの周りに立っている。


「……なんで三人とも俺の部屋にいるんだ?」


「夜警です」


「夜警?」


「勇者様をお守りするのが、私たちの使命ですから」


 三人が、寄り添ってきた。


 リリスが、俺の右腕を抱きしめる。

 ベルが、俺の左腕を抱きしめる。

 フレアが、俺の胸にもたれかかる。


 ——待て待て待て。


 柔らかい。

 三人分の柔らかさが、俺の体に押し付けられている。


「ちょ、ちょっと待って——!」

「どういたしました?」

「近い! 近すぎる!」

「夜警ですから。当然です」


 リリスが、当然のように言った。


「私たち、勇者様の働になりたいんです」


 ベルが、耳元で囁いた。


 背筋が、ゾクゾクと震える。


「勇者様……温かいです」


 フレアが、俺の胸に顔を埋めた。


 ——無理。

 眠れるわけがない。


「……」


 なんか、過保護すぎないか?


 でも——


 悪くない。


 むしろ——


 ——これ、魔王より幸せじゃない?


---


 数日が経った。


 俺は、魔王城での生活にすっかり馴染んでいた。


「勇者様、今日のおやつは、特製のシュークリームです」


「勇者様、肩がお凝りではありませんか? マッサージいたしますわ」


「勇者様、今夜は一緒に星を見ませんか?」


 至れり尽くせりだ。


 元の世界では、一人暮らしだった。


 仕事に追われて、恋人もいなかった。


 それが——


 今は、美少女三人に囲まれて、毎日チヤホヤされている。


 ——帰れなくて、よかったかもしれない。


 そんなことを思い始めていた。


---


 ある日——


 俺は、魔王城の奥にある、古い部屋を見つけた。


「この部屋は……?」


「前の魔王様の……私室です」


 リリスが、少し暗い顔で答えた。


「入っても?」


「……どうぞ」


 部屋の中は、埃をかぶっていた。


 本棚には、古い本が並んでいる。


 机の上には——


 日記帳があった。


 なんとなく、手に取って開いてみる。


『百年目——この城にも慣れてきた』

『二百年目——もう、元の世界のことは忘れた』

『三百年目——そろそろ、終わりにしたい』


 ——終わりにしたい?


 俺は、ページをめくった。


『誰か——俺を倒してくれ』

『この城から、解放してくれ』

『次の勇者が来たら——俺は、喜んで首を差し出そう』


 ——待て。


 この日記——


 書いたのは、魔王だ。


 魔王が——「終わりにしたい」と——


「リリス」


「はい」


「前の魔王は——何者だった?」


 リリスが、俺を見つめた。


 その目には——哀しみが浮かんでいる。


「……勇者様と、同じです」


「同じ?」


「異世界から召喚された——勇者でした」


 ——は?


「前の魔王を倒して、帰れなくなって——この城に住み着いて——そして、いつの間にか、魔王と呼ばれるようになったのです」


 俺は——


 言葉を失った。


「三百年間——この城で、一人で——」


「私たちは、お仕えしていました。でも——最後の百年は、魔王様はもう……疲れ切っていました」


 リリスの目から、涙が溢れた。


「だから——勇者様が来た時、魔王様は……嬉しそうでした」


 ——嬉しそう?


 俺に殺されることが?


「解放されたのです。三百年の孤独から」


 俺は——


 魔王の日記を、握りしめた。


『次の勇者よ——俺と同じ道を歩むな』

『この城から、出ろ』

『人間の世界で、人間として生きろ』


 ——前の魔王からの、遺言だった。


---


 その夜——


 俺は、考えていた。


 前の魔王も——元は勇者だった。


 帰れなくなって、この城に住み着いて——


 三百年かけて、魔王になった。


 俺も——同じ道を歩むのか?


 百年、二百年——


 やがて「魔王」と呼ばれるようになって——


 そして——


 次の勇者に、殺されるのを待つのか?


「……考えすぎだな」


 俺は、窓の外を見た。


 満天の星空。


 元の世界では、こんな綺麗な星は見えなかった。


「勇者様」


 リリスが、部屋に入ってきた。


「眠れませんか?」


「ああ……少し」


「何か、お悩みですか?」


「……」


 俺は、少し迷って——


 正直に言った。


「俺も——魔王になるのかな」


 リリスが、俺の隣に座った。


「なりたいですか?」


「いや……なりたくはない」


「では、ならなければいいのです」


 リリスが、微笑んだ。


「前の魔王様は——孤独でした。三百年間、誰にも心を開かなかった」


「……」


「でも、勇者様は違います。私たちを——仲間として、見てくださっている」


 リリスの手が、俺の手に触れた。


 小さくて、柔らかい手。


「だから——大丈夫です。私たちが、傍にいますから」


 リリスが、俺の肩にもたれかかった。


 銀髪が、ふわりと俺の顔に触れる。

 いい匂いがする。


 リリスの紫の瞳が、至近距離で俺を見つめている。


「リリス……」

「勇者様……」


 唇が——近い。


 心臓が、ドクドクと速鳴りする。


「……私は、勇者様のことが——」


 リリスが、何か言いかけた。


 でも——


「……いえ、今は、やめておきます」


 リリスが、少し離れた。


 ——今は?


 俺は——


 少しだけ、救われた気がした。


---


 翌朝——


 俺は、決意した。


 この城に住み続ける。


 でも——魔王にはならない。


 前の魔王のように、孤独にはならない。


 リリスたちと一緒に——


 人間として、生きていく。


「勇者様! 大変です!」


 朝食を食べていると——


 ベルが、慌てて駆け込んできた。


「どうした?」


「人間の国から——報告が——!」


 ベルが、息を切らせながら言った。


「新しい勇者が——召喚されたそうです!」


「……は?」


「『新魔王を討伐する』と——各地で冒険者を集めているとか——!」


 俺は——


 フォークを落とした。


「新魔王……?」


「はい! なんでも——『魔王城に居座っている悪の存在を倒す』と——!」


 ——待て。


 新魔王って——


 俺のことか?


「勇者様……」


 リリスが、哀しそうに俺を見つめている。


「——始まりましたね」


 俺は——


 ようやく理解した。


 前の魔王も——こうやって「魔王」になったのだ。


 勇者が——魔王になる。


 そして——次の勇者に倒される。


 その繰り返し。


 三百年前も——今も——


 何も変わらない。


「……冗談じゃねえ」


 俺は、立ち上がった。


「俺は魔王じゃない。勇者だ」


「でも、人間たちは——」


「関係ない。俺が魔王じゃないって、証明してやる」


 俺は、剣を手に取った。


「——新しい勇者とやらに、直接会いに行く」


 リリスたちが、驚いた顔をした。


「勇者様……」


「心配するな。話し合えば分かる——と、思いたい」


 俺は、苦笑した。


 前の魔王は——諦めた。


 三百年間、城に閉じこもって——


 最後は、殺されることを望んだ。


 でも——


 俺は、諦めない。


 俺は——勇者だから。


「リリス、ベル、フレア」


「はい」


「俺が帰ってくるまで——城を頼む」


 三人が、涙ぐみながら頷いた。


「必ず——帰ってきてください」


「ああ」


 俺は——魔王城を出た。


 新しい勇者に、会いに行くために。


 俺は魔王じゃない——そう、証明するために。


---


 後日談——


「で、その新しい勇者はどうだった?」


 リリスが、俺に聞いてきた。


 俺は——溜息をついた。


「……十四歳の女の子だった」


「女の子?」


「ああ。中学二年生——俺と同じ、異世界から召喚されたらしい」


 俺は、あの時のことを思い出した。


---


 新勇者を探して、人間の国にたどり着いた。


 広場で「打倒魔王!」と叫んでいる集団を見つけた。


 その中心に——小さな女の子がいた。


 銀色のロングヘア。青い瞳。

 まだあどけなさの残る顔立ち。

 白いローブに、身の丈に合わない大きな杖。


 ——子供じゃないか。


 俺は、近づいていった。


「お前が、新しい勇者か?」


 女の子が、俺を見上げた。


「え——あなたは——」


 周囲の冒険者たちが、ざわめいた。


「魔王だ! 魔王が来たぞ!」

「勇者様、お下がりを!」


 女の子が、杖を構えた。


 ——震えている。


 手も、足も、声も。


「ま、魔王! わ、私が——倒してやるんだから——!」


 涙目だった。


 ——怖いのに、無理をしている。


「……」


 俺は、溜息をついた。


「俺は魔王じゃない」


「え……?」


「前の魔王を倒した勇者だ。——お前と同じ」


 女の子の目が、大きく見開かれた。


「ど、同じ……?」

「ああ。異世界から召喚されて、帰れなくなった」

「帰れない——」


 女の子の唇が、震えた。


「わ、私も——帰れないの……?」


 俺は——


 何も言えなかった。


 女の子の目から、涙が溢れた。


「いやだ……帰りたい……お母さんに会いたい……」


 泣き出してしまった。


 周囲の冒険者たちが、困惑している。


「ちょ、ちょっと——泣くなよ——」


 俺は、女の子の頭を撫でた。


「……っ」


 女の子が、俺を見上げた。


「大丈夫だ。俺がいる」

「……」

「一人じゃない。——俺と一緒に、来るか?」


 女の子が、しばらく俺を見つめていた。


 そして——


「……魔王さんって——優しいんですね」


「だから、魔王じゃないって」


「でも——怖くない魔王さん」


 女の子が、少しだけ笑った。


「……一緒に、行っていいですか?」


「ああ」


 俺は、女の子の手を取った。


「名前は?」

「……ミオです。佐藤ミオ」

「俺は——まあ、勇者だ。先輩勇者、とでも呼んでくれ」

「先輩勇者さん……」


 ミオが、俺の手をぎゅっと握った。


「——よろしくお願いします」


---


「——というわけで、連れてきた」


 俺は、リリスに説明を終えた。


「なるほど」


 リリスが、頷いた。


「それで——」


 ドアが開いて——


 銀髪の少女が、おずおずと入ってきた。


「あ、あの……お邪魔します……」


 ミオだ。


 魔王城に来てから、緊張しっぱなしだ。


 リリスが、目を輝かせた。


「まあ! 可愛らしい!」


「ひゃっ——!?」


 リリスが、ミオに飛びついた。


「ふわふわの髪——! 綺麗な瞳——! 小さくて可愛い——!」


「あ、あの——! 苦しいです——!」


 ミオが、リリスの胸に埋もれていた。


 ——羨ましい。


「リリス、離してやれ」


「あら、ごめんなさい。つい」


 リリスが、ミオを解放した。


 ミオが、顔を真っ赤にしている。


「お、おっきい……」


「何がですか?」


「な、なんでもないです……!」


 ミオが、慌てて首を振った。


 ベルとフレアも、興味津々でミオを見ている。


「可愛い子ですわね」

「妹みたいで、いいですね」


 ミオが、きょろきょろと周りを見回した。


「あの……ここ、本当に魔王城ですか……?」


「ああ」


「みんな——優しい……」


 ミオの目が、また潤んだ。


「私——怖い魔物がいっぱいいると思ってた……でも——」


 ミオが、涙を拭った。


「お姉さんたち、みんな優しい……」


 リリスたちが、顔を見合わせた。


 そして——笑った。


「ここは、あなたの家ですよ——ミオちゃん」


「私の——家……」


 ミオの顔が、ぱあっと明るくなった。


「はい! よろしくお願いします! 先輩勇者さん! お姉さんたち!」


 俺は、ミオの頭を撫でた。


「よろしく——ミオ」


 ミオが、嬉しそうに笑った。


 ——先輩勇者。


 悪くない呼び方だ。


 こうして——


 魔王城の住人は、一人増えた。


 もしかしたら——これからも、増え続けるのかもしれない。


 帰れなくなった勇者たちが——


 この城に、集まってくる。


 前の魔王は——一人で、三百年を過ごした。


 でも、俺は——


 仲間と一緒に、生きていく。


 ミオを守りながら——


 リリスたちと一緒に——


 それが——


 俺なりの、勇者の生き方だ。


(完)


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