表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/50

六話 ひきづり村と子供たち



 秋本さやか、小学六年生。

 加山信二、小学四年生。

 佐々木隆也、小学二年生。

 柴田結衣、小学三年生。

 松本大和、小学六年生。



 ひきづり村の小学生は五名だ。

 学年は違うものの、その少人数の為に合同で授業を行っている。

 何度も小学校を取り壊す案がでているが、村人からの反発が強く、未だに現存しているらしい。

 多分、私達では把握しきれない、お金だの権力だの何だのが動いているのだろう。

 中学、高校は流石に村外だが、学生達は当然のように、数時間かけて村から通学しているらしい。

 寮もあるだろうに、ご苦労なことだ。

 なぜ、苦労を買って出るのか。


 まぁ、他の村民たちの視線が気になるのだろう。

 そして、こういう村民たちの視線というのは、ハグレモノを見つけて排除するタイプのソレだ。

 ちょっと他の村民たちと違うことをしたら、家族ごと迫害を受けました、なんて笑えないが、よくある話なのである。




 閑話休題、本題だ。




 まず最初に左足を持って帰ったのは秋本さやか。

 地元の名士、秋本家の末っ子にして唯一の女の子である。

 それはそれは可愛がられている、というのが高倉さんの談である。

 そして、あぎとくんが廃神社で出会ったという女の子が名乗った名前だ。

 まぁ、本人かどうかは分からないけれど。


 そんな彼女が半年ほど前、まるで、今し方そこで切り落としてきましたとばかりに瑞々しい──人間の左足を抱えて自宅に帰ってきた。

 それが全ての始まりだったらしい。

 そんな彼女を迎え入れた秋本家は当然・・・・・・事態の隠蔽をはかった。


 事態の隠蔽。

 そして、それはなされた。

 ソレはなかったことになったのだ。

 だが、それは小さな田舎村の出来事である。

 人の口から口へと囁かれた。

 つまり【何もなかった】は公然の秘密──誰もが知っている事実ということだ。

 だからこそ、それから起こる事は全て【秋本さやか】のせいだと語る人間も多い、らしい。

 まぁ、地元の名士である秋本家に対して、そう語っているという人間は一向に判明しないらしいのだけれど。



 次は加山信二。

 その半月後に、彼は二日間行方不明となり、干からびてミイラのようになった左足を持って自宅に帰ってきた。

 行方不明だった時のことは、覚えていないという。

 彼はひきづり村の駐在の息子だった。

 その駐在は本署へ連絡を取ろうとしたが、村の話し合いの結果【双方合意の上】で口を噤むこととなったらしい。

 双方合意、いい言葉だ。

 すごく、都合がいい。

 勿論、ひきづり村にとって。

 恐らく、怪異にとってもだ。



 そして、再び【何もなかった】事になった。



 だが、事態は一向に鎮火しない。


 次は佐々木隆也。

 その二ヶ月後、午後五時「隆也がまだ帰ってこない!!」と佐々木隆也の過保護な母親が、村中に電話をかけて怒鳴りつけた。

 そして、母親からの強い要求により、青年団が捜索を開始。

 当初はいつものように「ちょっと、外で遊んでいたら母親が騒ぎ出した」だけと考えられていたらしい。

 なので、捜索をしつつも、そこまでしっかりとしたものではなく、ただ母親にクレームを付けられない為のポーズだったようだ。

 だが、午後八時になっても、佐々木隆也は発見されなかった。

 小さい村の何処を探してもいないということで、山で遭難した可能性が浮上。

 村中総出での捜索開始・・・・・・しようとしたその目前、彼は学校の校庭で発見された。

 その手には当然のように嬰児の左足が抱えられており、茫然自失状態であったのだという。

 彼は一ヶ月ほど会話がままならず、焦点も定まらなかったらしい。



 その次は松本大和。

 彼は佐々木隆也の事件以降、学校には行かずに松本家の奥座敷に籠もっていた。

 それが本人の希望か家族の勧めかは分からない。

 まぁ、今までの三人を見れば「次は自分だ」とも「次は家の子供かもしれない」とも思うだろう。

 そして、その予想は当然のように当たるわけである。

 いや、結果だけ言えば、松本大和は左足を抱えることにはならなかった。




 左足の方が来たのだ。




 毎晩毎晩、松本家の前には左足が出現し、立ち尽くす。

 これが三ヶ月前から一ヶ月前まで、実に二ヶ月続くことになったらしい。

 それは松本大和がどこにいても、彼がその夜に過ごす家の前に現れた。

 場所を何度も移動したせいで目撃者は多数。

 もはや村中の人間が見たと言っても過言ではなく、高倉さんもこの時それを視認したらしい。

 怖いもの見たさや見物目的の村人ももちろんいたが、何の心構えもなく見てしまった村人も多くいた。

 そして、ここで初めて霊能力者を頼るという案が出たのだという。

 ・・・・・・まぁ、失敗したらしいが。


 そして、松本家の人間を自宅に迎える家はなくなった。

 当たり前である、自分の家に泊めれば夜中に左足がやってくるのだ。

 溜まったものではないだろう。

 また、多数のクレームを受けて、空き家に泊まらないようにと村役場から松本家への勧告も何度かあったらしい。


 ──その結果、発狂した松本大和の母親が松本家の前に佇む左足に放火した。

 そして、今まで立ち尽くしていただけだった左足はそこで漸く動いた。


 大暴れだった、らしい。



 目撃者の証言では、炎上する左足は何もかもが見えているかのように松本家の人々を追い回したそうだ。

 松本家は全焼し、松本家は死人こそでなかったものの家を失い、それぞれに酷い火傷を負った。

 母親は火傷も酷かったが、精神にも異常をきたし、遠い病院で入院することになったのだという。

 そして、審議は定かではないが、未だに松本大和の寝る建物の前には、左足が立ち尽くしていて、今は【病院】の内部に侵入し彼の病室の前に立ち尽くすようになっているらしい。



 そして、柴田結衣。

 彼女も自宅学習を行っていたが、二週間前に母親が数分目を離した結果失踪。

 三十分後に彼女の東京に住む親戚の家の一室で見つかった。


 もちろん、左足を持った状態で。


 彼女は茫然自失──まではいかないものの、唖然とした「どうして自分がここにいるのか分からない」という顔で部屋にいたらしい。

 東京。

 そう、東京である。

 ひきづり村から東京への瞬間移動。

 明らかな怪異事象ではあるが、そんなニュースは聞いたことがない。

 小さく小さく取り上げられたのか、それとも東京にいる彼女の親戚の家にすらひきづり村が圧力をかけたのだろうか。




 以上、五名で左足忌憚終了・・・・・・とはならなかった。





 一週間前、秋本さやかは行方不明となった。

 彼女が寝ていたはずの布団の中に彼女自身の左足だけを残して。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ