七話 ひきづり村と秋本さやか
「・・・・・・あのさぁ、神社であぎとくんが一緒に居た女の子【秋本さやか】ちゃんと名乗ってたって、言わなかったですっけ!? ソレが本物かどうかは分からないですけど、少なくとも、その子は行方不明の子の名前を名乗ったって事ですよね!? 本当にもう嫌なんですけど、あからさまに元凶の本家本元がコッチにコンタクトしてきてないですか!?」
「そうですね、あい、そうなんですよ」
声を荒げる私に高倉さんが何度か頷く。
彼は彼であぎとくんが廃神社で秋本さやかに出会ったと聞いて、ちょっとは驚いているらしい。
ソレが演技ではなければの話だが。
「まさか、行方不明の秋本さやかさんが、もしくはそう名乗る人間が廃神社にいたとは・・・・・・」
そう言って彼は紙パックの蜜柑ジュースに手をつける。
あぎとくんに出したものである。
あぎとくんが全く手をつけなかったからかもしれないが、まさかそれを飲むとは。
新しいものを出せばいいのに。
予算がないのだろうか?
「・・・・・・あぁ、うん。まぁ、とりあえず、秋本家に話を聞きにいこう」
あぎとくんの方は何でもなさそうに続ける。
別に気にしていないらしい。
いや、別にあぎとくんが気にしていないならいいのだけど。
「あぁ、いやいやいや」
そのあぎとくんの提案を高倉さんが両手を振って拒否した。
「まずは此方から話を通してみますから、座っていてください」
高倉さんが私とあぎとくんを手で制して立ち上がる。
そして、大股で扉へと向かう。
扉を開け、もう一度こちらを振り返り、
「くれっぐれも! 勝手には動かんようにしてください」
そう釘を差して、扉を閉めて出て行った。
「・・・・・・解決させる気がなくない?」
「・・・・・・解決させる気がないですね」
あぎとくんが此方に目線を向け、私もあぎとくんを見て頷いた。
まぁ、村社会だしな。
そういう上下左右の繋がりが強いのだろう。
秋本さやかの父親は此方との対話を拒否した。
「【秋本さやか】がうちん村に馴染むための邪魔になるから、言われましてな」
高倉さんがやはり、額をハンカチで拭いながら説明する。
心なしかハンカチを動かす速度が速い気がする。
いや、気がするではなく、普通に早い。
焦りか、それとも、私たちへの後ろ暗さだろうか。
「・・・・・・ともかく、落ち着くまで秋本家のもんには近寄らずにそっとしておいてくれ、ということでした」
「・・・・・・えぇっと」
私は額に手を当て、言葉を探す。
言いたいことがあり過ぎて、何から言っていいのか分からない。
だが、そう。
「・・・・・・その【秋本さやか】を探すために、あぎとくんを攫って呪ってきたんじゃないんですか? そこまで解決しようとしたのは【秋本さやか】関係だと思ったんですけど。なのに【秋本さやか】が落ち着くまで? いるんじゃないですか【秋山さやか】
・・・・・・つまり、一体どういう事なんですか?」
呆れたように、高倉さんを見やる。
高倉さんの汗を拭う手が数秒止まり、また再開する。
どうしても、汗を拭きたいらしい。
「は? 何、僕は誘拐・呪われ損っていうわけ? だとすれば、僕とおわりちゃんの時間を何の理由もなく潰されたんだけど、どうやって埋め合わせするつもりなの? 本当に信じられないんだけど。もしかして、アンタって自分が困ってたら、他人には何をしても良いとか思ってる頭おかしいタイプなの? 本当に信じられない。生まれてこの方、人に迷惑しかかけたことしかない人間なの? それとも、人に迷惑をかけることに喜びを感じるタイプのヤバい人間なの? なんで、僕の人生に現れたの? さっさと退場してくれない?」
あぎとくんも怒りを感じているようだ。
というか、ブチギレている。
まぁ、分かる。
「い、いえ、あの・・・・・・秋本家からすれば【秋本さやか】は戻ってきている、ということで・・・・・・」
高倉さんの額から、拭いきれなかった汗が一筋垂れていった。
だが、落ちきる前に、高倉さんがハンカチに汗を吸わせる。
まるで、汗がどこにあるのか全部見えているかのような、ナイスキャッチだったなぁ、と投げやりに思う。
いや、そうではない。
そうではないが、だとすれば。
だとすればだ。
あぎとくんが廃神社で出会ったという【秋本さやか】は本物だった、ということか。
本物が廃神社に潜んでいて、そこにあぎとくんが来てしまったから、見つかったと思って家に帰っていった?
だが、それでは残されていたという左足はどうなるのだろう。
それは今まで通り誰かの、いや何かの左足だった、ということか。
それが、再び現れたので恐怖を感じて家出した?
「・・・・・・まぁ、見つかったなら、良いじゃないですか」
私は少しヤケクソ気味に高倉さんに言って、両手を後ろについて背中を伸ばす。
そして、大きく息を吐く。
「彼女、無事だったんでしょう?」
無事ならば何よりだ。
二週目が本人を左足だけにされるのではなく、左足を置いていかれるだけならば、まだマシだろう。
嫌ではあるが、命の危機がないならその方がいいのだから。
「・・・・・・いえ、【秋本さやか】が無事な筈はないんです」
高倉さんが言い切った。
断言である。
思わず高倉さんを見るが、彼の表情は先程と全く変わらなかった。
彼はただひたすらに汗を拭っている。




